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235.囮

 ドラゴンキングの要塞に侵入する為に、獣人の囮を用意する事となった。

 本来はケモ耳と尻尾を装備したパーティメンバーがいればそれでいいのだが、アルカはそこに気が付かなかった。


「囮……ですか?」


 【ケモ耳喫茶】へ行き、知り合いの店員に頼む事にした。

 とは言っても数時間前にここで知り合ったばかりだ。

 小学4年生くらいの外見にケモ耳と尻尾を生やし、メイド服を着ている。


「ああ。獣人の知り合いが今の所君しかいなくてさ」

「その為に1日に2度も来店してくださったのですか?」

「それもあるな。けど、また会いに来るって約束だったからな、そういう意味合いもある」

「なるほどです! で、あの……本当に囮になるんですか?」


 約束を果たしてくれ、嬉しいという思いから表情を明るくした店員であったが、その後困惑の表情を浮かべた。


「他のやり方は思い付かなかったのですか?」

「他にやり方があるのか!? いや、でも嫌ならいいんだ」


 いくらゲームのキャラクターと言えども、嫌な事を無理強いするのはアルカの趣味ではなかった。


(そういえば……このゲームには2種類のNPCがいるんだよな)


 以前、クランメンバーが言った事を思い出していた。

 1つはオードソックスなRPGのNPCのようにパターンがある程度決まっているタイプ。

 そしてもう1つは最新のAIを搭載し、完全にこの世界の住人だと思い込んでいるタイプだ。こちらのタイプのキャラクターは非常に少ない。


(このはどっちなんだろうな)


 後者だとしたら、特にやりにくい事この上ない。


「ご、ごめんなさい! 悩ませちゃいましたね! いいですよ、囮になります!!」

「いいのか!?」

「大丈夫ですよ。で、先程の話はやはり本当なんですか?」


 先程の話と言うのは、ドラゴンキングの要塞に乗り込み、それを倒すという事だ。


「ああ! 大丈夫だ! そして、君の事も守って見せるさ!」


 アルカはちょっと格好付けながら言ってみた。

 相手はNPCだ。恥じる必要はない、と。


「おお~! かっこいいです! 今度はボクが頭を撫でてあげます♪」

「ん?」

「嫌でしたか……?」

「そう言う訳じゃない。この前は君の1人称が私だったから、ちょっと驚いただけだ」

「あっ、しまったつい!?」


 店員は慌てて自らの口を塞いだ。


「俺は可愛いと思うぜ! 俺もゲームの中だと結構キャラ変えてるしな!」

「そうなんですか?」

「ああ。後ボクっは一定の需要がある。それに俺は昔……」

「昔……?」


 アルカは天井を見つめ、「フッ」と笑った。


「何でもない」


 話を元に戻そう。


「とりあえず、囮の件だけど、来週でいいか? クランメンバー全員で攻略したくってな」

「あ、はい! ボクはいつでも大丈夫です!」


 こうして、無事に囮役となった店員なのであった。


「と言う訳で、俺は今日の所は失礼するかなっ!」


 アルカが立ち上がると、店員が呼び止める。


「もう行っちゃうんですか?」

「ああ。俺には帰るべき場所があるからな」


 アルカが言っているのは、ログアウト後の現実の世界の事である。


「そうですか……」

「いやいや! また来るから! も、もしや……その表情!? ま、まさか俺の事が好きなのか!?」


 アルカは冗談のつもりで軽く言った。


「アルカさんだけじゃなくて、皆さんの事が大好きです!」

「皆さんって、俺のクランメンバーの事ね?」

「はい! 皆さん楽しそうで羨ましいです! 見ててこっちまで楽しくなっちゃいます」


 実際、現実世界にいる時よりも、GWOの世界で皆と遊んでいる時の方が楽しく感じる。

 ちなみにアルカは現実世界に友達がいないのだが特に気にしてはいない。

 ネットで出会った友達の極や、クランメンバー達といった大切な仲間がいるからだ。


「そうだろ?」

「いいなぁ……」


 羨ましそうに店員がアルカを見る。


「大丈夫だ。俺だけじゃない。来週も皆と一緒にここに来るさ」

「本当ですか!?」

「お、おう! というか何か俺が来た時より、皆が来るって分かった時の方が嬉しそうにして無かったか!?」

「同じくらいです!」

「そうか! それは良かった! 来週また来るからな! じゃあな!」

「皆と冒険楽しみにしています! あっ、それと!」


 どこか悲しそうな表情で店員は言う。


「できれば……ドラゴンキングを倒す前にここのお店に来てくれませんか?」

「ん? 来るに決まってる。君を連れて行かなくてはならないからな」

「いえ! そうではなく……何か注文して何か頼んで欲しいなと!」

「お客として来て欲しいって事か?」

「そうです!」

「ドラゴンキングを倒してからじゃ駄目か?」

「ダメです!!」


 両手をぎゅっと握りしめ、力強く言ってきた。


「自分の仕事に誇りを持ってるんだな! 俺は仕事大嫌いだから尊敬するぜ! そういう事なら、ここで食べてから出発するか!」

「ありがとうございます! 本当に、ありがとうございます!」


 アルカは感謝され、嬉しく感じる反面、ペコペコさせてしまい申し訳無くも感じた。


「アルカさん達は強いです。きっと、すぐにドラゴンキングを倒す事になるでしょう」

「誉めてくれてるの!?」

「少し褒めてます」

「少しかよ! なぜ少し!?」

「だって……強いとすぐにクリアしちゃうじゃないですか……」

「それで褒めてくれたんじゃないのか?」


 何やら様子がおかしかった。

 どこか泣きそうにも見える。


「そうです。その通りですよ」

「よく分からないけど、負けないから安心しろ!」

「負けちゃってもいいんですよ? ……何て、冗談です♪」


 この時、アルカはまだ知らなかった。

 この言葉が冗談では無かった事に。

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