279.何が違うの?
ナガレとクロアの場面へと戻ります。
「私達が開発したヘッドギアは、ただVRゲームにアクセスするだけの機能しかついとらんよ」
カイゾウの発言に、ナガレは衝撃を受けた。
「そう……ですか」
ナガレは、当たって欲しくなかった、と表情を暗くする。
「どういうことよ? 別世界のVRゲームとかインターネットにアクセスする機能が付いてるんじゃないの?」
対して、クロアはチンプンカンプンなようで、頭を悩ませていた。
「異世界、そんなものがあれば実に楽しいだろうね。だからこそ、私もこれを開発したのだよ」
ブリリアントサイバーの社長、カイゾウが言う。
「双葉さんは気が付いているようだけど、改めて説明するよ」
ナガレは先程の会話で理解できていたが、クロアはそうではない。
そんなクロアに向け、カイゾウは言う。
「まず、ゲームの中でゲームをした経験はあるかな?」
「ありますわよ!」
「……タメ口でいいよ? 辛そうだ。ともかく、あるんだね?」
「ええ! 例えば、RPGのゲームの中でスロットマシーンをしたりとかよね? それだったらあるわ!」
「うむ! だったら簡単に説明できる! ガールズワールドオンラインは、そのスロットマシーンなのだよ」
「??」
再びクロアは頭を悩ませる。
「よく分からないわ!」
クロアはドヤ顔で腕を組んだ。
「そ、そうか。君の場合は例えずにシンプルに行った方が伝わりやすそうだね。簡単に言うと、君達は【ワールド】という、私達が開発したゲームの中のキャラクターが生成した【ガールズワールドオンライン】というゲームにアクセスしていただけなのだよ」
「ワールド……? ってことはつまり、ガールズワールドオンラインだけじゃなくて、そもそもあっち……漆歴2022年の世界もゲームの世界だったってこと?」
「うむ! その通りだ! VRゲームを遊ぶハードも勿論技術の結晶だが、ワールドもそれに劣らない程に素晴らしい物だ!」
【ワールド】それがどのようなゲームかを、クロア、そしてナガレに伝える。
ワールド……それはゲームソフトと言っていいかどうか分からない高度なものである。
世界を創るソフトウェア、そう言った方が正しいかもしれない。
無数の世界を生成するソフトウェアだ。
(ってことは、ミーナちゃんが元いた世界も、ワールドの中の1つの世界に過ぎないってことなんだ……)
アルカ達にとって、確かにミーナは異世界から来た人間だ。
だが、ナガレ達にとっては等しく、【ワールド】の中の内の1つの世界に過ぎない。
「究極の人工知能っていうのは面白いものでな。初期設定さえすれば、後は勝手に世界を発展させてくれているわい。中には異世界を創造するキャラクターも現れ、今やワールドの中の世界の数は数え切れなくなってるね」
表には出さず、【ワールド】のみに使用しているという、究極の人工知能。
どうやって開発したかは分からないが、カイゾウはかなりの腕を持った技術者でもあるのだろう。
「ふーん」
悲しんでいるナガレとは対照的に、クロアの反応は「そーなんだ」くらいのものであった。
「クロアちゃんは、平気なの?」
「別に? だって人工知能だって関係なくない? これからも普通に遊べばいいと思うわ」
「だって、ゲームのキャラだよ? これから色んな人と色んなこと話したり、相談したりしたかったのに……楽しい思い出作りたかったのに」
「作ればいいじゃないの! ここで言われるまで気が付かなかったんでしょ? だったら別に普通の人間と同じなんじゃないの?」
確かにそうだ。
ここで言われるまで、ナガレはアルカ達を普通の人間だと思って接していた。
「例えば、例えばよ? 私が人工知能を搭載したロボットだってここで言ったら、ナガレは私と友達辞める?」
「辞めないけど……」
「だったら、変わりないはずよ。そもそも、私達は知ってるわよ。【ワールド】……いえ、漆歴の皆が普通に生活して、悩みだってあるってことをね! 特にアルカみたいな面倒な存在、人工知能としては不完全過ぎるわ! あんなヘタレなの、今……西暦2009年の日本の男と何も変わらないわ!」
「でも……不完全さがあるってことはそれだけ人間を完璧に再現できているってことで……あっ!」
「そうよ! そこまで完璧に人間を再現できているのよ! だったら、それこそ何が違うの?」
クロアは、優しい笑みを浮かべ、ナガレの頭を撫でる。
「大体、ナガレに悲劇のヒロインは似合わないわ!」
「そう、だね……そうだね!」
ナガレは表情を明るくする。
「ふむ。素晴らしい友情だな。だが……今の話を聞いていると、言いにくくなってしまうな」
「なにをですか? も、もしかして、ヘッドギアが故障したとかですか!?」
ナガレは「だったら急いで直してもらわないと!」と考える。
だが、実際は違った要件であった。
「あまりレディは悲しませたくないんだけどよぉ! 仕方ねぇんだ!」
ブリリアントサイバーの副社長である、エンジョウが顔を逸らす。
「どういうこと?」
クロアが顔をしかめる。
流石のクロアも嫌な予感がしたようだ。
そして、その予感は当たってしまう。
「【ワールド】を……いや、VRゲームに関する全てを無かったことにしようと考えている」




