251.自己紹介&質問コーナー
「ぐあっ!?」
カケルは喫茶店の床に頭をぶつけた。
どうやら、戻ってきたようだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫だ」
現実世界では一瞬しか経っていない。
ケンヤの言う通りだ。
カケルは心臓に手を当てる。
(そこまで緊張してない……ケンヤさんのおまじないが効いたのかな?)
カケルは少し安心した。
緊張が全くなくなった訳ではないが、先程とは全然違う。
「1つ確認していいか?」
「は、はい!」
「ここは【聖なる漆黒】の個室で合ってるよな?」
キメラは驚いたような表情で頷く。
「ってことはキメラちゃんでいいのかな? 後ろの2人はカノンちゃんとミーナかな?」
「えっ!? アルカさん!? 良かった……不審者じゃなくて」
キメラは叫んだ後、ホッとし、胸をなでおろした。
「いきなり倒れてごめんな。ちょっと緊張しちゃって」
「そこまで緊張しちゃいました!?」
「ああ。けど、もう大丈夫だ」
カケルは皆を見る。
(今時の子は可愛いし、おしゃれだな。俺見た目は良くないから変なおっさんだと思われなくて助かったぜ)
こんなことを考えられるくらいの余裕は出てきた。
ケンヤのおまじないの効果があったのだろう。
カケルは席へと座り、机の上にスマホを立てかけて置く。
「極とクローとも既に繋いである」
『初めましてでござる! そっちの映像は映らないし、逆に拙者達もこうしてアバターの姿しか見せられないでござるが、声は聴こえてるでござる。今日は宜しくでござる!』
前もってカケルが皆に言っておいたので、キメラ達も特に驚かなかった。
『私も同じくだわ! ちなみに今、極の隣にいるわ!』
謎のアピールをするクロー。
「そういえば極ちゃんとクローちゃんはリア友でしたね!」
キメラは再確認する。
この2人は幼馴染なのだ。
「とりあえず、なにか頼むか」
カケルはメニュー表を机に広げた。
皆は好きなメニューを注文する。
「皆さん、今日はオフ会に来て下さり、ありがとうございます!」
キメラは頭を軽く下げた。
その他のメンバーもそれに応じるように軽く頭を下げた。
「現実でこうやって会うのは初めまして……じゃない人もいますが、今日はいつもとはちょっと違う話とかもしながら盛り上げられたらなと思います! 楽しみましょう! まずは自己紹介とかどうですか?」
「自己紹介か、いいね。ナイスアイデアだよ、キメラ君」
カノンは紅茶を飲みながら答えた。
「じゃあ、主催者の私からいきます! 名前は……ゲーム内の名前でいいのかな? キメラです! 14歳で、ゲームが大好きです!」
このような感じで無難な自己紹介が行われた。
最後はカケルの番である。
「アルカだ。えっと……今は28歳で、趣味はGWOかな?」
あまり話すことがなかった。
「皆さん、自己紹介ありがとうございます! では、質問タイムです! なにか質問があれば、言ってください」
自己紹介が終わったら質問タイムのようだ。
「ちなみに私の質問は長くなりそうなので最後で!」
(キメラちゃんは、一体なにを質問するんだ?)
カケルは少し緊張した。
(というか、誰も質問しないな。俺がするか)
カケルは手を挙げた。
「1つ訊いていいか?」
「はい! どうぞ!」
「皆は、GWOはいつまでやる予定だ?」
各々答える。
「飽きたらかな。正直、そろそろ他のVRゲームに移ろうかと思ってる。ロボゲーをやってみたいね」
元々、助っ人的な立場でこのゲームをやっているカノン。
ゲーム部廃部の危機は脱し、既に役目は終えた。
ロボット好きなので、VRゲームをやるならロボゲーをやりたいというのは当たり前と言えるだろう。
「サービス終了までは、やりたいですね」
錬金術師でいられるのならば、ずっとやっていたいと考えている様子のミーナ。
師匠と再会できる可能性もある。
辞める理由も無いだろう。
「私もサービス終了までやりたいです。やっぱりアバターがよく身体に馴染みますから、このゲーム。ね? アルカさん」
キメラはカケルに目で合図した。
ケンヤに聞いたアバター生成の秘密を知っているのはカケルとキメラだけなので、その為だろう。
「あ、ああ。そうだな。このゲームのアバターは良質らしいからな!」
カケルは苦笑いをしながら答えた。
『拙者はアルカ殿が辞めるまででござるな。誘ったの拙者だし』
『私は極が辞めるまでね』
実質カケルが辞めない限りは、西暦組2人は辞めないらしい。
「アルカさんはいつまで続けるんですか?」
「そうだな。俺はここにいる皆が辞めるまでかな。現実世界にいるより居心地いいし」
「皆さん、ずっと続けるんですね! いやぁ、いいことです!」
カノンが口を挟む。
「私はそろそろ別ゲーに移りたいって言わなかったかな?」
「あ、そうでした……。まぁ、会長とはリア友なので別にいいですけど」
カノンが高校に入り、合える頻度は少なくなるかもしれないが、リアルで友達な以上、敬遠になることは多分ない筈だ。
お互いが友達でいたいと思っているのならば。
「とは言っても別ゲーを遊んでいられる時間があるかも不明だけどね」
カノンは将来、ロボット開発の仕事に就きたいと考えている。
その為、来年高校に入ったらそちらに集中したいという意味合いもあるようだ。
それに、趣味のプラモデル作りも忙しい。
「寂しくなるな」
カケルは寂しそうに言った。
「本当にそう思っているのかな?」
「当たり前だ! 仲間だろ!」
「なるほど……ふっ、アルカ君のそういう所、嫌いじゃないよ。ま、あまり無理をし過ぎないようにね」
カノンはスマホの前に行き、極とクローに言う。
「極君。クロー君。もし、私がゲームを辞めても、アルカ君を頼んだよ」
『頼むって何をでござる?』
「友達として、アルカ君が駄目になりそうな時は支えてあげて欲しい」
『それは勿論でござるが……なぜ拙者達に?』
「きっとそれは、君達にしかできないことだからだよ」
カノンは思う。
自覚してようが無かろうとも、どんな形であれ、誰にでも仲間はいるだろう。
仲間がいなければ生きてはいけない。
人は1人では生きていけない。
アルカ君は仲間が多い。
けど、きっとそれだけじゃ駄目なんだ。
『なんだか分からないでござるが……分かったでござる!』
『なんだか分からないのに分かったの!?』
クローはツッコミを入れた。
「えっと、とりあえず質問は終了で宜しいでしょうか?」
カケルの質問が終了したので、最後にキメラが質問をする準備を始めた。




