225.ライバルと偶然出会う
「そ、そのスキルは!! ……えーと、農業用のスキルでしたね、確か」
農業を始めると貰えるスキルだ。
スローライフを目的にこのゲームを始めたプレイヤーのほとんどは取得しているスキルだろう。
「そういえばアルカさんのマイホームには畑とかありましたね。正直、今の今までそのスキルの存在を忘れていましたよ」
このスキルはマイホーム内だと1日に1回のみ、MP消費無しで使用できる。
フィールドやダンジョンだと、最大HPから見て半分のMP分の数値を消費して発動できる。
燃費が物凄く悪い上にフィールドで作物を育てようとした所で他のプレイヤーに荒らされて終わりである。
「俺も正直、最近までこのスキルの存在を忘れていてな。正直、今も効果があるとは思っていなかったんだが……」
【スペシャル肥料】の必要数のカウントが減っていってく。
効果はあったようだ。
「連続で行くぜ!!」
ミーナから貰ったMP回復のアイテムを駆使し、連続でスキルを発動させた。
「凄いね、アルカ君。これならかなり楽ができる」
スキルを使用、そしてMP回復アイテム使用を繰り返した結果。
「よし! 後はここにある【スペシャル肥料】を与えれば試練達成だ」
【スペシャル肥料】の残り必要数、3個。
先程ドロップしたものを与えれば試練達成だ。
「意外と簡単だったな。おまけにこの裏技はできる人も多そうだし」
「むしろ、誰でもクリアできるようにあえてそういう設定にしてあるんだと思いますよ」
今までの対人戦があるイベントで感覚が麻痺しているのだろうが、ストーリーであれば誰でもクリアできるように作られていてもおかしくはない。
この裏技は救済処置という位置付けだろう。
「では、アルカ君。残り3つを与えてくれたまえ」
「OK!」
アルカはスペシャル肥料を大樹に与える。
すると、大樹が光り輝き、やがてその光がダンジョン全体へと広がる。
荒れ果てた森は回復し、緑一杯のダンジョンへと変化を遂げた。
「ありがとうございます!」
「あっ! 土の精霊さん! 元気になったんですね!」
「おかげさまで!」
土の精霊と話すキメラ。
その様子からも元気になった事がうかがえる。
「これで試練達成って事でいいんだよな?」
「はい! 試練達成です! こちらをどうぞ!」
【エメラルド】を手に入れた。
「これで2個目だな!」
「そうですね。後は電気と闇のダンジョンの試練を達成すれば、私達のチームは目標達成です!」
「ああ! これは案外サクッと行けそうだな!」
「ですね!」
話していると、土の精霊がお辞儀をしてきた。
「本当にありがとうございました! ダンジョンの外へとワープさせます! ちなみに私の名前はツッチーです! 覚えていてください!」
「最後の最後に自己紹介!?」
土の精霊がそう言うと、次の瞬間3人はダンジョンの外に居た。
「と、とにかく、これで2つ目のダンジョンクリアだ」
キメラが右手を差し出す。
「エメラルド見せてください!」
「いいぞ。というか別に俺だけのものじゃないし」
アルカはストレージからエメラルドを取り出し、キメラの手の上に置いた。
文字通りエメラルドグリーンに輝いており、非常に神秘的である。
「おお! 綺麗ですね!」
「高値で売れそうだな」
「売っちゃうんですか!? というか、このアイテム売れないようになってますよ」
「そうなのか? 何でだろうな?」
「ストーリーに必要なものなので、詰み防止かと」
「なるほどな。という事は……ストーリークリアすれば売れるようになるかもな!」
「なっても、ここまで綺麗だと売りたくないですね……。クランホームにでも飾りませんか?」
「俺は別にいいけど、意外だな。キメラちゃんは効率重視かと思ったぜ」
「確かにVRじゃないゲームでしたら、売っていたかもしれませんが、現実と変わらないような景色でこの美しさを目にしたら売りたくなくなりました!」
「なるほど。あっ、でももしかするとイベント終了後は消滅する可能性も……」
「それは嫌ですねぇ」
とりあえずキメラが満足すると、アルカはエメラルドをストレージへと収納する。
「ちょっといいかな?」
カノンが飛翔の準備に入ろうとしているアルカに言う。
「これから先は歩いて行かない?」
「飛んだ方がモンスターも出なくていいと思うけど」
「正直、私達は次のダンジョンがどこにあるのかまだ分かっていない。他のプレイヤーから情報を得ながら進むのも悪くないと思うけど、どうかな?」
「確かに……俺達はまだ電気と闇のダンジョンがどこにあるのか分かっていない……」
アルカは少し考えると。
「情報が得られるまでは歩いていこうか。場所が分かったら飛んで行こう」
歩いて行く事となった。
「そうですね。攻略サイトも見たくないですし」
キメラも納得したようであった。
「あらまぁ!」
しばらく歩くと、知り合いのプレイヤーと出会った。
「お久しぶりですわ!」
「ジルコちゃん!?」
アルカのライバルである、ジルコと遭遇した。
確か、彼女もクランリーダーである筈だが、今日は1人で行動しているようだ。
「今日は1人なのか?」
「ええ。お時間が合わなくて困ってしまいましたわ。そちらこそ全員お揃いでないようですわね? もしかしますと、ワタクシの方が先にクリアするかもですわね」
「いや、全員揃ったんだけど役割分担として二手に分かれているんだ。それに……」
アルカはストレージからダイヤモンドとエメラルドを取り出す。
「現時点で2個の宝玉を手に入れている。ほら、ダイヤモンドとエメラルド」
「なっ!? 流石ですわね! けど、ワタクシも負けていませんわよ!」
ジルコは対抗し、ダイヤモンドと黄色く輝く宝玉をアルカに見せつける。
「黄色……とすると、色的に電気のダンジョンに行ったのか!?」
「行きましたわよ! そちらこそ……ワタクシがまだ行っていないダンジョンに行っているようですわね」
「ああ。土のダンジョンに行ってきた」
ジルコは口を閉じながら口角を上げ、アルカに視線を向ける。
「お取引しませんこと?」
ジルコは提案をアルカに投げかけた。




