275.ケンヤとミル
ナガレ達が会社見学に行っている時のことだ。
休日ということもあり、アルカはGWOにログインしていた。
なにをしていたのかというと。
「ここは実にいいね。特にこのメロンオレは最高だ」
「甘いものが好きなのか?」
「うん。君は嫌いかな?」
「好きだぜ。特にチョコレート系がな」
「ほう」
ケンヤに誘われ、ゲーム内で話しをしていた。
いつもの真っ白な空間ではなく、GWOに1プレイヤーとして来ている。
アバターは普段真っ白な空間で使用しているものを流用しているようだ。
ということは他のアバターとは違い、別世界の自分自身ということはなく、完全に1から自作したものということだ。
名前は同じくケンヤにしているようだが、アバターの性別はGWOの法則に乗っ取り、女の子のようだ。
今はどこに来ているのかというと、【砂漠の喫茶】という喫茶店だ。
アルカのクラン【聖なる漆黒】のメンバーのキメラが建てたものだ。
店員は1人しかいないのだが、客がほとんど来ないので心配いらない。
寂しいだろうが、砂漠エリアの砂嵐が定期的に起こる場所なので仕方がない。
なぜこのような場所に建ったのかは、ランダムであったとだけ言っておこう。
「シェフを呼ぼう」
「シェフ!?」
「うん。ま、店員さんのことだね。とは言ってもどうやら店員さんは1人しかいないみたいだからね。このベルを鳴らせばすぐに来てくれるね」
ケンヤは呼び出しのベルを、何回も何回も連打した。
店員がこちらに気が付いた後も連打を続ける。
「もしもーし!」
店員に向け、ケンヤが手を振る。
「はい! なんでしょうか!」
するとメイド服を着た、ケモ耳と尻尾が生えた小学生くらいの店員がやって来た。
元々は名無しであったが、ここの店員になる際に、ミルという名前になった。
「このメロンオレいいね! 流石だ!」
「ありがとうございます!」
「うん。素直でいいね! 流石僕の娘だ!」
アルカは飲んでいたココアを吹き出す。
「む、娘!?」
「だってこの娘、僕がゲーム内に登場させたユニークNPCだから」
「そうなのか!?」
ミルが驚きの表情をし、ケンヤに言う。
「い、いいのですか!? 言ってしまっても!?」
「いいよ。アルカさんには僕がブレイドアロー社の社長ってことも言ってあるからね」
アルカはミルに言う。
「ミルちゃん、もしかして、ケンヤさんを……というか自分の製作者を知ってたのか!?」
「す、すみません。知ってました。け、けど口止めされてて……」
ミルの目がウルウルとする。
泣きそうだ。
「おっと、レディを泣かせるのはどうかと思うよ」
「いや、ケンヤさんのせいじゃないの?」
「はっはっは! そうかもね」
「そもそも、ケンヤさんがミルちゃんを実装したのなら、仕様を考えたのもケンヤさんだろ?」
「そうだね! もっとも、君はこの娘の仕様を嫌っているみたいだけどね」
「当たり前だろ……!」
ミルは他のNPCと仕様が違う。
自分がガールズワールドオンラインというゲームの中のキャクターだということを認識しているのだ。
「この僕が最初に全部を教えておいたからね。最初はビックリしてたよ。自分が作り物の世界にいるって知った時の表情は、今でも鮮明に覚えているくらいだ!」
ケンヤは悪の鏡とも言えるくらいの笑顔でニヤリとする。
「そうですね。あの時はかなりビックリしました。けど、もう大丈夫です。今はアルカさん達が来てくれますし、話し相手にもなってくれます。それに、ボクはこの世界が好きです。だったら、別にそれが作り物でも変わりありません。むしろ、こんな素敵な世界をありがとうございますって、今なら自信を持ってケンヤさんに言えます」
ミルは、天使のようなニコリとした笑顔で返す。
「ふぅ……。僕の娘も、随分とつまらなく育ったね」
ケンヤは面白く無さそうな表情で呟いた。
「ミルちゃんは凄いよ。本当に」
「そうですか?」
「ああ。俺だったら、きっと耐えられない」
「ボク的には、自分の世界が好きならば作り物でも変わりないと思いましたが、アルカさんは、ご自分の世界が好きじゃないんですか?」
「子供の時は好きだったけど、今はあんまり好きじゃないな。けど、こっちの……GWOの世界は好きだ。仲間が沢山いるからな」
それを聞いたミルは表情をパァッと明るくさせる。
「なんだか嬉しいです! 言うなれば、ボク達はアルカさんの生きる理由の1つに貢献できているってことですよね!」
アルカは驚いた。
てっきり、自分の世界が嫌いなことに対して、悲しい表情をされると思っていたからだ。
「お! 褒めるのが上手いねぇ! そんなに心からの仲間ができたのが嬉しいのか、我が娘よ!」
ケンヤは爆笑しながら、盛大に拍手をした。
「はい! 嬉しいです!」
「つまらない娘だ」
性格が若干ひねくれているケンヤであった。
「ふぅ、ま、いいや。チョコラテ1つ」
「す、すみません。チョコラテは買い占めていったお客様がいらして、材料分全て買っていかれてしまいました」
「なんだって!? こうなったら!」
ケンヤは特殊なメニュー画面を開く。
運営……というかブレイドアロー社の社長専用のメニュー画面だろうか。
ポチポチと、それを操作する。
「はい、チョコラテの原料」
ケンヤはミルに材料を差し出す。
「え!? なんであるんですか!?」
「出した」
だったらチョコラテも出せばいいのでは? と突っ込みたくはなるだろうが、ケンヤはミルに作らせたかったようだ。
愛情がこもっているのかもしれない。




