278.聞かない方がいい
「ひっ」
ミーナがその声に怯えると、その声の主が空から降って来た。
「お゛い゛! 久しぶりだな、錬金術師! お゛い゛!」
「か、神ゴッドさん!?」
金髪のヤンキーっぽい雰囲気のこのプレイヤー、名前は神ゴッド。
マナーが悪いことで有名だ。
以前アルカが戦闘をした際にも、暴言をはきまくっていた。
「ああ、すみませんね。馬鹿弟子が騒がしくて。私はなにもされてませんよ」
「お゛い゛! 私は馬鹿弟子じゃねぇぞ!」
女神様以外は状況がよく分かっていないようで、首を傾げている。
「馬鹿ですよ。大体貴方、使命を忘れたのですか?」
「お゛い゛! 私の使命はなぁ!! ミーナを観察し、その結果を届けることだぞ? お゛い゛!」
「それで、実際にそれはやってくれましたか?」
「お゛い゛! んな面倒なことすっか、ボケ!」
それどころか、ミーナの不安を煽って楽しんでいた。
「私を観察……?」
「ごめんなさい。私がミーナと直接会う訳にはいかないと判断した結果、観察役として馬鹿弟子を派遣したのです」
「あー、だからあの人、私に絡んで来たんですね」
「はい。怖い思いをさせて申し訳ありませんでした」
「いえ、理由が分かれば別に怖くないです! というか、師匠って私以外に弟子いたんですね」
「錬金術師の弟子はミーナ、貴方だけです」
「ということは?」
「私が女神を引退した後、あの世界の神となる予定の人物です。要するに女神としての私の弟子ですね」
「え……」
神ゴッドに明らかに神の器はない。
そう感じたミーナは不安になった。
「不安そうですね。私もそう思います。おまけに神見習いの権限を使って、漆歴の世界に転移までしちゃってますからね」
「お゛い゛! 私はな、束縛が大嫌いなんだ。お゛い゛!」
アルカは不安になった。
(俺達の世界に神ゴッドが普通に生活してるのか……)
「というか、師匠は女神辞めちゃうんですか……?」
「はい。“あの世界”の女神は引退します」
「というと?」
「これは、先程私がミーナに伝えようとしていた“2つ目”に関連することなので、詳しくはまだ言いませんが、元の鞘に収まるといった所です」
「よく分かりませんが……大丈夫なんですか?」
「なにがですか?」
「あの人に神をやらせても」
「確かに、不安はありますが、正直それ所じゃないのです」
全てを聞いていたケンヤは面白く無さそうな表情をする。
「女神様、僕を仲間外れにしないでくれないかな?」
「ケンヤさん、丁度いいです。貴方にも聞いておいて欲しいのです」
「僕に? 関係ある話なのかい?」
「はい、重大な話です。ケンヤさんに……いえ、漆歴の皆さんに関係のある話です」
「どういうことだい? 異世界の連中でも攻めて来るのか? 安心してよ。ブレイドアロー社では戦闘用のロボットも開発していてだね」
ケンヤが言い終える前に、女神様が口を挟む。
「そんなものではどうにもなりません」
「そんなものだと!? ふざけるなよ!! 異世界の女神だか錬金術師だか知らないけど、ここに来た瞬間、僕に支配されたゲームの登場人物に過ぎないんだからね!」
支配しきれてはいないのだが。
「ケンヤさん。本当にいいのですか?」
「なにが?」
「今から私が話す“2つ目”のことを話しても、発狂しませんか?」
「僕を甘く見ないで欲しいな」
「そうですか」
女神様はアルカを見る。
「貴方は……」
「あ、俺ですか?」
「はい。正直、こっちの世界のごく普通の人に“2つ目”を伝えるのは刺激が強いかと思われまして」
「そんなに不味いことなんですか?」
「……はい」
女神様は気まずそうな表情で目を逸らした。
「だったら、1つ訊いていいですか?」
「なんでしょうか?」
「それは、俺が……いや、俺達が聞いて、どうにかなることですか?」
女神様が口を開かない。
「正直に言います。無理です。貴方達じゃどうにもなりません」
「そうですか、正直にありがとうございます」
それを聞いたケンヤがキレる。
「ちょっとちょっと! 僕を甘く見てるんじゃないの? ふざけるなよ!!」
叫ぶケンヤに対し、神ゴッドがキレる。
「お゛い゛! うっせえんだよ! ボケが!! お゛い゛!!」
「ふざけるなよ!! 神ゴッドとか、名前からして痛々しすぎるんだよ!!」
どちらもうるさい。
ミーナは「まぁまぁ」と、言い争いを止めようとする。
女神様とアルカは少し場所を移した。
「ごめんなさいね。馬鹿弟子がうるさくて」
「いや、大丈夫です。それより、ケンヤさんでもどうにもならないっていうのはちょっと意外です。ケンヤさんの会社、ブレイドアロー社の技術力はかなりのものですよ?」
「それでも無理です。おそらく、漆歴の全員が力を合わせてもどうにもならないでしょう。正直、今の所、運ゲーって奴です」
「漆歴……つまり、俺達の世界の皆が集まっても無理か……そうか」
「本当に心苦しいです。私も最善を尽くしてはいます。もう少し……もう少し時間があれば解決するんです」
「時間?」
「はい。ともかく、貴方達にできることは、現時点では何もありません。それでも……それでも聞きたいですか? “2つ目”を」
アルカは考える。
そして。
「やめておきます。話だけ聞いていると、聞かない方が幸せなままでいられそうな気がするんです」
女神様はニコリと笑う。
「分かりました」
「否定しないんですか?」
「はい。それが正しいか正しくないか。そんなもの、私にも分かりません」
女神様はアルカにお辞儀をする。
「おそらく、もう会わないかもしれません。礼を言わせてください。ミーナのお友達になってくれて、ありがとうございました」
(ありがとうございました……か)
アルカは女神様に言う。
「いえ、ミーナさんは錬金術師として、かなりの活躍をしてくれました。そして、なにより俺のクランには必要な存在です。これからも、共に楽しいゲームプレイは続けます」
「安心しました。ミーナはこちらの世界でも変わらずなんですね」
「はい。元気でいい娘です。では」
アルカは砂漠の喫茶へ戻るドアへと手をかける。
「ミーナ、ケンヤさん。俺には“2つ目”を聞く勇気がない。だから、一足先に戻らせて貰うよ」
そのまま、砂漠の喫茶へと帰還した。




