第七章エピローグ
「素晴らしい! 素晴らしい戦いだったよ!」
アルカとキメラは真っ白な空間にいた。
今の今まで闘技場で戦っていたはずなのだが。
「この空間は……」
キメラはキョロキョロと辺りを見渡す。
以前、運営に招かれた際もこんな感じの空間にいた気がする。
「えっと……誰ですか?」
アルカ達の目の前にいるのは、白いカラスであった。
カラスが喋るのは有り得ない……が、ゲームの世界なのでそれも自然な物と受け入れることができた。
「僕かい? そうだね。おそらく、言っても信じないと思うけど……」
「気になります」
何となく、相手は運営の人の誰かなのだろうなと考え、敬語を使っていた。
「私も気になります! 教えてください!」
「キメラさんか……久しぶりだね」
「どこかでお会いしましたか?」
「まぁね。もっとも、あれは僕の持つ仮の姿のうちの1つだけどね」
「仮の姿……? あなたは一体……」
白いカラスは人間の姿に変身する。
白髪の少女または少年といった感じだ。
「ブレイドアロー社の社長、ケンヤ。雲英さん久しぶり、僕だよ」
キメラはその姿に全く見覚えはなかった。
だが、雰囲気でそれが誰なのかが分かった。
「ケンヤ……君? ケンヤ君なの!?」
ケンヤ君とは。
キメラが好きだった男の子だ。
ろくに話すこともできないまま転校されてしまったのだ。
「そうだよ。ま、あれも仮の姿の1つだけど。実はあれは最新のアンドロイドの体を使用していてね。本物の人間と区別つかなかったでしょ?」
「あ……はい」
「? もしかして、今も僕のことを好きだったりする?」
ケンヤは見透かしていた。
キメラが自分のことを好きだったということを。
だが、キメラの返答は違った。
「今は、好きではないです」
「あ、そう」
「大体、私が好きだったケンヤ君……あれもキャラ作りって奴ですよね?」
「その通り!」
あくまで、ケンヤというキャラを作り登校していたに過ぎなかったようだ。
「それにしても信じられないな……ブレイドアロー社の社長がこうして目の前にいるなんてな」
「その気持ちは分かるよ。僕って都市伝説的な存在にもなっちゃってるしね」
アルカの独り言にケンヤは答えた。
「それにしても、なんで俺達を呼んだんですか? もしかして、俺達を消すつもりですか?」
ブレイドアロー社の社長は都市伝説扱いされる程、謎の多い人物であった。
その人物がここまで自らの正体を明かして迫って来るということは……。
「別に消すつもりはないよ」
「では、一体何を目的で?」
「最初に言った通りだよ。君達の戦いが凄く良かったからね。ちょっと機嫌が良くなったのさ。それにこのゲーム内は僕の支配領域だ。ムカついたら君達の記憶を消せばいいだけさ」
(結局消すんじゃないか!)
ケンヤは楽しそうに笑う。
「ツッコミご苦労!」
(お、俺の心を読んだ!?)
「これは僕のゲームだ。それくらい可能さ」
この世界はケンヤの支配領域のようだ。
その気になれば精神崩壊させることも可能なのかもしれない。
「っと、別に嫌がらせをする為に君達を呼んだわけじゃないんだ。君達……というより、キメラさんの疑問に答えようと思ってね」
「キメラちゃんの疑問……?」
「うん。確か、なぜここまで自らに馴染むアバターを生成しているか知りたいんだったね? なぜ知ってるか? それはログを見たからさ。キメラさんには注目しているから、暇な時見てるんだ」
キメラは少し引いた。
「あ、ストーカーって訳じゃないんだ。本当にたまにだよ。たまに」
「そ、そうですか……」
「うん! じゃあ教えるね。どうやってアバターが生成されているのかを」
GWOはゲームがスタートした時点で、アバターがランダム生成される。
そしてアバター毎に能力値が違うのも特徴だ。
「ゴクリ……」
キメラは唾を飲み込む。
対してアルカは「なんか凄いことになってきたな」とか思っていた。
「ランダムアバター生成システムの秘密……一言で言うなら、【いずれかの平行世界に存在する自分自身をデータ化してゲーム内に落とし込んでいる】それが答えだよ。もっとも、ランダム生成の際に参照するのは、【性別が女の子の世界の自分自身】のみだけどね」
「は?」
キメラは何を言っているんだ、とでも言いたげな表情を浮かべた。
「あれ? 難しかったかな?」
「いや、そう言う訳ではなくてですね……信じられないと言いますか……」
「あ、そう。アルカさんはそうでもないみたいだけど?」
「えっ?」
キメラはアルカの方を見る。
「アルカさん、今の説明納得いきました!? 大体平行世界なんて信じてるんですか!?」
「まぁな」
ケンヤは笑う。
「アルカさん、キメラさんには内緒にしてるの?」
「何をですか?」
「とぼけるなら別にいいけど。仲間外れはかわいそうなんじゃない?」
「本人達が話したがっていませんから」
「あ、そう」
ケンヤは、特に興味無さそうに話題を切り上げた。
「アルカさん? なにか、内緒にしていることがあるんですか?」
「秘密の1つや2つ、誰にでもあると思うぜ」
「確かにそうですけど……」
ケンヤがもう一度指パッチンをする。
「まぁまぁ、キメラさん。あまり意地悪しないであげて欲しいな」
ケンヤはヘラヘラと笑う。
「ま、驚いてるキメラさんの反応を見られて、お釣りは十分来たかな?」
「ケンヤさん。今の話は納得いきます。ですが、貴方がブレイドアロー社の社長ということはどうにも信用なりません」
「ありゃ? どうしてだい?」
「だって貴方は、俺みたいな凡人の前に現れていいような人間じゃない」
「ま、確かに一般人の前に姿は現すことは稀だね。だから今日のはただの暇つぶしだよ」
「暇つぶしで極秘情報を教えて良かったんですか?」
「例えば、ここで僕が言ったことを言いふらしても誰も信じないでしょ? だからその辺はどうでもいいかな?」
「確かに!」
言いふらしたとしても、変な人扱いされるだけだろう。
「けど、1つ言っておこう」
「なんですか?」
「僕のカンでは、もう一度君とは会うことになる」
アルカは首を傾げた。
なぜ一般人の自分とまた会おうとするのだろうかと疑問であった。
「どうして、そう思うのですか?」
「さぁね。ま、いいや。とにかく、これからもゲームを楽しんでね。僕のゲームをね」
最後にケンヤはそう言い放った。




