184.アルカ、ハンバーガー屋の開店を希望する
真っ白な部屋にクラン【聖なる漆黒】に所属する6名が招待された。
果てが無いのではないかというような真っ白な部屋だ。
「ではでは! 運営の方をお呼びするリン! 椅子と机を用意するから座ってリン!」
マスコットキャラクターのドラリンが消滅すると、机と椅子が用意される。
アルカの椅子は大きめの物が用意されている。
「遂に! 遂に運営の方とお話ですよ!! 楽しみです!!」
ゲーム大好きなキメラは、ニコニコと笑みを浮かべる。
このような機会はめったに無い。
その為、嬉しいのだろう。
「そうだね。私は社長とお話がしたいのだが」
カノンは自身の髪の毛をクルクルと指で絡めながら言った。
社長の正体が公になっていない為、非常に気になるようだ。
『人間じゃない』、『人工知能だ』といった都市伝説が出ている程、謎が多い人物である。
「とりあえず座りませんか?」
「そうだな」
ミーナの提案で皆が椅子に着席する。
すると、空間が裂け、その中から2人の男が出現した。
「男……?」
どう見ても女性には見えない。
「すまない。ここはGWO内であってGWO内ではない。本来のGWOならば男など場違いだろうが、許してくれ」
真ん中分けの真面目そうな男はそう言った。
「なーに格好付けてるんですか(。◕ˇдˇ◕。)/ 皆ごめんね? 先輩いつもこんな感じだから(。◕ˇдˇ◕。)/」
緑アフロの強面の男がヘラヘラしながらそう言った。
この2人は先輩と後輩の関係のようだ。
「運営の方ですか? はじめまして。私はアルカと申します」
「出たっ! アルカ殿の超真面目モードでござる!!」
真ん中分けの男は腕を組む。
「そこまでかしこまらなくていい」
「何で先輩はそんなに偉そうなんすかw」
「偉そうにしているつもりはないのだが……」
「少なくともお客様に対する対応じゃないっしょ(。◕ˇдˇ◕。)/」
「確かにそうだな……ゴホン!」
真ん中分けの男は、咳ばらいをし、口調を変える。
「失礼しました。GWOの運営です。こちらこそ宜しく御願い致します」
「いや、あの、別にさっきの感じでもかまいませんよ……?」
アルカが提案する。
むしろ、ゲーム内の空間なので、敬語でなくとも違和感はない。
「ですが……」
「別にいいでござるよ! 拙者もいつも通りいくでござる!」
極が言った。
他の皆も同意見のようだ。
「では……お言葉に甘えさせてもらう。で、何が聞きたい?」
悪気は無い。
この男は不器用なだけだ。
むしろ、ユーザーの事はとても大切にしている男だ。
「はいっ! GWOアバターがランダム生成ですが、どうやってあんなに1人1人違うアバターを用意できるんですか? ランダムなら似たり寄ったりになったり、不自然になったりすると思うんですが、皆かわいいです! おまけにまるでリアルの自分自身を操っているかのように馴染みます! とにかく凄いです!! どうやってるんですか!!」
キメラが手を挙げ質問をした。
嬉しさのあまりか、テンションが高い。
そして、運営からは予想外の言葉が飛んで来る。
「すまない。分からない」
「へ? 分からないっていうのはどういうことですか……?」
「そのままの意味だ。アバターのランダム生成プログラムは社長が組んでおられる。社長以外に知っている者は、ほとんどいないだろう」
「そ、そうなんですか……?」
キメラはキョトンとしてしまう。
「ごめんねっす! 小生も知りませぬ(。◕ˇдˇ◕。)/」
緑アフロの運営はペロペロキャンディを舐めながら答えた。
「う~! 気になります! でも、ありがとうございました!!」
キメラは少し残念に思いつつ、一体どんな凄い技術を使っているのだろうかと、想像を膨らませていた。
「次は私いいですか?」
どうやら次はミーナが質問をするようだ。
真ん中分けの男は、無表情で「ああ」と頷く。
相変わらず客相手に偉そうだ。
「えーと、異世界って本当にあると思いますか?」
「ゲームと関係ない質問だが……いいだろう。俺としては、何とも言えないが、似た世界はあると思っている。言語が違っていたりだとか、魔法が存在していたりな」
「ふむふむ」
「ミーナさんが俺に言っているのは、おそらくネットで良く言われるファンタジーな世界あるとかいう事だろう?」
「はい!」
「俺はあると思っている」
この男、社長と一度だけ話したことがある。
ボイスチェンジャー&音声だけだが……。
その時社長が言っていた事を思い出す。
『この世界の平行線にはね、想像するだけの数の世界が存在していると思っている。例えば、他は全く一緒でも、僕と君がこうして話をしないまま、時が過ぎ去った世界とかね』
そう言われたのだ。
深い意味があったかは不明だが、真ん中分けの男は真面目なので、色々と考えてしまったのだ。
「そう……あると思っている。想像できるだけの世界があると、社長がおっしゃられた。俺も同じ意見だ」
「おー!! 夢がありますね!! ありがとうございました!!」
次はアルカが控えめに手を挙げる。
「いいですかね? 質問と言うより、要望なのですが」
「ああ」
「GWO内にハンバーガー屋を開店して欲しいんですが、どうでしょうか?」
「検討してみよう」
「ありがとうございます!」
特に聞きたい事が無かったのだから仕方が無い。
「じゃあ次は拙者! えーとっ! いつも楽しいゲームをありがとうでござる」
「質問じゃないな。だが、非常に嬉しい」
真ん中分けの男は、本当に嬉しかったようで、満面の笑みを浮かべた。
「次は私ね! ユニークスキルってどのくらい隠れているの?」
「簡単に言うと、今はまだ半分も見つかっていないな」
「そんなに!?」
「ああ、だから見つけてくれ。俺が作ったのもあるからな」
「そうなのね! 楽しみだわ!」
割と普通な質問をしたクローなのであった。
真ん中分けの男は、またもや楽しみにされ嬉しかったのか、下を向きニヤリとしながら小刻みに複数回頷いていた。
「じゃあ、最後に私だ。社長と話がしたい。いいかな?」
「残念ながらそれは無理だ。社員ですら、話したことのある人物は限られている」
「では、質問だ。社長は都市伝説で人工知能なんじゃないかとか言われているが、実際はどうなのかな?」
「? 人間なんじゃないのか?」
真ん中分けの男もよく分からないらしい。
だが、普通に考えれば人間だ。
「そうか。ありがとう。社長と話せないのは少し残念だけど」
「すまない」
(まぁ、少しだけ情報は得られたから良しとするかな)
カノンは軽く溜息をついた。
「では、短い間だったが、ありがとう。このゲームを楽しんで遊んでくれている人がいるのは勿論知っていたが、こうして直接話してみると、何というか……凄く嬉しい気分になる」
「直接ってw これVRっすよ(。◕ˇдˇ◕。)/」
「細かい事は気にするな」
そして。
「最後になるが、こちらからも質問いいだろうか?」
「質問?」
アルカは首をかしげる。
が、すぐにピンときた。
(あー……きっと激強スキルで暴れ回った事を言われるんだろうなぁ)
「そう難しく考えなくてもいい。アンケートのようなものだ。実は俺達も意図はよく分かっていない」
「社長からのご指示なんすよね。勿論メールでのご指示っすけど(。◕ˇдˇ◕。)/ 小生には意図が分からないっす(・。・)」
真ん中分けの男は、紙に文字を書く。
「このワードが分かるプレイヤーがいないかの調査を命じられている」
「たいら……せい?」
アルカは首をかしげる。
「う~ん。他のゲームのスキル名ですかね?」
「暗号かな?」
「ひっくり返すと何か別な言葉になるのではないでしょうか!!」
キメラ、カノン、ミーナもアルカと同様の反応のようだ。
だが……。
(何で……何で皆分からないでござるか?)
(確かに……VR技術の発達によって元号の違いが出てきても不思議じゃないわ。けど……ブレイドアロー社の社長は何で私達の世界の言葉を知っているの……?)
しばらく経ち、真ん中分けの男が言う。
「すまない。実は俺もよく分からないんだ。ただ読み方は教わっている。平成、これがこの文字の読み方だ」
「平成……」
「アルカさん、何か心当たりでもあるのか?」
(確か、極かクローが言っていた気が……)
だが、アルカは「知りません」で通した。
「そうか。別に知らなければそれでいいらしい。ただ、答えなのかどうかは分からないが、メールの最後にこう書かれていた」
真ん中分けの男は、用紙にメールの内容を読み仮名付き書き足す。
【平成は元号】
「分かるか? もしかすると、クイズの可能性もあると睨んでいる。だとしたら、これがヒントなのかもしれない」
「そうですか」
アルカは頭を悩ませる。
クイズは苦手のようだ。
悩んだ末、口を開く。
「元号って一体なんなんでしょうね?」




