27.変身ヒーロー
「食らえ! 【メタルウイング】の力を!」
鋼の翼を用いて、ボルケーノザウルスを切り裂こうとするアルカ。
だが、ボルケーノザウルスはその巨体に反し、かなりの瞬発力を発揮した。
「うわっ!? 何だこの動き」
気が付けば、翼を噛みつかれていた。
すれ違いざまに斬りつけようと考えたのだが、ボルケーノザウルスが意外にも早かったのだ。
「アルカさん! HPが!」
「ああ! 危ない所だった」
大きくバックステップをし、キメラの元へと戻る。
「良く倒されませんでしたね」
「ギリギリだったけどな」
「私が注意を引き付けるので、その間に回復をお願いします」
キメラがボルケーノザウルスを挑発し、注意を向けた。
その隙にアルカは、回復薬を使用し、体力を完全回復させる。
ちなみにアルカは体力がレベルに反し多いので、かなりの数の回復薬を消費してしまった。
「【光の波動】! 10連射!!」
キメラがスキルを用いて攻撃を行うが、ボルケーノザウルスは紙一重で攻撃をかわす。
ボルケーノザウルスのあまりの素早さに残像が残っている。
「キメラちゃん!」
「何でこんなに素早いんですか!」
危うく噛みつかれそうになるキメラであったが、ギリギリの所でかわした。
「おかしいです……本当にこれがボルケーノザウルス何ですか……?」
「違うのか?」
「確かにボルケーノザウルスは、鈍足な敵では無いです。ですが、あまりにも早すぎます」
「……!! 敵の名前が!!」
「あっ!!」
ボルケーノザウルスと書かれていた部分が書き換わる。
そこには、こう書かれていた。
【ボルケーノザウルス”ポチ”】
「これは……ネームドボス……!!」
「ネームドボス?」
「名前付きのボスの事です。普通のボスより格段に強いです」
「そんなにやばい相手なのか!!」
「嬉しそうですね……」
やばい相手だと聞き、アルカは思わずテンションを上げてしまった。
「「!?」」
二人はポチから大分離れている場所で話をしていたのだが、いつの間にか、二人の目の前に“それ”は居た。
「「う、うわあああああああああああああああああ!!」」
まるで気配を感じなく、瞬間移動と言ってもいいスピードであった。
ホラー映画に出演出来そうである。
「こっ、このっ!! これでも食らえ! ドラゴンパンチ!!」
ドラゴンパンチとは、ただ相手をアルカがぶん殴る技である。当然だが、スキルでは無い。
「グォッ」
いきなりぶん殴られたポチはのけぞった。
「ドラゴンアッパー!!」
続いてアッパー攻撃を浴びせた。
「【光の波動】!!」
キメラも負けじとスキルで攻撃する。
「消えたっ……!?」
ポチの姿が無い、どこに行ってしまったのだろうか?
「キメラちゃん!! 後ろ!!」
「はっ!? しまっ……」
キメラの体に、ボルケーノザウルスの牙が触れようとする。
「間に合え!!」
アルカは、スキル【第一の瞳】をキメラに向けて使用した。
ギリギリ間に合い、キメラはアルカに装備された。
「危なかった……さて、あのスピードをどう攻略するかだな……」
時々目で追えないスピードで移動をするのがポチであった。
このままでは、敗北するのも時間の問題とも言えよう。
「とりあえず、俺の体だと被弾しやすい……!! キメラちゃんの力! 借りるぜ!!」
【マジカルチェンジ】を使用し、アルカは魔法少女形態へと変身した。
以前と同じく、13歳くらいの黒髪の女の子の外見である。
「よし、これでさっきよりは早く動ける!」
移動をしながら、アルカは【光の波動】を撃ち続けた。
だが、当たる気配が無い。ポチは紙一重で攻撃をかわすのだ。
「何かいい手は無いのか? この形態だと他のスキルも使えないからな」
現在、魔法少女形態で使用出来るスキルは、【光の波動】、【ホーリーブレイド】のみである。このレパートリーの無さが【マジカルチェンジ】の弱点でもあった。
「何か……何か無いのか……あっ」
アイテム覧からとあるアイテムを見つけた。
だいぶ前に入手したアイテム、【変身ベルト】である。
「変身ベルト……すっかり忘れてたぜ」
普段のアルカでは、体の大きさが合わないので、巻くことが出来なかった。
だが、今は巻ける。
「よしっ!! ふんっ!!」
アルカは、自らの腰に【変身ベルト】を巻き付けた。
脳内に変身の仕方が流れ込んできた。
アルカは、漆黒のベルトの中央部にある、とても透き通った水晶のような青色の宝玉に手をかざす。
『待機☆ 待機☆ 変身ターイーキータァァァァーイム!! 待機☆ 待機☆ 変身ターイーキータァァァァーイム!! 待機☆ 待機☆ 変身ターイーキータァァァァーイム!! もう待っちきれぬぅわぁぁぁいい!!』
ベルトから機械的な変身待機音声が鳴り響く。
「変身!!」
アルカは、「変身」と叫びながら右サイドのボタンを押す。
『ふぇぇ……ふぇぇ……ふぇぇえええええっっんんっっっ身!! 変身☆変身☆変身☆漆黒の~力~飼いならせ~変身ヒィーロォー!! ジェットブラックナイトォォ!!』
機械的な音声が鳴り響く。
紫色のオーラに包まれると、全身が漆黒の鎧に包まれる。頭の部分は龍の顔を模している。
「変身したよ! 何か懐かしいな。でもこれって変身ヒーローってより悪役っぽいな」
正直、ラスボスに居そうな見た目ではある。
「よし……このスキルなら行けるぞ。スキル発動、【スローモーション】」
スキルを発動した瞬間、周囲の時間が遅くなる。
ポチの動きも目で追える。
だが、このスキルを使用しても、素早い敵だと感じられるのがポチのおかしな所だ。
「時間の流れを遅くしても、なお素早いのか。だが得たスキルはこれだけでは無いんだぜ。【空間破壊】」
ポチが居る空間を睨み付けると、その空間がグニャリと歪み、ポチにダメージが次々と入る。
「グルルル」
ポチの眼の色が赤くなる。HPが残り少なくなり、本気モードとなったようだ。
ポチから赤黒い炎の球体が10個程、飛ぶ。
「あぶなっ!!」
全ての球体がアルカを襲う。
だが……。
「ふぅ……スキル【無敵化】を発動。自身の状態異常を無敵状態へと変化させる。よって俺はダメージを受けない。さて……決めるぜ!!」
アルカは左サイドのボタンを押す。
『蹴りを入れてケリを付けろ! 蹴りだけにぃぃぃ!!』
必殺技を発動させると、ベルトから機械的な音声が鳴り響く。
「はあああああああああああああああ!!」
アルカは大きくジャンプをすると、空中で1回転し、相手に飛び蹴りを放つ。
「終わりだあああああああああああああああ!!」
「グ……グルァァァァ!!!!!!!!!!!!!!!!」
【変身ベルト】を使用した場合の特殊演出で、ポチは粒子にはならず、爆発し、消滅した。
「ふぅ……」
アルカは、変身を解除する。
『バイバーイ☆』
ベルトから機械的な音声が鳴り響くと、【変身ベルト】は粉々に砕け散ってしまった。
「おい! 何で壊れるんだよ」
アルカは、キメラを装備状態から解除する。
「ありがとうございます。外から戦い見てましたよ。まさか倒してしまう何て……」
「もう変身出来ないけどな……」
「当たり前ですよ。あんなの何回も使えたら反則ですよ」
周囲の時間を遅くし、自身は無敵、そして即死級ダメージのキック……確かに反則級ではある。
「ただ1つ弱点があるとしましたら……」
「あるとしたら?」
「ちょっとベルトの元気が良すぎな所ですかね……」




