201.幼馴染とはそういうもの
「どうぞ……」
クランホームのミーナの部屋へと招かれたアルカ。
「拙者もいいでござるか?」
極はアルカの後ろからひょこりと顔を出す。
「いいですよ……はぁ……」
いつも元気なミーナが珍しくため息をついていた。
表情もどこか元気が無さそうだ。
「そ、そんなに拙者が来たのが嫌だったでござるか!?」
「いや……違うんです……さっきから届くファンレターがどれも過激なもので眩暈がしてきたんですよ……」
Vクライシスのイベント中に限り、コラボVtuberにメッセージを送れる、ファンレター機能がある。
そのファンレター機能を利用し、過激なメッセージが次々と飛んで来るのだ。
主にユミリンとのカップリングだ。
原因は先程ユミリンがミーナに告白したせいだ。
そんなファンレターを興味本位でアルカと極は見せてもらった。
すると。
「ぶふぉ///////」
「ひゃぁ~//////」
アルカは現実世界であれば鼻血を出しそうな勢いで吹き出し、極は顔を赤くして照れていた。
「え?」
ミーナはポカーンとしていた。
(これでこの反応だともっと過激なのは見せられませんね……)
ちなみに2人が見たのは、イラスト付きのものだ。
文章は「ユミーナてぇてぇ」とだけ書かれており、イラストは2人が手を繋ぎながらうっとりとした表情で互いを見つめるものである。
「確かにこれは凄いな……! ってかこの短時間でよくもここまでのものを描けたもんだな」
「いやいや! 確かに上手いですけど! 正直困惑してるんですよ! 私ユミリンさんと接点ありませんからね!?」
「話したこともないのか? 同じVtuberなのに」
「ありません! ですが、これは抗議しないといけないかもしれません!」
「そんなに嫌か? 百合営業ってのはどこの業界にもあるだろ。おそらくこれを機にコラボでも企んでるのかもな」
「そうなんですか? 確かにユミリンさんとコラボすればもっと有名になれるかもしれませんが……」
ブツブツと独り言を言うミーナ。
そして、決心する。
「私! ユミリンさんに抗議します!!」
「マジか!」
「私は本気です。ですが、今はまだその時ではありません!」
コラボイベントを最後まで平和に行いたいという事もあり、イベント後に話をつけるつもりのようだ。
「確かに炎上とかしたらまずいからな」
「そうです。アルさんが折角稼いでくれた1万Vコイン、決して無駄にはしません! 本当にありがとうございます!」
「ああ! 絶対に1位を獲得してくれ!」
「はい! 極さんもありがとうございます!」
ミーナは極にもお辞儀をする。
「拙者は少ししか投げ銭できてないでござるがな」
「それでもありがとうございます!」
ミーナは両手をギュッと、胸の前で握りしめる。
いつものミーナに戻ったようだ。
そんな中、アルカが言いにくそうに口を開く。
「悪い。今日は引き続きVコインを収集できるけど、平日は仕事があるからログインできないかもしれない」
「いやいや! リアルは大事ですから! 気にしなくて大丈夫ですよ!」
「ごめん」
「ションボリしないでください! 大丈夫です!」
ミーナはションボリとしたアルカを励ます。
「ありがとう。平日は中々疲れが抜けなくてな」
「拙者は学生でござるし、まだ若いでござるから? 平日でも全然平気でござる!」
「はは、極は元気だな」
とにもかくにも、休日の今、積極的に動くしかないと考え極と共にイベントエリアへと戻ろうとする。
「そういえばアルさん。ちょっといいですか? 渡しておきたいアイテムが!」
ミーナがアルカを呼び止める。
「おお! 極悪い、先行っててくれ」
「分かったでござる!」
極は一足先にイベントエリアへと戻った。
「アルさん」
ミーナは真剣な表情でアルカを見る。
「で、アイテムは?」
「えーと……すみません。ちょっとアルさんと話したくて嘘ついちゃいました」
「マジか!!」
「はい……」
極を先に行かせたのはアルカが気を利かせてくれたかと思ったミーナであったが、どうやら違ったようだ。
「残念だけど仕方がないな。で、俺としたい話ってのは?」
「ユミリンさんの事です」
「? さっき話してなかったか?」
「極さんの前では言えなかった事です。……単刀直入に言います。私は知っています。ユミリンさんを」
「なっ!? そうだったのか!?」
「はい。確信を持ったのがこの動画です」
アルカとユミリンの先程の試合が動作サイトに投稿されていた。
「この弓の扱い方、間違いありません。私が元居た世界の幼馴染、ジュウヤのものです」
「ジュウヤってあのミーナに矢を放ったっていう奴か!?」
「はい。正直、私は今までユミリンさんの動画を見た事がありませんでした。ですが、アルさんが試合をしたというので見てみましたが……間違いありません」
「何で分かるんだ? いや、確かにプレイングはプロの領域だったかもしれないけど、弓の扱いが上手いプレイヤーだったら他にもいると思うぞ?」
「私は……ずっとジュウヤと一緒でした。ずっと隣で彼を見てきました。だから分かるんです……幼馴染ってそういうものですよ」
「そういうものか?」
「そういうものです。正直に言いますと、私はジュウヤの事をあの日まで好きでした。ジュウヤはいつも私を惚れさせようと頑張っていました。実は惚れてたんですが、関係が崩れるのが怖くてそういう素振りは見せられなかったんですけどね」
「ミーナ……」
「あの時は突然の別れでした。当然バイバイ何て言う暇もありませんでした。だから決着を付けようと思うんです。私達のこれまでの戦いに……終止符を打ちます。向こうが告白してきたのなら、正面から嫌いって言って振ってやります」
ミーナは表情を崩さない。
本気のようだ。
(これでジュウヤじゃなかったらどうするつもりだ?)
覚悟を決めたミーナに言う勇気は無かった。
「けど、それをやるのはこのイベントが終わってからです。それまでは……元気一杯で行きます! イエイ!!」
ミーナは笑顔で元気にピースをするのであった。




