177.勝利方法
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「お、来たよ」
「何がだ?」
アルカはメニュー画面を操作するエクレアに対し、尋ねた。
何やら、他プレイヤーから来たメッセージを確認しているようだ。
「ボク達のチームって、4人だったでしょ?」
ジルコ陣営4人ではクランが作れない。
このイベントに参加するには、クランに加入しているのが絶対条件だ。
という事は、ジルコ、エクレア、タミエル、カルマの他にもう1人加入したという事になる。
「新メンバーが、こっそりとセイの戦闘を観察し、その観察結果を送ってくれたみたいだよ」
メッセージ内容をまとめると、こうだ。
・火力のある攻撃でも、ほとんどHPを削れない。
・ダメージを与えられても、すぐに回復されてしまう。
「まぁ、圧倒的なステータスを持っていれば、こうなるだろうね」
エクレアは腕を組みながら言った。
「ステータスの暴力……ですね……」
キメラが半ば諦めているような表情で言った。
「戦闘テクを磨かずに、アバターの能力頼りにゴリ押しで戦闘を進めるか……まるで俺じゃん」
アルカは笑う。
いつもの自身の戦法そっくりだったからである。
「何をヘラヘラしているんですの!? どうやって勝てば良いか考えてくださいまし!」
「俺こういうの考えるの苦手だしなぁ……カノンちゃん!」
アルカは、思いつかなかったのか、カノンに話題を振る。
「そうだねぇ」
紅茶を一口飲み、天井を5秒程見つめると、その後アルカに視点を合わせる。
「攻撃面、防御面がアホみたいに高いだけならば、状態異常で倒す、即死攻撃を当てる。で、何とかなりそうなものだが……その辺りも対策してそうだしねぇ」
即死攻撃系スキルは強力すぎる攻撃なので、対策は容易だ。
アクセサリーで対策する事も可能なくらい、お手軽に対策ができる。
状態異常に関しても、職業【聖女】にはそれらを解除するスキルが備えられている。
そもそも、素早さが高過ぎて、当てるのも至難の業なのだが。
「どうしたものかね。キメラ君、何かいい意見はないか?」
「えっ!? 私ですか!? えーと……」
あたふたしてしまうキメラ。
「えーと……相手のステータスを上回ってゴリ押しするとか、ですかね?」
「現実的ではないね」
「いきなり振られたもので……あっ!」
キメラが表情をパァッと明るくする。
「アルカさんのあれ! あのプレイヤーを装備するスキルと装備を破壊するコンボ! あれでしたら即死攻撃扱いにならない筈です!」
「では、キメラ君。あれをどうやって当てるんだい?」
「え、えーとですね……」
再びキメラがあたふたしていると、クローが発言をする。
「私のクロノスピアの内臓スキルを使えばいいわ!」
クローは知らない人の為に、自身の時間停止スキル【タイムサプレッション】の効果を説明した。
そんなスキルがあるのか、と驚く者もいたが、話を進める。
「【タイムサプレッション】はスキルの発動時、一定範囲の時間が止まるわ。だから、それに巻き込まれない位置にいて、相手の時間が止まったのを確認したら一気に攻撃を仕掛ければいいわ!」
「何だ、意外と簡単だな」
動かない相手にスキルを当てるだけ。
アルカは、「これはいける!」と伸びをした。
「それがそうもいかないのよね。効果が強力な分、一度使用したら24時間は使えなくなるし、一度でも発動を妨害されたら終わりだわ」
「大丈夫だ。俺の持つプレイヤーを装備するスキル【コンファイン】も24時間に一度しか使えないからな」
何が大丈夫なのか不明だが、とりあえずいけると思っているらしい。
「チャンスは一度きりなのよ!?」
「作戦がある」
ユニークスキルである【タイムサプレッション】については、まだ効果を知らないプレイヤーが非常に多い。
その事も踏まえ、アルカは作戦を提示した。
「誰かが注意を引き付け、その隙にクローがスキルを発動するんだ」
「滅茶苦茶シンプルな作戦ね……。でもそれがいいわね」
「という事で、まずは俺が下見に行ってくる」
アルカはストレージからドローンのようなアイテムを取り出す。
体をいくら動かそうとも、周囲を浮遊している。
ちなみに、値段が結構高い。
「これ浮かせて戦闘してくるから、今度は映像を見て分析してくれ。相手の性格とかも込みでな」
どうやったら注意を引き付けられるかも分析する必要がある。
そう考えたようだ。
「ちょっと! 1人で行く気!?」
「今のイベント中のデスペナは、マイナス100ポイントに加え、街にリスポーンするだけだ」
ポイントに関しては、今更100ポイント減った所でどうという事も無い。
セイの居場所もはじまりの街を出てすぐの草原らしく、そこまで遠くでは無いので、セイが逃げなければ再戦も用意である。
「それに0ポイントになっても、セイを倒せば全ポイントがこっちに振り込まれるんだ。問題無い」
「あっ! 確かにそうね! 安心して倒されて頂戴!」
「ああ! 行って来るぜ!」
アルカがクランホームを出ようとする。
「アルカさん!」
ジルコが呼び止めた。
「おっと?」
アルカはジルコの方を向く。
「先程偵察に行ったワタクシのクランの仲間がいるので、協力してください。1人だと、瞬殺されてしまい、十分なデータが取れなくなってしまいます」
「誰だ?」
「秘密にしておきますわ! ヒントを言うのであれば、アルカさんがよく知る人物ですわ」
「秘密か……って、俺のよく知る人物……? 神ゴッドか?」
ジルコは不機嫌そうな表情を見せる。
隣にいたエクレアもだ。
「神ゴッドさんは、1時間経たずにクビにしましたわ!」
「クランで共有しているGを使って、買えるだけの数の【ステーキ弁当】を買ってたからね。クランホーム拡張の為に貯めてたのにね。残念だよ」
「おまけに、この季節にサンタクロースの格好をして無料で配ってやがりましたからね!!!! ムカつきますわ!!!!」
何やらピリピリムードになってきたので、アルカはクランホームを再び出ようとした。
が、再び呼び止められる。
「アルカ殿! 【コンファイン】は使っちゃ駄目でござるよ!! あくまでデータ収集が目的でござるからな!」
「分かってる!」
「アルカ君! 使っちゃ駄目だよ?」
「ああ!」
「アルカ! 私のスキルとセットで使うんだから使っちゃ駄目よ! 作戦がパーになるわ!」
「大丈夫だ!」
「アルカさん! 我慢ですよ!」
「俺は我慢強いから」
「アルさん! あの作戦のチャンスは一度です! イケると思っても欲張っちゃ駄目ですよ!」
「ああ! 応援ありがとう!」
アルカは皆からの声援を受け、クランホームを今度こそ出る。
(極、カノンちゃん、クロー、キメラちゃん、ミーナ……皆の想い、受け取ったぜ! この勝負、絶対に負けられねぇ!!)
アルカは、街の出口に向かうのであった。




