277.ミーナの師匠
驚き、そして言っていることが理解できた途端、ミーナの表情は明るくなる。
「本当ですか!?」
「ウ・ソ・だ」
「え!?」
ケンヤは10秒くらい爆笑すると、「ふっ」と上を見て笑う。
「冗談だ。僕を誰だと思っている?」
ブレイドアロー社の社長である。
それはミーナも分かっているが、ミーナですらその謎の感性に付いていけないようで、ポカンとしていた。
「僕はね。君の師匠をこのゲーム内に登場させたことがある。アルカさんは戦ったことがあったよね?」
「ああ。強かったぜ」
強敵だったが、そのおかげで【女神モード】を使用できるようになったのだ。
「彼女は突然、異世界からこのゲームに侵入してきたらしくね。仕方がないから居ていいよって言ったら暇潰しをしたいとのことだったからバイトをさせてたのさ」
「ん? ミーナの師匠って電子生命体だったのか?」
そもそも世界を渡ること自体がおかしいのだが、そこが剣と魔法の世界だということはミーナから聞いていたので、そこに疑問は抱かなかった。
アルカが疑問に思っているのは、「電子生命体でもないのに、なぜこのゲームに直接転移できたのか?」という点である。
「なんかそんな感じの魔法を使ったみたいだよ。詳しくは教えて貰えなかったけど」
「このゲーム内はケンヤさんの支配領域じゃないのか?」
「どうも、彼女は僕の支配を受けないらしい。流石異世界人だ。非常に不快だ」
ケンヤは不機嫌そうな表情を浮かべる。
実際に不機嫌なようで、舌打ちをした。
「と、とりあえず早く会わせてください!」
「随分と嬉しそうだね。ま、当然か。いいよ、今から行こう。アルカさんもいいよね?」
アルカは頷く。
「別に構わないけど……ミーナの師匠は今どこにいるんだ?」
「第100層だよ」
「ひゃ、ひゃくぅ!?」
驚くアルカに対し、ケンヤはチッチッチと指を振る。
「なに、実装するのは数年先……いや、もっと先になるから、今は彼女のいこいのスペースのような場所だよ。当然、正規の方法では行けない。けど、こうするればっ!」
ケンヤは社長専用のメニュ画面を開くと、操作をする。
「ほい」
砂漠の喫茶に新たなドアが出現した。
「ここからエリア移動をすれば、第100層にまで行けるよ。僕に感謝するんだね」
「はい! ありがとうございます!」
「おお! いいねいいね! もっと褒めて!」
ミーナに褒められ、ニヤニヤしながら照れるケンヤであった。
「こんなチートみたいなことして俺達BANされないだろうか……?」
「アルカさん、心配要らないよ。なにかあったら僕が揉み消すから」
「揉み消すって……」
「ま、心配しないで。行こうか! 感動の再会だ!」
そして、ミーナがドアを勢いよく開く。
「師匠!!」
ドアに入り、ミーナが勢いよく叫ぶが返答がない。
「師匠! 師匠! どこですか!?」
ミーナは走る。
雪道のようなエリアで寒そうだが、そんなの気にしないで走り続ける。
「師匠!!」
見つけた。
金髪で白い衣装に身を包み、綺麗な長い金髪に真っ白な翼を生やした、正に女神と言ってもいいような女性だ。
「師匠! 師匠だ! 分身体だけど、師匠だ! そうですよね!!??」
「ミーナ!?」
師匠と呼ばれた女性が目を丸くする。
「師匠!!」
ミーナは嬉しそうな表情で、涙を流しながら師匠に抱き付いた。
「なんでここにミーナがいるんですか?」
「それはね! それはね!」
後ろから、漆黒の龍アルカ、ブレイドアロー社の社長ケンヤがやって来る。
ミルは店番の為、砂漠の喫茶に残ったようだ。
「僕がやったのさ」
「ケンヤさん、どういうことですか?」
ミーナの頭を撫でながら、ミーナの師匠がケンヤを睨む。
「どういうことって、ファンサービスだよ、ファンサービス」
「私、言いましたよね? ここで会わせてはミーナの為にならないと」
「言ったかなー? 言ったかもねー!! でも、僕忘れっぽいからさー」
ミーナの師匠はため息をつく。
「信じた私が馬鹿でした。ですが、同時に感謝致します」
「んん? 僕は嫌がらせをしたつもりだったんだけど」
ケンヤですら、ミーナの師匠の心を読むことはできない。
だが、約束を破ればキレるだろうと想像していた。
「どういうことだ?」
ケンヤは首を傾げた。
「理由は2つあります」
ミーナの師匠は人差し指を立てる。
「まず、1つ目は正直私も可愛い弟子に会いたくてたまらなかった。けど、それだと前世に囚われ、こっちの世界で頑張っているミーナの為にならない、そう感じたので我慢していたのです。しかし、本心を言ってしまえば嬉しくてたまりません。ありがとうございます」
「照れるね」
「そして、2つ目です。これをミーナに伝えたかった」
ミーナは師匠の胸にうずめていた顔を戻すと、疑問符を浮かべたような表情をする。
「伝えたかったって……?」
「これは大事なことです。ですが、これは一旦落ち着いてから話しましょう」
「気になります!」
「焦っては駄目ですよ」
「はーい!」
ミーナの師匠が頭を撫でると、ミーナは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「お久しぶりです。女神様」
「こちらこそお久しぶりです。以前はイベントで戦いましたね」
「そうですね」
以前、アルカは女神として現れたミーナの師匠と戦ったことがある。
「なんて呼べばいいですか? 女神様? あれ? というか、元の世界でも女神様だったっけ? ミーナの師匠だから錬金術師?」
「アルさん、師匠は私の前世の世界では、私の錬金術師の師匠でもあり、女神様でもあるんですよ! 前にも話しませんでしたっけ?」
ミーナはミーナでそこまで話したかどうか自信無さげであった。
「ごめん。ちょっと混乱しちゃってな。というか、女神様とかいるのか。流石剣と魔法の世界だな。ということで、女神様って呼んでもいいですか?」
女神は頷く。
「宜しいですよ。どちらにしろ真名は明かせませんからね」
「宜しくお願いします!」
アルカはお辞儀をする。
そして、聴こえる声。
「お゛い゛! おめぇら! 私の師匠になにやってるんだ! お゛い゛!」
アルカにとってもミーナにとっても聞き覚えのある声が響いた。




