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237.店員の正体

 土曜日まで、まだ遠い。

 残念ながら、今日は月曜日だ。


「幸い今週の土曜日は出勤がないっ! 待ってろドラゴンキング!」


 月曜日の夜、ベッドの上に倒れ込み、アルカのリアルの姿であるカケルは1人ブツブツ何か言っていた。


「ん?」


 スマートフォンが鳴る。


「極かな?」


 極とは親友と言ってもいいくらいに仲が良いので、GWO以外でもやり取りをしている。

 物理的に不可能な為、実際には会ったこともないのだが。


「極じゃないだとっ!?」


 差出人は、クランメンバーであるカノンであった。

 普段、GWO以外では絡みはないのだが、一体どうしたというのだろうか?

 メッセージの内容は、クランホームで今から会えないかという話であった。


「も、もしや俺に気があるのか!?」


 なぜそういった発想に行き着くのかが不明だ。

 カケルは緊張しながらヘッドギアを被り、GWOの世界へとダイブした。


「き、緊張する~」


 アルカはクランホームへ緊張しながら入った。

 中には机に座り紅茶を飲むカノン。


「あれ?」


 と、キメラがいた。

 キメラのティーカップにはコーヒーが入っているのが分かる。


「どういうことだ?」

「やぁ、アルカ君」


 カノンが挨拶をしてきた。


「カノンちゃん!? 俺を呼び出して2人きりで話すんじゃなかったのか!?」

「2人きりで話したかったのかい? それは悪かったね」

「いや、そう言う訳じゃないんだが……で、話ってのは?」


 緊張が解け、呼んだ理由を聞く。


「ま、座りたまえ」


 アルカは専用のデカい椅子に座る。


「アルカさん、なんかさっき緊張してませんでした? はい、どうぞミルクティーです」

「ああ、何を言われるのかと思ってな。では、いただきます」


 キメラはアルカにミルクティーを差し出した。


「じゃあ、もう時間も遅いし早速本題へ入ろうか」


 カノンが2人へ話し始める。


「ケモ耳喫茶のあの店員のことを覚えているかな?」


 アルカとキメラは頷いた。

 昨日会ったばかりなので、皆覚えているようだ。


「俺なんてあの後またケモ耳喫茶に行ったぜ!」

「気に入っちゃいました?」

「というより、ストーリーを進める都合で行くことになった」


 カノンとキメラに経緯を簡単に説明した。


「おお! なるほど、獣人の囮が必要なんですね」

「そういうことだ」


 さもNPCの囮が必要かのように話したので、キメラはそれを信じてしまった。

 実際はケモ耳装備と尻尾装備があればストーリーは進行するのだが。


「アルカ君の攻略法が正規かどうかは置いておいて……話を続けるよ。この前出会ったあの店員……今までにないNPCのタイプなんじゃないかと思う」

「今までにない……? どういうことだ? 分かりやすく頼む」

「まぁ、待ちたまえ。まだ話の途中だよ」


 カノンはGWOにいる2タイプのNPCについての話をした。

 パターンが決まっている通常のNPC。

 そして、この世界の住人だと思い込むように設定されている高性能AI搭載のNPC。


「そして3パターン目。今までになかったパターンだよ」

「今までになかったパターンですか……。この前私が会長に聞いたら叩かれましたね。そういえば」

「あの時はまだ私も考えがまとまってなかったからね。でもあの後、あの店員の一言一言を思い出し、1つの結論へと辿り着いた」


 カノンは人差し指を立てて言う。


「【自分が人間に作られたことを知っていて、なおかつあの世界の住人として過ごすことをいられているAI】……それがあの店員の正体だよ」


 カノンの言葉を聞き、アルカは店員との会話を思い出す。


『もしかして、こちらの層に来たばかりだったりしますか?』

『よく分かりましたね!』

『何となくですけど分かってしまいました。それで私からこんな事を言うのも何ですが……龍族から私達を守ってください!』

『龍族……?』

『はい! えーと説明しますね!』


 残念ながら記憶力が悪く、全ては思い出せなかったが十分であった。


「確かに……俺達がストーリーを進めているのを知っているような口ぶりだったような気がするな」

「でしょ?」

「もしそうだとした……寂しいだろうな……」


 そして、キメラは口元に手を当て驚き、その後悲しそうな表情をしながら言う。


「ということは……あのは、実質ひとりぼっち……なんですね……」


 他の店員はパターンが決まっているタイプのNPCだ。

 簡単な会話であれば、搭載されている低性能AIでそれっぽい会話をしてくれるが、それだけである。


「だからあんなに俺達に会いたがってたのか。ブレイドアロー社も随分とヒドイことをするもんだぜ」

「ですが、あそこまで感情が表現できるAIって作れるんですか? そういう設定であらかじめパターンを組み込んでおくならまだしも」


 カノンは腕を組み答える。


「【パーティー対抗トーナメント】を覚えているかな? あそこで対戦したモノ君は最新のAIだった。そして無事に感情を育てる実験に成功した。そのデータを応用すれば、可能な筈だよ。私達の想像よりも今のAI技術ははるかに進歩していると言える」

「モノは今Vtuberにハマっているけどな」

「そうなのかね? もうほぼ人間じゃないか」

「ああ。けどモノはロボットボディを持っているから外の世界を見ることもできる。けど、あの店員は違う! 今も閉じ込められているんだ!」


 カノンは「やれやれ」とした表情を浮かべる。


「最大の問題点はそこじゃないんだ」


 カノンは仕方なく言う。


「実はあの後、攻略情報をネットで見たんだ」


 少し申し訳無さそうだ。


「見たんですか!!??」

「大丈夫。ネタバレはしないし、それで得た情報でストーリークリアの為の助言をする気もないよ。で、そこで見たんだ。第2層のストーリーを始める条件をね」


 第2層のストーリーを始める条件、それは【ケモ耳喫茶店内でいずれかの店員NPCと会話をする】ことであった。

 つまり、ケモ耳喫茶に入り、あの店員と会話をした時点でストーリーは開始されていたことになる。


「それが今の話となんの関係があるんだ?」


「【この世界の住人だと思い込んでいるタイプの高性能AI搭載のNPCは、役目を終えるとそれまでの記憶を忘却する】。これと同じことが3パターン目である彼女にも当てはまるのだとしたら?」


 例えば悪人キャラだとしたら、戦闘を通じ改心したとしてもストーリーが終了したら、記憶は消え、再び悪として他のプレイヤーを待つこととなる。


「……!! 俺達がドラゴンキングを倒したら、あの店員の記憶が消えるってことか!? だからあんなに……」


 アルカは思い出す。

 店員が涙をこぼしたこと、また来てくださいと言って来たこと、他にも思い当たる言動があった。


「そういうことかよ!」


 アルカは悔しそうに拳を握りしめた。

 こればかりは、いくら強くともどうにもならない。


「アルカ君はあの後も店員と会ったと言っていたね。その反応はこの仮説が正しいと思えるような言動が他にもあったということだね?」

「ああ。そうだ」

「じゃあ、後で他のクランメンバーにも伝えなくてはならないね。今の話とそれともう1つを」

「もう1つ?」

「そう、GWOを楽しむ上でとても大切な決断だ。おそらく今後のイベントにも、場合によっては支障が出る可能性がある」


 カノンは続けて言う。


「第2層のストーリーをクリアするか、それともしないか。それがもう1つだよ」

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