213.真ん中分けの男の新たな使命
大型アップデート日である、11月10日、日曜日。
その日の昼を食べたら皆で集まり、新しい層を攻略する約束をした。
時間は13時で、クランホームに集合という事にした。
一方その頃、運営の1人である真ん中分けの男はというと……。
「んふーふふふふ」
ニヤニヤとしながらキーボードをカタカタさせていた。
なぜニヤニヤしているのか?
それは上司から呼び出された際に、とある事を命じられたからである。
その時の出来事が以下の通りだ。
『おお! 来てくれたな!』
緑髪オールバックで紫スーツのタバコを吸っている40代くらいの上司に呼び出された。
『はい……』
『どうした? 浮かない顔をして』
『いえ……自分が何かミスをしたのかと思いまして考えていたのですが、どうも思い付きませんでして……あっ! もしやこの前有給休暇を取ったからですか……?』
『お、落ち着きたまえ! 有給休暇を取るのは別に構わない。それに今回呼び出したのは別に君がミスをしたからではない』
『えっ!? 違うんですか!?』
『違うよ。君に頼みたい事があって呼び出したんだ。おそらく、君が一番適任だと思ってね』
『自分が……適任?』
『ああそうさ。何と言っても君は真面目だ。まぁ、真面目なだけの社員は沢山いる、それに君より有能な社員も沢山いる。だが、私が見ている限り君はGWOというゲームを誰よりも愛していると感じ取れた。それに、プレイヤーの為に日々仕事を頑張っているのも知っている』
『えっ!? ……ま、まぁ……』
褒められ慣れていない真ん中分けの男は照れながら答えた。
『そんな君に頼みがある。休日が削られてしまうのは申し訳ないのだが、当然その分の給料は払う』
『休日?……一体何をすればいいのですか……?』
真ん中分けの男は不安になる。
一体何を頼まれるというのだろうか?
上司はタバコをオフィスの真っ白な壁に擦り付け、火を消すと、答える。
『君に、GWOのプレイヤーになって貰いたい』
真ん中分けの男は驚き、目を見開いた。
『お、俺が……!? え、い、いいんですか!?』
GWO運営は一般プレイヤーとしてのアカウントを取得する事は本来許可されていない。
デバッグ用の共用アバターが用意されているので、普段はそれを使用していたりする。
『ああ! 今回の大型アップデートはかなりの大改装になる。だから1プレイヤーとして、遊びやすく楽しいゲームになっているのかを調査してもらいたい。後……そこまでGWOを愛している君に純粋にプレイを楽しんで貰い、次のアイデアに繋げて欲しいという目的もあるのだよ』
『……分かりました。是非やらせてください!! 給料も要らないくらいです!!』
『それは駄目だ。だったら君には頼めない』
上司は厳しそうな表情で答えた。
『申し訳ございません。給料もしっかり頂いて頑張ります!』
『ああ、期待しているぞ』
このようなやり取りがあったのだ。
それからはというものの、ログインした際の事を妄想してニヤニヤとしているのだ。
一体どんなアバターになるのか?
どんなプレイヤーとの出会いがあるのか?
それを妄想するとニヤニヤが止まらなかった。
☆
そしてアップデート日当日。
アップデートは当日の10時から適応される。
ちなみに前日は丸1日メンテ中でログインができなかった。
「ここがアプデ後の世界か……」
集合時間は13時だが、別にそれ以前にログインしても良いとの事だったので、アルカは11時にログインを行った。
ログイン場所は、はじまりの街の噴水広場であった。
「相変わらずの噴水広場だな。とりあえず、いつも以上に人が多いってのは確かだが……」
次々と噴水広場へと出現するプレイヤー達。
皆アップデートを楽しみにしていたらしい。
「あっ! アルカさん!」
「キメラちゃん!」
アルカを見つけたキメラが駆け寄る。
「アルカさんも集合時間前にログインしてたんですね! やっぱり我慢できませんよね!」
「まぁ、暇だったってのもあるんだけど……」
「そういう事言わないでください! でも、ありがとうございます! ゲーマーとして嬉しく思います! ちなみに今から何かする予定はありますか?」
「とりあえず何が変わったのかを調査しようと思ってな」
「私と同じですね! アップデートしたばかりで情報も少ないですからね!」
大まかな事はお知らせに書いてあるが、そこに書いてあることが全てでは無い。
「私は既にある程度掲示板等で情報収集を行いましたので、共有しませんか?」
「おお! 是非!」
キメラが得意げな表情で説明を開始する。
「えーとですね。まず一番びっくりな情報からです! 何と、今までの層をひとまとめにして【第1層】として生まれ変わりました」
今までの層が全て、一つの層にまとめられたようだ。
「ボリューム満点だな」
「そうですね。とは言ってもストーリーが薄いので、レベルさえ上げればそこまでのボリュームは感じられませんけどね……」
「まぁ、そこは……」
「今回のアプデで期待ですね♪ どんなストーリーなのか気になりますが……13時まで我慢です!」




