178.目的は果たした
アルカは、はじまりの街の出口までやって来ると、物陰から1人のプレイヤーがサッと出現した。
「お久しぶりですねぇ!!」
見覚えのあるプレイヤーであった。
「み、ミサキちゃん?」
「そうですよ! 忘れましたか?」
「いや、覚えてるけど……うん?」
若干困惑していた。
正直、ミサキとはもう会う事は無い、又は会うとしてもかなり先だろうと考えていたからだ。
「感動しちゃいましたか?」
「そういう訳じゃないんだけど……この前俺を追うのを辞めるとか言ってなかったか?」
「言いましたけど」
「じゃあ何でここに……?」
「勘違いしないでください。別に貴方を追っていた訳ではありません」
アルカに勝つ為、しつこいくらいアルカの事を追いかけていた過去があるミサキ。
今回は違う理由らしい。
「今私は、ジルコさんのクランに所属しています。つまり、アルカさんの助っ人ですよ」
「そうなのか!? じゃあ、ジルコのクランの最後の1人って……」
「そうですよぉ!! 私の事ですよっ!!」
ミサキはドヤ顔で宣言したのであった。
「なるほどな。あれ? でも、ミサキって【エレメンタル☆シスターズ】に所属していたんじゃなかったのか? いいのか?」
ミサキはヴァーチャル配信者だ。
事務所に所属しており、そこの事務所が設立したチーム【エレメンタル☆シスターズ】に所属している。
クランもチーム名と同じ、【エレメンタル☆シスターズ】であり、そちらに所属していたのだが……。
「あれ? 知らないんですか? エレシスなら脱退しましたよ。事務所も契約解除しました」
「え? そうなの?」
「はい。やっぱり事務所に所属していますとNGが多くてですねー。自由にできないですからね。あっ、心配しないでください。このアバターとか他の装備とか、事務所に一切返してませんから弱体化もしてませんよ!」
契約違反では無いので、貰えるものは全て貰ってきたらしい。
「むしろ前より強くなってますよ!」
「それなら良かった。頼りにしてるぜ!」
※“あのやり取り”的に、こうも早く再開するとは思わなかったアルカであったが、気持ちを切り替え街を出る。
※【117.ファンタジック☆フィールドを攻略せよ!】参照。
「あれ? 居ませんねぇ」
草原に出るが、セイの姿はなかった。
「本当にここに出るのか?」
アルカがそう言うと、2人の目の前にプレイヤーが現れた。
「「!?」」
全身純白な装備で身を包んだ【聖女】、セイであった。
「いつの間に目の前に……!」
「あれ? 見えなかったのかな?」
セイはニコニコと笑っている。
非常に余裕そうだ。
「くっ! 【ハイドロレーザー】!!」
(出た! ミサキちゃんのお得意のスキル!!)
ミサキの手から、水のレーザーが発射される。
セイはそれを避けずに食らう。
「冷たいね」
「ミサキちゃんの態度がか? それとも水が冷たいって事か!? どっちなんだ!!」
「どっちもかな」
「なるほど! ありがとう!」
ミサキはジト目でアルカを睨む。
「いや、どっちでもいいじゃないですか!」
「ごめん」
セイは笑う。
「仲がいいんだね」
「永遠のライバルって奴ですよ。それより、なぜ私達がここに来たか分かりますか?」
「私を倒す為?」
「そう! 貴方を倒す為ですよぉ!! はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
ミサキは武器の大鎌を構え、回転しながらセイに突っ込む。
「おっと」
「なっ!? サイクロンアタックが!?」
そんなスキルはない。
セイは鎌を持ち、それごとミサキを放り投げる。
「ひゃー!」
ミサキは、投げられ、その後地面をゴロゴロと転がった。
「そういえば……ミサキさんは、Vtuberなんだっけ?」
「そうですけど、何か?」
ミサキはすぐに立ち上がり、答えた。
「特別な存在になった気分は最高でしょ?」
「どういう意味ですか? そこのアルカさんにでも分かるように説明してください!!」
ミサキはアルカをチラ見する。
(ミ、ミサキちゃん……し、失礼すぎる!! 別にいいけど!!)
とか思ってるアルカなのであった。
セイは説明を続ける。
「私は小さな頃から、なりたくない存在があった。それはモブキャラだよ」
「モブキャラ……?」
「そう、だから人気Vtuberの君みたいな存在を見ると羨ましくて仕方がないんだ。でもこれは私だけじゃないと思う。例えば……そうだね、君のファンはウルチャをくれる事があるよね?」
ウルチャとは、ウルトラチャットの略である。
簡単に言うと、投げ銭である。
「それはきっと特別な存在になりたいからだと思う。SNSで目立とうとする人が多い事からもそう考えられるでしょ? けど、それは特別になったと言い切れない。少しの間、目立つだけで、結局はその辺のスライムと変わり無いんだ。例えば、君はファンからのメッセージを読み、返信した際の事を覚えているかい?」
「覚えていますよ!」
「1人1人かい?」
ミサキは空を見る。
返答に困ったので誤魔化しているようだ。
「空が綺麗ですね」
「ふふっ! ま、それも無理はない。ファンであるモブキャラ側の人達は覚えていても、メインキャラの君は覚えていなくても仕方が無い。だからこそ、私は思っているんだ。特別な存在になりたいとね! このイベントで圧倒的力で1位を獲得し、皆から注目を集め、永遠に忘れられないようなこの世のメインキャラになる!」
セイは、両手を天にかかげ、右膝をあげる。
(何だこのポーズ)
アルカは疑問に思った。
なぜ右膝をあげたのか? と。
「そこのアルカさんも似たような感じだね。特別なアバターと得て、有名人となった。ネットで検索すれば、君の事はすぐに出て来る。君も立派なこの世のメインキャラだ」
「それは思っている」
「は?」
「俺と君は似た者同士だ。俺も前から特別な存在になりたくてな。夢が叶ったよ」
「そうか。なら私の気持ちが分かるだろう?」
「ああ、分かる。さっきの例えは、分かりにくかったけど」
Vtuberの配信を見ている訳でも無く、SNSもほとんどやっていないアルカにとっては分かりにくい例えであった。
「後、何か勘違いされそうだから言っておくけど、俺は別に反則行為をしている訳でもない君を否定はしない」
「じゃあ何でここに来たのかな?」
「ここに来た理由は1つ! 君に勝って優勝する為だ!! だから、この勝負、絶対に負けられねぇ!!」
データ収集の為の下見的な戦闘の筈なのだが、なぜか“負けられねぇ!!”と、謎の発言を繰り出したアルカ。
おそらくハッタリだろう。おそらく……。
「元気でいいね」
セイがアルカに対して返答している途中、ミサキはセイに鎌での攻撃を仕掛ける。
「油断しましたね!」
前に進みながら、鎌を振るう。
あの大きな武器を持ちながら、かなりの素早さだ。
「バイバイ」
「ぬもっ!?」
セイが手でミサキの体をはらうと、ミサキのHPは一気に削られる。
粒子となり、消滅する。
「何て攻撃力と速さだ……!」
ただ手ではらっただけで、一撃でミサキを倒したのだ。
驚くのも当然だ。
(だが、隙はある筈だ……!)
そう考えていると、セイが目の前にいた。
(嘘だろ……負けるのか……? ん? そういえばこの勝負の目的ってデータ収集だよな)
先程のやり取りで分かった事がある。
セイは意外と話を聞いてくれる。
つまり、その時に隙ができるというデータが取れた。
「随分と余裕そうだね」
「勝利への道ができたからな」
「そう。【ファイアボール】」
アルカに火球がヒットし、HPゲージが0まで削れる。
「ふっ!」
アルカは燃えながら笑った。




