179.協力はしますが、条件がありますわ!
アルカは、はじまりの街の噴水広場へとリスポーンされるとそのまま、クランホームへと向かった。
「ふっ!」
まるで勝ったかのような表情で、皆がいる会議室へと入室する。
「あら? ちゃんと我慢できましたのね」
「へ?」
ジルコがニコリと笑いながらそう言った。
「いや、実はアルカ殿が本気で勝ちに行って、【コンファイン】を使うのではないかとヒヤヒヤしていたのでござるよ」
「ははっ」
アルカは笑って誤魔化した。
隙があれば使っていたかのような表情だ。
「それにしても、ごめんな。お助けポイントが0ポイントになってしまった……」
セイのスキルにより、全ポイントを奪われてしまった。
「心配する必要は無い。勝てばセイ君の全ポイントが手に入るんだ。それにこれはあくまでも下見だよ。勝ち負けは関係ない」
カノンが冷静に言った。
あくまで今回は下見なのだ。
負けても問題無い。
それに、カノンの言う通り、勝てばセイの全ポイントが手に入る。
そうなれば、優勝間違い無しだ。
「そうですよ! 私のクランもポイント0になってしまいましたからね! 私が負けたせいで!」
「ミサキさん。貴方は前向きですね」
ミサキはジルコのクランに所属している。
その為、ミサキがセイに倒された事により、ジルコのクランのポイントも0になってしまっている。
「それはそうと、セイの弱点が分かった。皆も今の生戦闘映像を見ていて分かったと思うけど、セイは割と話を聞いてくれる。その時は隙だらけだ」
「あー! それは思いましたよ! 私も無駄に倒された訳じゃありませんからねぇ!? 弱点を探っていたんですよぉ!!」
ミサキは得意げに言い放った。
「えーと、つまり、誰かがセイと話している間に不意打ちを食らわせるって事……?」
クローが眉を曲げながら言った。
嫌なのだろうか?
「何か、卑怯じゃない?」
「まぁ、他に方法無いし……」
アルカも真っ向勝負をしたいタイプなのだが、今回ばかりは仕方が無いと思っているようだ。
「向こうもルールに乗っ取っている。だったらこっちもルールに乗っ取っていればいいんじゃない?」
エクレアが銃を磨きながら言った。
エクレアはルールの範囲内であれば、あらゆる手段を使うタイプのようだ。
「あんた、いつも野蛮とか何とか言ってる割に結構悪いわね」
「君も口が悪いね」
「は? どういう意味よ!」
クローが机を、バン! と叩き、エクレアを睨み付けた。
「け、喧嘩はやめましょう! 今から私達は協力をして、セイさんを倒すんですから!」
キメラは拳を天に伸ばした。
「それもそうだね。で、アルカ、ボク達からも言いたい事がある」
「何だ?」
「君が倒すって事は全ポイントが【聖なる漆黒】に移る事になる。そうしたらボク達はどうやってそれを君達から奪えばいいの?」
これでは、ジルコ達が協力するメリットが無くなってしまう。
「特殊なルールで勝負でもして、それでどっちが優勝か決めるか? 勝った方が全ポイントを得られるとかにすれば、平等だ」
「約束は守ってくれるんだよね?」
「ああ! ……と言いたいけど、一番優勝したがっていたカノンちゃんはどう思う?」
カノンは即答する。
「いいと思うよ。どうせ私達が勝つと思っているからね」
「あら? 言いますわね! あっそうですわ! もう1つ条件宜しい事?」
ジルコがもう1つの条件を提示する。
「キメラさんには言いましたが、ワタクシ、悪役令嬢ものが私好きですの」
「あっ! 言ってましたね! ちゃんと読みましたよ!」
「まぁ嬉しいですわ! で、その布教した小説なのですが、キメラさんがご存じの通りネット小説が書籍化したものですの」
「みたいですね」
「で、実はワタクシも同じサイトでネット小説を書いているんですの!!」
アルカは何となく察し、口を開く。
「えーと……協力する代わりに、俺達にそれを読めという事だな?」
「お話がお早いですわ!!」
嬉しそうにドヤ顔で頷くジルコ。
【聖なる漆黒】の面々は、「別にそれくらいなら」とアルカ以外は了承した。
アルカは……。
「アルカさんはワタクシの作品を読みたくないのですの……?」
ジルコが露骨に悲しそうな表情を見せた。
演技である。
「いや……別にジルコちゃんのが嫌とかじゃなく、字ばっかりの本って何か苦手で……うん」
「普段本は読まないんですの?」
「漫画とかなら読んでるぜ! 小説は字ばっかりだから読んで無いぜ!」
「アルカさんは、小学生ですの!?」
普段のアルカらしくない。
普段のアルカなら、「それくらいならいいぜ!」と二つ返事をする所なのだが……。
余程活字が苦手なのかもしれない。
「アルカ殿! 優勝する為にも協力してもらうべきでござる! というか、もう既に協力して貰ってるでござるよ!」
「くっ! 確かに極の言う通りだ……」
「そこまで迷うのでござるか!? だったら拙者が読み聞かせしてあげるでござる! それだったら字を読まなくても大丈夫でござる!」
「本当か!?」
「本当でござる。寝る前に眠くなるまで少しずつ読んであげるでござる」
「サンキュー! 流石、俺の数少ない友達なだけあるな!」
アルカはドヤ顔でジルコに言う。
「その条件、受けようではないか!!」
(アルカさん、真面目にリアルは小学生ですの……?)
ジルコは、呆れと疑問が混ざった表情をした。
実はアルカが28歳な事を知ったら、驚く事間違い無しだろう。




