181.希望の錬金術
ちょっといつもより長めです!
「やられたね」
「ああ」
とても静かな部屋の中で皆がジッと机とにらめっこをしていた。
作戦が失敗してしまい、落ち込んでいるようだ。
「「じゃーん!! 助っ人登場!!」」
そんな中、小学生くらい (というかリアルで小学生なのだが)の天使と悪魔のアバターを持つタミエルとカルマがハイテンションで会議室へ入って来た。
同じクランだが、別行動だったので、ジルコが最初の会議の時に呼んでおいたのだ。
「あー、お前達ですの……」
「何だよその反応!!」
「というか皆暗いの何で?」
タミエルは頬を膨らませ、カルマはこの暗い雰囲気を疑問に思う。
「ちょっと作戦に失敗してな」
「アルカ、お久! って負けちゃったの?」
「そうだな。相手のステータスはハッキリ言って化物だ」
「アルカより?」
「ああ。全員でかかっても無理だった」
「マジ……?」
タミエルは信じられないようで、驚いた。
「だけど、諦めないぜ! 皆、何かアイデアを! 特にカノンちゃん!」
「私? 頼ってくれるのは嬉しいが、私も神様じゃないからね。正直、困っている所だよ。まぁ、全ユーザーで通報してBANしてもらうとかかな? 現実的じゃないけどね」
不正をしている訳じゃない。
おそらく無理だろう。
カノンもそれを分かっていた。
「ゲーマーのキメラちゃんは何か無いかな?」
「私ですか!? 正直、お手上げですね……。あー……魔法少女アニメでしたら、奇跡が起きて新しい力に覚醒とかするんですけどね……」
自身の好きな魔法少女アニメを思い出し、ぼんやりした。
「キメラちゃん……! そうだ! そうだな!!」
「へ?」
「皆! こうなったら有り得ないアイデアを出しまくろうぜ! 願望でもいい! ゲームの枠に囚われずに、自由に!!」
「ど、どういう事ですか?」
「これはVRゲームだ。携帯ゲームでも据え置きゲームでも、ソーシャルゲームでもない。もう1つの現実なんだ! だったら、ゲームをぶち破って考えようぜ!! アニメでも何でもいい! とりあえず、イケるかもと1ミリでも思った意見はドンドン出すんだ!」
「あ、熱い……」
アルカの呼びかけで、皆が顔をあげる。
そして、様々な意見が飛びかう。
「心臓を狙うっていうのはどうかな? 少し野蛮だけど」
「「食べちゃうってのはどうかな?」」
「切腹させるのはどうでござるか!?」
「毒を飲ませましょう!」
だが、どれもこれも今まで検証され、無理だと分かっている事であった。
そんな中、アルカがふと気が付く。
「ジルコちゃん。ジルコちゃんって作家何だよな?」
「悪役令嬢が好きで、影響されてワタクシも書いていますの!」
ジルコはまだ中学生であったが、ネット小説サイトで小説を書いている。
「例えばだ。VRゲーム系のネット小説って無いのか?」
「ありますわよ。で、それが何か……?」
「“事実は小説より奇なり”っても言うだろ? 例えば、圧倒的に強い相手が出てきた時は、ネット小説ではどうするんだ?」
「その言葉、使い方合ってますの? 質問に関しましてはう~ん。作品によって様々ですわ。そもそも苦戦しない作品もありますし……」
「だったら、主人公が強い作品はどんな能力を持っている事が多いんだ?」
「それも色々ですわ! ただ」
「ただ?」
「外れスキルとか不遇スキルとか、そういうものを予想外の使い方をして成り上がる作品は多いですわね」
「おお!!!! 熱いな!!!!」
ジルコの発言で、キメラがビクッとなる。
「外れスキル……! ちょっと待ってください! 私、貰ったんです! このイベント中に外れスキルらしきものを!!」
キメラは皆にそのスキルのテキストを見せる。
☆
【アルティメットフュージョン】
・取得条件
職業【魔法使い】、又はその派生職業。
・効果
使用者の最大HPを【1】にし、自分、又はパーティメンバーが調合を行う際に発動できる。
調合の成功率を、いかなる場合でも100%にする。
これを発動する際に変動した最大HPの数値は、1時間持続する。
☆
「キメラ君。貰ったスキルってこれだったのかな? 私もあの時、知りたかったな」
「はい! 聞かれませんでしたので、答えませんでした!」
「はっはっは! 君は人の感情を変化させるのが上手だね。調合という表記があるが、調合と言えば錬金術師。ミーナ君、プロの意見を聞かせてくれたまえ」
ミーナは人差し指を立て、ドヤ顔で答える。
「合体です!! そう、これがあればあれができます!!」
「あれって何だ?」
「アルさん、あれですよ! 前極さんとクローさんを錬金窯に入れて、大失敗したじゃないですか! キメラさんが授かった、このスキルがあれば……!」
「確実に成功するって訳か!」
「そうです! いっえーい☆」
錬金釜には、レシピが無い素材を入れた際に、AIが自動でアイテムを生成してくれるシステムがある。
以前、そんな錬金窯にプレイヤー同士を突っ込んだらどうなるか試し、大失敗を犯した事があった。
※詳しくは139話、140話参照。
「あの時は酷い目にあったんだから!」
置き去りにされた事を思い出し、クローは少しムッとした。
ミーナは実験に失敗し、錬金窯が大爆発しそうになった途端、アルカを連れ、逃げたからだ。
「はは……すみません」
「拙者は気にしてないでござる!」
アルカは、言う。
「じゃあ、早速練習してみようぜ!」
「あー……それは無理なんです……」
キメラが入手したのは、【インスタントスキルの書】だ。
それで覚えたスキルは一度しか使用が許されない。
「チャンスは一度か」
「はい。ですが、敵の目の前だと狙われてしまうので、ここでやっていく事は賛成です」
「確かに、キメラちゃんの言う事は最もだが……」
アルカは、この前取得した【女神モード】の持続時間が恐ろしく短いことを思い浮かべた。
「もし、10秒くらいしか持たない合体だとしたらマズイ。危険だけど、敵の目の前でやりたい」
「そ、そんなっ!!」
「ごめん」
「い、いえっ! むしろ興奮しているんですよ!! やっぱりこういうのは敵の目の前でやった方が燃えますよね!! アルティメットフュージョンは私が取得します!! 合体は誰にしますか!?」
キメラが目を輝かせ、周囲を見回した。
「ちなみに、今回は大きな錬金窯もあるので、アルさんも入れますよ!」
「おお! じゃあ全員で行くか!」
「ごめんなさい……大きい錬金窯は素材が3つまでしか入れられない奴でして……」
「だったら、俺抜きで小さい錬金窯使うか? そうすれば俺以外全員で合体できる」
カノンが話に割って入る。
「あまりお勧めできないね。今まで誰もやらなかった事をやるんだ。合体後、精神がどうなるかを考えると、3人ぐらいが限界だと思うな」
「じゃあ、アルさんと後2人にしましょう! 誰にします?」
「まずは、私が行きたい。今回のイベントは私が優勝して欲しいと頼んだものだからね。私が体をはらないのも心が痛むからね」
「えーとじゃあ、残り一人は……」
ジルコが華麗にジャンプし、着地。
「ワタクシですわ!」
「いや、私が行くわ!」
クローが手を挙げる。
「この前のリベンジよ!」
クローは負けず嫌いだ。
この前のリベンジをしたいらしい。
「だったらじゃんけんですわ!」
「望む所よ!」
「「最初はグー! じゃんけんポン!!」」
「私の勝ちよ!!」
「そ、そんなっ……!! アルカさんの最大のライバルのワタクシが参加できないだ何て!!」
この場にいる皆が思う。
(最大のライバル……?)
アルカ自身も同様の事を思っていた。
「まぁ、ライバルではあるけど……」
「最大ではないと……? く、悔しいですの!!」
こうして、以下の役割に決定となった。
・【アルティメットフュージョン】発動:キメラ
・調合素材:アルカ、クロー、カノン
・調合(錬金):ミーナ
「で、どうやって妨害されないように錬金窯に入るかだが……」
アルティメットフュージョンが発動さえしてしまえば問題無い。
問題は、錬金窯に入るまでだ。
「でしたら、ワタクシが隙を作りますわ! タミエルさん、カルマさん! あれをやりますわよ!!」
「あれってあれか!」
「でもあれってまだ未完成じゃ……!」
カルマは少し不安そうであった。
「大丈夫ですわ!」
「「ジルコが一番下手何だよ!」」
「言いましたわね! こうなったらここで決着をつけますわ!」
アルカは慌てて、割って入る。
「ストーップ! いやゲームだからそういうのもいいけど、今はやめようぜ!」
「確かに、今は相手が違いますわね」
「「血の気多いからね。この人」」
タミエルとカルマは揃ってため息をついた。
「じゃ行くか、カノンちゃん、ミーナ、クロー! ジルコちゃん達も、何をするかは分からないが期待してるぜ!」
「期待しててくださいまし! さぁ、行きますわよ! タミエルさん! カルマさん!」
こうして、7名は草原へと向かうのであった。
「アルカ殿! 気を付けるでござる!!」
「ああ! 勝って来るぜ!!」
再び草原へ到着。
「あれ? どうしたの? また勝負?」
「ふっふっふ! とっておきですわ!」
ジルコ、タミエル、カルマはステッキを取り出す。
「その棒で私とやる気?」
「違いますわ!」
3人はステッキを地面に突き刺し……。
「クルクル~」
「「クルクル~」」
ポールダンスを始めた。
ジルコの動きがぎこちない。
「何それ?」
「ポールダンスですわ!」
ジルコはポールダンスをしながら答えた。
「へぇ、で、後ろの人達は何をしようとしてるのかな?」
「見学ですわ!」
「じゃあ何であそこの人気Vtuberの錬金術師はメニュー画面を操作しているのかな? 人気Vtuber……昔の私なら嫉妬したけど、今はそんなでもないかな。私の方が特べッッッッ」
セイの頭上に巨大な錬金窯が出現し、それが降って来た。
ダメージはほとんど無く、痛覚に関しても、最大でタンスの角に小指をぶつけるぐらいしか感じないようになっている。
だが、それでもいきなりの事でフラついた。
「あわわ! 錬金窯の召喚場所を間違えちゃいました!! ですが、今のうちです!!」
「ああ……!」
3人はセイがフラついているうちに、素早く錬金窯に飛び込んだ。
そして、ミーナが錬金、キメラがスキルを発動させる。
「行きますよ! 錬金開始です!」
「スキル発動! 【アルティメットフュージョン】!!」
セイはフラつかなくなったようで、ポールダンス組のHPを一瞬で削り、続いて錬金を妨害する。
「もうスキルは発動しました。いかなる場合でも、止める事はできません!!」
キメラはニヤリとし、セイの攻撃により、粒子となり消滅した。
「キメラちゃんと同意見です! アルさん! 後は頼みましたよ!!」
続いて、ミーナも消される。
だが、錬金は止まらない!!
「あっちちちちちちち! あっつ!」
「この前もこのくらい熱かったのよ! 我慢しなさい!」
「アルカ君、クロー君。落ち着きたまえ。ふむ、50℃くらいか……。う~んいい湯だ」
「ええ!!??」
3人は虹色の光に包まれる。
「あっつ!!」
錬金窯は砕け。
「あっつ!!」
光に包まれた中から、希望が誕生する。
この状況を打破する、可能性を秘めた希望が……!!
四足歩行の漆黒のグリフォンのような何かが、3人の代わりに居た。
「完成!!!!!!!!!!!!!!!!!!
アルティメットレギオン!!!!!!!!!!!!!!!!!」




