29.ロボット
次の日の夜、キメラの通う学校の生徒会長とGWO内で会う為に、待ち合わせ場所へと向かう。待ち合わせ場所は、はじまりの街の冒険者ギルド内である。現在の時刻は、20:50。待ち合わせの時間まで後10分だ。
「そういえば、生徒会長はどんなアバター何だろう。聞いてなかったな」
生徒会長は、本日が初ログインらしいので、昨日の時点では、どちらにしろ情報を得る事は出来なかった。
だが、生徒会長は、アルカのアバターをキメラから聞いているとの事なので、見つけるのは容易だろう。それにキメラが一緒であれば問題ないだろう。
アルカもキメラと生徒会長は一緒に来ると思っていたのだが、その予想は外れる事になる。
「やぁ、君がアルカ君だね」
「……?」
アルカは、有名ドラゴンだ。サインとか欲しいファンも居るかもしれない……多分。
「そうだけど……もしかして美少女コンテストでの活躍を見て来てくれたのかな……えーと……」
小学生の身体にピンク色の髪。髪型はツインテールにしており、頭のてっぺんからアホ毛が生えている少女。そんな少女の頭上には、【カノン】というプレイヤーネームと、レベル【6】という数値が表示されている。
「カノンちゃん……? で良いのかな?」
「ああ、それで構わない」
若干釣り目な彼女の瞳が、アルカを見る。
なぜかドヤ顔だ。
「カノンちゃん。申し訳無いんだけど、今から知り合いと待ち合わせがあるんだ。だからまた後日……」
アルカが申し訳無さそうに断ろうとすると、カノンは腕を組み、言う。
「ハッハッハ! 知ってるよ。何せ、私こそが! 生徒会長その人なのだからね!」
「そ、そうなのか!?」
アバターが小柄だったので、つい小学生だと思い込んでいた。
そして、何故か発言の1つ1つが自信に満ち溢れているように感じる。
「てっきりキメラちゃんと一緒に来ると思ってたよ」
「キメラ君は、リアルで大事な用が出来たみたいだから、私だけ来させて貰ったよ。と言っても今回が初ログイン、まだ不慣れな部分があるかもしれないけど宜しく頼むよ」
カノンは礼儀正しく、軽くお辞儀をした。
「こっちこそ宜しく! で、キメラちゃんから聞いたんだけど【鍛冶師】として、俺達の協力をしてくれるって……」
「勿論!! させて貰うよ。大会で君達の足手まといにならないように早速レベル上げをしていた所だ」
「ん?」
「どうしたんだい? 何かお困りのようだね」
「えーと……【鍛冶師】だよね?」
「そうだとも!!」
「足手まといにならないようにって……もしかして大会のメンバーとして出るつもり?」
「そのつもりだが、何かご不満でも?」
【鍛冶師】としてバックアップをするものだと思い込んでいたアルカであったが、まさかの大会のパーティメンバーとしての参加という事に驚いている。
「いや、それは構わないんだけど……【鍛冶師】って戦闘向けなの?」
「戦闘には向いていない……だがっ!! “作品”を創るにはまず、【鍛冶師】になる必要があるのさ!」
「作品?」
「ああ、“作品”だ。そう! ずばり、ロボットだ!!」
カノンは、両手を大きく広げ、顔を上に向け、言い放った。
「そういえば、カノンちゃんはロボットが好きだってキメラちゃんも言ってたな」
「ふふっ! だったらそれは間違いだと伝えておいてくれ」
一体何が間違っているのだろうか。
先程のテンションから、ロボット好きなのは明らかな筈ではあるが……。
「私はロボットが“大”好きなのだよ! そして……私の“作品”が生まれんだよ!! この世界で!! ドゥーファッハッハッハ!!」
「ロボットが大好きなのが伝わって来るなぁ」
アルカは、うんうんと頷いた。
好きな物について語る時は、テンションが上がってしまうものである。
「ありがとう。その言葉、有難く受け取っておくよ。さて、とりあえず自己紹介をし合おうか。お互いの事を良く知るのは、仲間としてとても大切な事だからね」
「そうだな。まずは俺から。俺の名前は、アルカ。多分このゲームで唯一のドラゴンアバターだ。職業は、【無職】、いつかはユニーク職業になるつもりだ」
「なるほど。では、次は私の番だ。私のプレイヤーネームは、【カノン】。職業は、【鍛冶師】。先程も言った通り、ロボットが大好きだ。宜しく頼むよ」
カノンは、ニコリと微笑むと、右手をアルカに差し出す。
アルカは、手が大きいので、人差し指を差し出し、握手をした。
「こちらこそ、宜しく! で、質問何だけど、その装備って初期装備?」
「これかい? これは、初期装備だね。マフラーだけ私が作った」
見るからに冒険者という雰囲気の装備は、初期装備感溢れるものであった。
風になびくと、さまになりそうな白いマフラーは、カノンの自作のようだ。
「今日が初ログインなのに凄いな」
「実は、VRゲームもはじめてなのだよ。キメラ君には頭が上がらないな」
どうやら、キメラから譲り受けたものらしい。
VRゲーム機は決して安くは無い筈なのだが、それ程までに廃部にしたくないようだ。
そして、キメラがカノンの事を信用している事が良く分かる。




