250.気を失ってしまった
「ここは……?」
真っ白な空間にいた。
以前ケンヤと出会った空間に似ている。
「確か俺はオフ会に来ていた筈……それにこの空間……ってあれ?」
なぜかGWOのアバター、アルカの姿になっていた。
「……む?」
そして、アルカの視線の先にはケンヤがいた。
再び会う時が来るだろうと言っていたが、こんなにも早い再会になるとは思わなかった。
「馬鹿な!?……呼んだ訳でもないのに、どうやってこのケンヤ空間に侵入したんだ!?」
「ケンヤ空間?」
「僕の予想を超えて来るとは……実に面白い。とりあえず、折角来たんだ。ゆっくりしていきなよ」
「えっと、ケンヤ空間ってなんですか?」
「お、気になるかい?」
ケンヤは説明したくてウズウズしていたようで、得意げに語り出す。
「簡単に言うと、夢の世界だね。本当は次なるVRゲームのハードを作る為に作っていた空間だったんだけど、それはやめにして、僕だけの空間にしたんだ」
「この前のGWO内の白い空間とは違うんですか?」
「この前の白い空間とはまるで違うんだ。本当は、特殊な装置で意識のチャンネルを合わせないと来られないんだけど……本当にどうやって来たの?」
「よく覚えてないんです。確かオフ会に行って滅茶苦茶緊張して……あっ! そうか」
アルカは思い出したようだ。
「女の子とオフ会することになって、緊張して倒れました」
「意識を失った際に、偶然チャンネルがあったということか。全く、君は本当に面白い」
ケンヤはニコニコ笑う。
自らの想像の範囲を超えたアルカを面白そうな目で見ている。
「ははっ、なんか恥ずかしいですね」
「恥ずかしがることはない。むしろ誇らしいことだと思った方がいい。この僕をここまで驚かせたんだからね。よし、君を僕の友達と認めよう! 拒否権はない」
「あ、はい」
「敬語じゃなくていい。友達だからね。拒否権はない。それにこの空間では君の思考を読めるからね。下手な敬語は無意味だよ」
「そ、そうですか……あ、いや、そうか」
「まだ緊張しているね? でも、まさかこの僕を目の前にするより、ゲーム内で知り合った女の子と現実で会う方が緊張するだなんて、本当に君は変わってるよ」
アルカは正直に言う。
「正直、ブレイドアロー社の社長って本当に都市伝説的な存在だったから、正直今も目の前にいる実感がわかないんだよな」
「確かにそうだ。自分で言うのはなんだけど、ブレイドアロー社はかなり大きな会社だからね」
ケンヤは椅子に座り、優雅にコーヒーを飲みながら言った。
アルカもケンヤの指パッチンで出された椅子に、礼を言い、座る。
「1つ訊いていいか?」
「どうぞご自由に。答えるかどうかは気分次第だけど」
一呼吸間を空け、アルカは問う。
「結局、ケンヤさんは人間なのか? それともAIなのか?」
「僕の正体を詳しく知りたいと?」
「そうだ」
「いいよ!」
「え、いいの!?」
「うん。前にも言った通り、君が僕との会話をネットに流そうとも、誰も本当だと思わないからね。さて、まずはどこから話そうか」
もう一度指パッチンをし、アルカ用のココアを用意する。
「長くなるかもしれないから、それでも飲みながら聞いて」
「ありがとう」
「じゃあ、まずは最初に言うと、僕は生身の人間だった」
「だった?」
「うん。僕はこの地球初の生物だったんだ」
「!?」
アルカは驚く。
無理もないことだろう。
「学校で習ったと思うけど、この世界がどうやってできたかは知ってるかな?」
アルカは黙った。
「教えて貰ってないよね? それはそうだ。記録が残ってないんだから」
そう、授業では教わっていない。
「だったら、僕がここで特別な授業をしよう。じゃあ問題、今は漆歴何年かな?」
「今は、2021年だ」
「正解。じゃあ、世界は何年前に生まれたか知ってる?」
「記録が残ってないから分からないな。予想でいいなら……2021年前か?」
「違うね。約300年前だよ」
ケンヤはドヤ顔で正解を言った。
「ノーヒントじゃ無理だ……」
「ごめんごめん」
ケンヤは舌を出して、茶目っ気を見せ付けた。
「300年前。僕は10歳くらいの姿でここに生まれた……いや、突然出現したって感じだね。他には誰もいなかったよ」
「じゃあ! ケンヤさんが今の日本を創造していったってことか!? やばいな!」
「残念ながら違うよ」
ケンヤは生まれた当時、本能のままに生きた。
寝て、起きて、その辺に落ちている物を食べていた。
ケンヤ以外に誰もいなかった。
けど、1週間経ったある日朝目覚めると、まるで最初から他の人々がいたかのように存在し、生活をしていた。
そして、見慣れない生物……そう、人間以外の動物もいつの間にかいた。
「その後も、1週間ごとにありえないくらいに技術が進歩していったんだ。僕は何もしていない。そして、いつの間にか言葉も喋れるようになり、一般常識も身についてきたんだ。勉強もしてないのにね。そしてある日、急激に技術の進歩は止まった。その後は僕も勉強に勉強を重ねたさ。結果、80歳までに肉体を捨てることに成功した」
「すげぇな、おい」
「その後は電子生命体として過ごしているよ」
「どうやったんだ!? それだったらさっさと皆で死んで、自由な電子の世界で生きた方がよくないか!?」
「それができれば苦労はしないよ。僕はちょっとズルをしたからね。普通の人には真似できない」
「ズル?」
「うん。ある日僕は思ったんだ。できないことがあるのならば、それが当たり前にできる世界から技を盗めばいいとね」
「平行世界か?」
「その通り。結果、僕はあるかも分からない平行世界に行く装置を開発したんだ。そして完成させたんだ。別世界に2年に一度、5分間だけ行ける装置をね!」
「それは凄いな! 凄いけど、制約がきつくないか?」
「ああ。想像以上にきつかった。おまけにどこの世界に行けるかは完全にランダムだからね。最悪、こっちの世界と全くと言っていいほど変わらない世界に行ったこともあった。けど、5度目! 僕は行ったんだ! 全ての生命体を電子に移行しかけている世界にね!!」
「おお!」
「その世界の装置で、見事僕は電子生命体となり、5分後に戻って来たのさ、電子生命体としてね!」
「まさか別世界の技術とはな!!」
「もっとも、僕の才能がなければ、別世界へ行く事はできなかったけどね」
ケンヤは自慢げにそう言った。
実際、凄いので仕方がないのだが。
「だったら、もう1つ訊いていいか?」
「なんだい?」
「なんでその装置を世間に公表しないんだ? 無数に平行世界があることを公表して、皆にその装置を使わせれば、技術は今以上に大きく進歩するはずだ」
ケンヤはムッとする。
「あのね。正直この装置を使うこと自体がギャンブルなんだ。分かる? 例えば、行った先が酸素がない世界だったらどうする? 気温が100℃超えだったらどうする?」
「5分でもやばいな……」
「でしょ? ま、一番危ない点はその技術を悪用する奴が出て来ることだ。もっと言うと、僕より上位の生命を生み出したくない」
ケンヤは非常にプライドが高かった。
「だから、都市伝説とはいえ平行世界の存在がネット上で噂になった時は焦ったよ。とにかく胡散臭い存在にしておいて欲しいんだ」
「最近はそこまででもないな。異世界ものの創作は流行ってるけど」
「正直、異世界ものが流行ってくれて僕は嬉しいよ。確信をつくものが現れようとも、【異世界ものの見過ぎじゃないの?】で済まされるからね。僕より上の生命はいてはいけないんだ」
なかなかにサイコだな。
アルカはそう思った。
「サイコでごめんね」
「ち、違う! 最古って意味だ! ケンヤさんは最古の生物だから!」
「ははっ、上手いけど、誤魔化しは効かないよ」
どうやら怒ってはいないようだ。
「さ、そろそろ時間みたいだよ」
「もうか?」
「うん。ここの時間の加速度をかなり上げてるからね。今戻れば、気を失った直後くらいに戻れるよ。オフ会、楽しんでおいで」
「あ、ありがとう」
「そんなに緊張しなくても大丈夫だって」
「あ、ああ!」
ケンヤはため息をつく。
「仕方ないな。特別だよ?」
ケンヤはアルカに向けて、白い光を当てる。
「まぶしっ!」
アルカは思わず目を瞑ってしまう。
「オフ会を楽しめるおまじないだよ。じゃあ、頑張っておいで」
ケンヤがそう言うと、アルカの視界は再び暗くなった。
次回! 楽しいオフ会!




