188.提案は受けられない
イベントが終了すると、プレイヤー達は散らばった。
ログアウトする者、早速イベントエリアへと向かう者、実に様々であった。
アルカ達は第1層にある喫茶店へと向かった。
作戦会議をするとの事だ。
アルカと極が店に入る。
「何名様でしょうか?」
「2名……「4名様ですわ!!」」
アルカが2名と答えようとしていた所、後ろに来ていたジルコが乱入してきた。
「4名様ですね。では、あそこのお席で!」
アルカが後ろを見ると、ドヤ顔のジルコと黒髪ショートのプレイヤーが立っていた。
「ふふーっ! ワタクシの提案を受けるのですわ!」
「提案……?」
結局、4名の席へと案内される。
「プハーッ!」
ジルコは紅茶を一気飲みすると、ティーカップを机に叩き付けた。
「えーと……提案っていうのは……?」
「んまぁ! せっかちさんですわね!」
「というか、俺と馴れ合いはしないとか、ジルコちゃん前言ってなかったか?」
「これは馴れ合いではないですわ! イベント攻略の為の立派な作戦ですわ!」
「作戦?」
「そうですわ!」
ジルコは椅子の上に立ち上がり、机に片足を乗せ、アルカに向けて一指し指をビシッと指す。
足を乗せた衝撃で食器類がガタンと鳴り響く。
「ミサキさんを1位にするお手伝いをするのですわ!!」
「ミサキちゃんを……!? ジルコちゃんそんなに仲間想いだったのか!!」
「し、失礼ですわね!!」
「ごめん」
「まぁ、分かればいいんですわ! とにかく! ワタクシの提案を受けるのですわ!!」
「それはちょっと無理だ」
「何でですの!?」
「ミーナちゃんから頼まれてるんだ。ミーナちゃんが参加してなければ喜んで協力したんだけどな」
ジルコは真顔になった後、椅子へ座る。
そして、ティーカップに紅茶を追加すると、それを静かに飲む。
「駄目ですのね? 駄目ですのね!?」
今度は食い気味に言う。
「いや、本当ごめん」
「で、でしたら!! 極さんはどうですの!?」
極に顔を近づける。
「せ、拙者でござるか!? ミーナ殿は拙者にとってもクランメイトでござるからな……。悪いでござるが、拙者もミーナ殿に投げ銭するでござる」
「な、何ですって!? ま、まぁいいですわ!! いいですの! ワタクシの計画は誰にも止められないですわ!! オーッフォンフォンフォン!!」
ジルコは高笑いをすると、メロンソーダを頼む。
「残念だったねぇ。アルカさんも協力してあげればいいのに」
「えーと」
次に発言したのは、アルカにとって見覚えが無いプレイヤーであった。
アルカは黒髪ショートヘアのプレイヤーのプレイヤーネームを見た。
「セイ……さん……? え? あの時のセイ? え?」
アルカは思い出す。
【お助け☆ガールズ】で戦った聖女セイを……。
「見た目が全然違うから気が付かなかった……」
「主人公力を高めた結果、こうなったんだよ!」
「そうなのか! ってそうじゃなかった。俺は君に会いたかったんだ」
ジルコが口に手を当て驚く。
「大胆ですわね! 愛の告白ですの?」
「いや、そうじゃない。レベルの件だ」
「レベル……? あー! そうでしたわね!」
アルカは事情があり、スキルでセイのレベルを1にまで下げた。
本来であれば、イベント終了後にレベルを戻すアイテムを渡そうと思っていたのだが、連絡が取れなかったのだ。
「いや、いいや別に」
セイは手を振る仕草をしながら断った。
「え? いいの?」
「いいも何も私のアバター初期化されちゃったからね。そんなアイテムじゃ戻せないんだよ」
「え!? 運営には連絡したのか!?」
「してないよ。私は不遇職で育成し直してるからね。むしろいい機会だよ」
「不遇職……? なぜ? というか不遇職とかあるの……?」
「不遇職はね。主人公として必要な要素なんだよ! 先生が言ってた」
セイはジルコをチラリと見た。
「先生って……もしかして、ジルコちゃんの事か?」
「そうだよ。何でさっきからそんなに驚いてるの?」
アルカは、分からない事だらけで驚いていた。
おまけにアバターが初期化されたというのだ。
ただ事ではない。
「あー、もしかして、私が負け惜しみ言ってると思ってるでしょ?」
「いや、そんな訳では……ただ、【聖女】じゃなくなって大幅に弱体化したんじゃないかなと……」
アルカは勝つ為とはいえ、レベルを下げてしまった事に罪悪感を感じ、目を逸らしながら自身の人差し指同士をツンツンとしていた。
「じゃあさ」
セイが余裕そうな口ぶりで口を開いた。
「試してみる?」
肘を机につけ、意地悪そうな笑みをアルカに向ける。
「いや、やめておこう」
アルカは【お助け☆ガールズ】以降、戦闘をしていなかったので、あまり自信が無かった。
それと比較し、セイは実に余裕たっぷりだ。
何かあると、アルカは察したのだ。
それにイベントは10日間。
当然平日も含まれる。
となると、1日中ゲームをできる休日の時間を無駄にはできない。
もし今挑戦を受け、戦いが長時間になってしまった場合、非常に危険だ。
「つまんないのー」
「まぁ、いいじゃないですの。今はミサキさんを1位にさせる為にVコインを集めるのが先決ですわ! セイさん、行きますわよ!」
「OK!」
ジルコとセイは席を立ち、店を出ていくのであった。
「G払ってないでござるな、あの2人」




