180.練乳入りメロンソーダ
色々あったが、【聖なる漆黒】はジルコ達と協力してセイを倒す事に決定。
「よし、じゃあ作戦通りに行くか!」
草原フィールドへ出る前に、改めて皆に言うアルカ。
「良く言いますわね。作戦の詳細を決めたのはカノンさんですのに」
「相手の隙を突くってのは、俺が考えたから許して?」
今回の作戦の詳細はこうだ。
まずジルコが1人で行き、セイと話をし、油断させる。
そして、話が盛り上がった所で他のメンバーも一斉に草原へ出ていき、バラバラに散り、セイを混乱させる。
隙を見て背中からアルカが【コンファイン】を使用し、セイを装備し【装備破壊】で破壊する。
以上である。
ちなみに、このメンバーの中からジルコが行く事になったのか?
それには理由があった。
「ま、ワタクシ自慢する事は得意ですの! アルカさん達は、時が来るまでジッとしているんですわ!」
セイは“特別”な存在になりたいようであった。
ジルコは100%運で手に入れたユニーク武器、ダークカリバーを所持している。
その為、興味を持たれやすいだろうという事でジルコが選ばれた。
アルカでも良かったが、警戒されているので却下となった。
人気Vtuberのミーナという手もあったが、嫉妬で話を聞かれる前に消される可能性があったので、そちらも却下となった。
「頼んだぞ!」
「お任せくださいですわ! 皆さん、ワタクシが合図をしましたら、一気に出撃してくださいまし!」
まるでレイドボスのような扱いを受けるセイ。
もしかすると、このゲームのどのキャラよりも強いのかもしれない。
「ごきげんよう」
「またプレイヤー?」
ジルコが堂々とセイの前へと立つ。
セイは相変わらず余裕そうである。
「このエリアは天気がいいですわね~」
「? そうだね」
「折角ですわ! お話しません事?」
ジルコは丸い机と椅子を2つ用意した。
「ご遠慮なさらずにどうぞ」
「何だいキミ。ま、いいか。じゃあ、お言葉に甘えて」
セイはジルコの目の前に座った。
ジルコが指パッチンをすると、ティーカップに入ったメロンソーダが2つ出現した。
砂糖とミルクを入れ、ジルコはゴクゴクとそれを飲み、机にバンと叩き付ける。
「プハーッ!! 美味しいですわ!!」
「何でメロンソーダ……?」
「飲みたかったからですわ! ……それにしても、凄いスキルを持っているんですわね」
「ああ。凄いでしょ? 偶然見つけたんだ」
セイは嬉しそうにニコニコ話す。
自慢したかったのだろうか?
「夜中に池に潜って遊んでいたら偶然見つけてね」
「まぁ! 珍しい事をしますのね! ワタクシも自慢したいものがありますの!」
ジルコはダークカリバーを机の上に出現させる。
「これは?」
「ユニーク武器。魔剣ダークカリバーですわ! 完全ランダムで1名のプレイヤーにのみ、入手が許された武器ですわ!」
「へぇ! 凄いね!」
(あれ……?)
ジルコは思った。
想像していたより食いついてこない……と。
「羨ましいよ、うん!」
「それだけですの……?」
「え?」
「“特別”な存在になりたいとか何とか噂で聞いたものでして……何の努力もせずに入手した事を怒られるかと思いましたわ」
「あーそれはちょっと違うね。確かに特別な存在になりたい的な事は話したいけど、正確に言うのならば、【皆から注目を集め、永遠に忘れられないようなこの世のメインキャラになる】が正解だね」
セイはミサキに言った事と同じことをジルコに言った。
「この世のメインキャラ……?」
「うん。一言で言うのなら……“この世の主人公になりたい”」
「主人公……? ワタクシとしては、1人1人が自分と言う名の人生の主人公だと思うのですが。お違いでして?」
「そうかな? 例えばネットで有名な大人気Vtuberや配信者に比べれば今までの私はモブキャラだよ。ま、このイベントを圧倒的な力でクリアすれば、その知名度を利用し、主人公になれると思っているけどね」
炎上商法という奴であろうか?
「お?」
ジルコが練乳チューブを取り出し、セイのメロンソーダにぶっかけながら言う。
「ふふ♪ 要するに目立ちたいんですわね?」
「そうなのかな?」
「いいと思いますわよ♪ 夢を叶える為に一生懸命頑張る姿は立派な主人公ですわ♪」
チューブ内の練乳が全て注がれた。
練乳がティーカップから溢れる。
「私のやり方は否定しないんだね」
「正直、いきなりこんな事になって悔しいですの! ですが、それはあくまでワタクシのクランが1位にならなかった事に関してですわ! ワタクシの友人も言っていましたわ。 『ルールの範囲内であれば何をしても構わない』と。ワタクシ自身も同意見ですわ。だって……」
ジルコが、セイの目の前にある練乳まみれのティーカップを奪い、それをゴクゴクと飲みながらメニュー画面を操作する。
「ワタクシだって手段は選びませんもの♪」
「え?」
ジルコは練乳を口の周りにつけ、少し意地悪そうな笑みを浮かべ、セイを見る。
「ふふ♪」
どうやら、メニュー画面を操作したのは合図をアルカに送る為だったようだ。
「お、ジルコちゃんから合図が来た! 皆、出撃するぞ!」
【聖なる漆黒】の面々とエクレア、ミサキが次々と草原へ出撃する。
そして、一斉に散らばり、あらゆる方向からセイに攻撃を仕掛ける。
「随分と大勢だね」
セイは立ち上がり、チラッとジルコを見て言った。
ジルコはセイに斬りかかる。
「こうでもしないと勝てないですわ!」
「いいね。実に悪役っぽい。対する私は実に主人公だ」
「誉め言葉として受け取っておきますわ♪」
セイはジルコを杖でグサリと刺すと、一瞬でジルコのHPを削り取った。
「中々に面倒だけど……今の私の敵じゃないね」
セイはスキル【白龍化】を使用。
白い龍へと姿を変える。
「ぐっ!」
ワンパンで次々と倒されていくアルカの仲間達。
中には食べられてしまった者もいた。
「今よ! 【タイムサプレッション】!!」
クローが【タイムサプレッション】を使用する。
これで、一定範囲の時間が停止する……筈だった。
「何のスキルかな?」
なぜか止まった時の中を動けているセイ。
「な、何で動けるのよ!?」
「動ける……? ああ、行動を制限するスキルね。実はこの【白龍化】にはテキストに書かれていない効果があるんだ。そう、行動を制限するスキルを無効化する効果がね」
これでは鑑定系スキルを使用しようとも見破る事はできない。
そもそも、【白龍化】の発動中はゴリゴリとMPが削られていくので、ネタスキル過ぎて使用するプレイヤーは皆無に等しかった。
仮にそのような効果があったとしても、強いスキルだとは言えない。
だが、今のセイにとってはあまりにも有利すぎる隠し効果であった。
「じゃあね」
「きゃっ!」
止まらない攻撃。
【復活の果実】を持っていたメンバーはその場で復活するが、すぐに倒されてしまう。
「貰った!!」
アルカは、セイの背中に接近し、【コンファイン】を発動させる。
「ふっ!」
セイは【白龍化】を解除し、人間の大きさに戻り、回避する。
「何っ!?」
「終わりだ! 【ホーリーブラスト】!!」
杖から白い光線が発射され、アルカの体を貫いた。
そして、粒子となり消滅する。
「これで全員か」
草原には、セイがただ1人立っていた。




