聖女セイの清算【前編】
全2~3話の番外編です。
『君はこの世の主人公になるって言ってたけど……人は皆』
『人生の主人公だって言うんでしょ?』
『そうだ!』
『君の仲間も同じ事を言ってたよ。でも私は目立つことが主人公の条件だと思う。皆からの人気者で知名度も高いのがね……。だから、同じ考えにはなれないよ』
『おお! いいね! だったら、それを目指してみようぜ!』
1人のプレイヤーは回想していた。
そのプレイヤーとは……?
「私、もう一度主人公を目指してみようかな。それであのクランにリベンジするんだ」
アルカ達に敗れた職業【聖女】のプレイヤー、セイであった。
見るからに聖女っぽい衣装に身を包んだ彼女は悩む。
「でも、どうやったら主人公っぽくなれるんだろう?」
マイホームエリアで1人セイは首を傾げる。
(目立つ事、人気者になる事が主人公の条件だと思っていた。けれど、それだけじゃ何か足りない気がするんだ。実際に私は有名になったけど、それは一瞬だった。それにアンチも大量にわいた。これは私の主人公力が足りないせいだ。きっとそうだ)
セイは立ち上がると、マイホームエリアを出る。
「とりあえず行動だね。ネットで調べたけど、GWOでは勇者の異名を持った【コノミ】さんって人がいるみたい。正しく主人公みたいだね! その人を探そう。そして振る舞いとかをパクろう!」
とりあえず、はじまりの街へと向かった。
あそこには人が多いからだ。
「確か、全身金色って噂だったよね」
人は多いが、お目当ての人物は見つからない。
「あの人は……!」
代わりに、見知った人物を発見する。
あのツーサイドアップは……。
「ジルコ……さん!」
あの時はすっかり騙された。
だが、すぐに落ち着く。
「キレても駄目だよね。情報集情報収集~♪」
セイは笑顔でジルコに話しかける。
「やあ」
「あら? 貴方は……確かこの前戦いました、セイさんですわね?」
「そうだよ。今ちょっと人探しをしているんだけど、中々見つからなくて。コノミさんってプレイヤー何だけど」
「ああ、あの方ですわね? 何か用でもあるんですの?」
ジルコはコノミの姿を思い浮かべた。
「ちょっと主人公力を磨くのに参考にしたくて」
「主人公力……?」
「ほら、あの人勇者って呼ばれてるじゃん」
「そういえばそうかもしれませんわね。でも、お勧めはしません。最近は戦績もあまり良くないようでしてね。勇者と呼ばれなくなって来ているんですわ」
「えー! そうなの? ……じゃあ、私はどうすればいいの……?」
「何を悩んでいるか分かりませんが、ワタクシは今から執筆の時間ですので失礼しますわ」
「執筆……?」
「ああ、貴方には言っていませんでしたわね。ワタクシ、ネット小説を書いているんですの」
「ネット小説……?」
「あら? 貴方知らない?」
「知ってるけど、読んだことはないなぁ。でも……! 小説を書いているって事は、主人公力の磨き方も詳しいんだよね!?」
「へ!?」
「私を育成して欲しいな! 先生お願い!」
「せ、先生!?」
ジルコは予想外の発言に驚いた。
(先生……! 何ていい響きですの!!)
目をウルウルとさせる、セイ。
(執筆は、後でもできますわ!)
ジルコの瞳に炎がともった……気がした。
「厳しいですわよ!!」
「え!? じゃあ!!」
「ワタクシがセイさんの主人公力を上げるのをお手伝いしますわ!」
「本当!? やったー!!」
(あら? こんな表情ができたんですわね)
セイは嬉しかったのか、笑いながら喜んだ。
「じゃ、早速今から始めますわ! しかし、ワタクシが執筆している作品は悪役令嬢もの……。なので、ゲームジャンルの主人公を参考にしますわ! 人気作研究の為に様々な作品に目を通しましたので、その辺は心配しないでくださいですわ!」
「了解! 先生!」
「では、まず一つ目! 【主人公たるもの不遇であれ!】ですわ!」
「不遇……?」
「例えば、不遇な職業とか武器とかスキルとかを使うのですわ!」
「弱くてもいいの……?」
「最初はそれでいいんですわ! 段々と強くなっていって最終的には最強クラスのプレイヤーに成り上がるんですわ!」
「それは燃えるね! あれ? でも私の【聖女】は不遇じゃないスキルだよ? これじゃ駄目なのかな?」
GWOにおいて、【聖女】は取得が難しいが、攻守ともにバランスの取れている人気職業だ。
不遇職業では無い。
おまけに使用武器も杖である。
これもまた、不遇武器では無い。
「う~ん。必ずしもそういう能力が駄目という訳では無いですわ。とりあえず、これはスキップしますわ」
「いいのかな?」
聖女は武器が杖しか装備ができないので、仕方が無い。
「いいんですわ! では次【主人公たるもの変人であれ!】ですわ!」
「へ、変人? 私はただ主人公オブ主人公になりたいただの女の子だよ?」
(素質はあるみたいですわね。性格の方はクリアですわ!)
ジルコは頷く。
「例えばですわね。他のプレイヤーがしなさそうな事をし、運営の予想を裏切るのですわ!」
「どうやって?」
「それは貴方が自分で見つけるべきですわ。それにセイさんはイベント中に夜中に池に潜って遊んでいたと聞きました。そんな感じですわ」
「夜中に池に潜るって、そんなに変かな?」
変である。
「その意気ですわ! 次の【主人公たるもの無自覚であれ!】もこれでクリアですわ!」
「次は?」
「【主人公たるもの親しき友を作れ!】ですわ! これは簡単ですわね! セイさんは確かクラン【白く染まる闇】のリーダーでしたわよね?」
「それだったら、もう解散したよ。私に呆れて皆抜けてっちゃった。まぁ、イベントの為だけに即席で作ったクランだから仕方が無いけど」
「そうですの……。あっ! でも主人公はよく追放されるものですわ! クランリーダーは貴方ですが、皆の方が出ていって1人になったのならば、追放のようなものですわ! それに……」
「それに……?」
「ワタクシも以前似たような事があったんですの!」
「そうなの?」
そうである。
ジルコは以前、即席パーティでパーティ対抗トーナメントに参加した後、見限られたのだ。
ただ、これはジルコの仲間殺しの戦法のせいだ。
「とにかく、親しき友なら別にゲーム内じゃなくていいですわ! リア友を誘うのも有ですわ!」
セイが「シュン……」と落ち込む。
「リア友かぁ……リア友ねぇ……」
(この反応は……!)
ジルコは何かを察したのか、話題を変える。
「まぁ、別にこれはスキップで問題ないですわ」
「いいの?」
「問題無いですわ! 次、【主人公たるもの地味であれ!】」
「地味……?」
「そうですわ! 皆に感情輸入されやすいように地味で、シンプルに可愛い外見にするんですわ! そう、普通の可愛い女の子になるんですわ!」
「今の私は派手だね。この真っ白さ気に入ってたんだけど……」
「無理に変える必要はありませんわ!」
ジルコは腕を組む。
「とりあえず、これで教えられることは全て教えましたわ!」
「これで終わりなの……? まだクリアしてない項目もあるけど」
「終わりですわ。で、おそらく貴方はこれから色々と試すと思いますわ。それで、この激レアアイテムを渡しておきますわ。先生って呼んでくれたお礼ですわ」
「これは……?」
セイが手渡されたアイテムをただのスイッチである。
「このアイテムの元々の持ち主を強制的に一度だけ呼び出せるアイテムですわ。一度しか使えないので、どうしてもという時に使うのですわ!」
「ありがとう。何かあったら使うね。せーんせいっ♪」
(やっぱり先生呼びは最高ですわ~!)
こうして、セイは主人公力を高める活動を始めた。




