172.ポイント全賭けの勝負
「このアイテムがあれば、レベル上げにかかる時間を大幅に短縮できるよ」
「え? 何そのアイテム!?」
第1層にて、カノンが初心者相手に交渉をしている。
初心者プレイヤーは、カノンがミーナから授かったアイテムに興味津々であった。
「カノンちゃんは生徒会長なだけあって、プレゼンテーションが上手いな」
「え? 生徒会長なの?」
「ああ、クローは知らなかったか。ほら、キメラちゃんがカノンちゃんの事“会長”って呼んでるだろ? どうもリアルでは生徒会長らしいんだ」
「初耳だわ。というか、それって個人情報なんじゃないの?」
カノンが交渉しているのを後ろで見守っているアルカとクロー。
アルカの事を知らないプレイヤーにとっては、カノンかクローのテイムモンスターのように思われていたりもする。
「交渉成立だよ」
「よしっ!」
こんな感じで少しずつではあったが、確実にポイントを収集していった。
「いやー! 流石カノンちゃんだな!」
「ふふ! その言葉、有難く受け取っておくよ」
アルカに褒められ、珍しく素直に喜ぶカノン。
その見た目と年齢に相応な笑顔を見せた。
「あんたは後ろで見ているだけよね」
クローがジト目でアルカを見る。
「こういうのは余計な事をしない方がいいのさ。手を出すと逆にややこしくなりそうだからな。できる人に任せておけばいいんだ」
「大人なんだからもっとしっかりしなさいよ!」
「これが俺のやり方だ! それに、俺にはやるべき事がある」
アルカはカノンとクローを背中に乗せると、翼を広げ、飛翔する。
「俺はタクシーとしての重要な役割があるからな」
移動に関するアイテムが使えない本イベント。
それもあり、アルカタクシーは非常に重宝していた。
それに、空からであれば、プレイヤーを見つけやすい。
「ん?」
アルカはとあるプレイヤーを目にする。
「ちょっと降りていいか?」
「構わないよ」
森のフィールドで、全身金色の装備に身を包んだプレイヤーを発見した。
「コノミくん」
アルカがそのプレイヤーに挨拶をする。
その相手は勇者の異名を持つプレイヤー、コノミであった。
「師匠! お久しぶりです!」
どうやら、コノミが所属しているクラン【To_Soul】もこのイベントに参加しているらしい。
「久しぶり!」
「師匠もこのイベントに参加していたんですね!」
「ああ! 狙うは優勝だ! それにしても意外だな。確かコノミくんの入っているクランはエンジョイクランだと聞いていたから、クランで参加する今イベントには不参加だと思っていたぜ」
【To_Soul】は本来別な目的を達成する為に作成されたクランだ。
その目的が達成された今、ゲーム内でバンド活動を行ったり、気が向いたら各々がログインするエンジョイクラン化していた。
コノミだけは、割とガチでやっているプレイヤーなので、優勝を狙えないイベントには不参加だと思ったようだ。
「今回はクランの皆さんにお願いして参加してもらいました。正直、今は危機的状況でも何でもないので、皆、ゆる~く依頼をこなしていますけどね」
「そうなのか! で、ポイントは?」
「全然です。ランキング5位以内にも入れてません」
「そもそも受けられる依頼が見つからないからなぁ」
「まぁ、僕としてもボチボチやりますよ。優勝はしたいですが、今回の目的は別にあります」
「優勝以外の目的……?」
コノミが言うには、皆リアルが忙しいので、中々一緒に活動する事が最近できていないらしい。
その為、思い出作りの一環として参加する事にしたようだ。
それに前回のイベントは、チームメイトの命がかかっていたので、今回は“ゲームのイベント”として、エンジョイしたいという気持ちもあるようだった。
「今回は戦闘がメインのイベントじゃありませんからね。僕もあまり活躍できずにいます。あ、でも楽しんでますよ!」
「それは良かった」
こんな感じで2人が話していると、クローがアルカの背中の上からコノミに話しかける。
「ちょっと! そこのプレイヤーとはどんな関係なのよ!」
「そういえばクローは会った事が無かったな。コノミくんだ。勇者の異名を持っている」
「へぇ、中々派手じゃない」
クローはコノミの全身を見る。
全身金色装備なので、かなり派手に感じたようだ。
「はじめまして。クローさんでいいかな? 僕はコノミ。趣味はギャルゲー」
「いやそこまで聞いてないし……」
「あっ、ごめん。つい癖で」
「別にいいけど。それより、ポイント欲しいんだけどくれない?」
「いきなりですね」
コノミは考える。
「それじゃ、僕と戦ってくれませんか?」
「戦い!?」
「そう。ポイントを賭けるんです。僕はクローさんと戦った事がありませんから。是非手合わせ願いたいです」
「どのくらい賭けるの?」
「全部じゃ、駄目ですか?」
「全部!?」
クローは飛び跳ねて驚いた。
まさかそこまでギャンブラーな人物だとは思わなかったのだ。
「ちょっとアルカ! どうするの!?」
アルカはちょっと困り顔をしつつ、コノミに言う。
「えーと……コノミくんのチームメイトは納得してるのかな?」
「今回のイベントに関しては自由にしていいとリーダーに言われています。皆さん、優勝には興味ないようですしね」
となると、後はアルカ達がどうするかだが。
「カノンちゃん。どうする?」
「なぜ私に聞くんだい?」
「カノンちゃん滅茶苦茶優勝したがってたからさ。勝てば良いけど負ければ大量のポイントを一瞬にして失う事になる」
「ふむ」
カノンは顎に手を当てながら目を瞑る。
そして、少しすると目を開けコノミに提案をする。
「アルカ君が君と戦うというのはどうだろうか?」
「今回はクローさんと戦いたいですからね。それに、今師匠と戦って勝てる自信がありません」
あくまでクローとの戦いを望んでいるようだ。
だが、クローのアバターはアルカ程ステータスが高くない。
それにいくらレベルがカンストしているとしても、コノミの方がプレイ時間はかなり長い。
おまけに勇者という異名が付く程のプレイングスキルを持っている。
「こっちが不利だねぇ」
「というか、別に無理強いはしませんよ!?」
「でも、こういうギャンブルも面白そうだしね。どうしようか。ねぇ、アルカ君?」
いきなり振られたアルカは驚く。
「俺!?」
「君リーダーでしょ? 正直私も迷っているんだ。頼むよ」
アルカは悩んだ。
勝てば全ポイントが貰えるというのは非常に大きかった。
「ちょっと! 何心配してるのよ!」
「ふぇ!?」
クローがアルカをビシッと指差す。
「私が負けるとでも思ってるの?」
「正直、単純なプレイングスキルだとコノミには敵わな……そうか!」
アルカは頷く。
「よし、じゃあ頼んだぞ!」
アルカは自身が託したユニーク武器を思い出し、クローに決闘の申し込みを受けるように言った。
クローは無い胸を張り、ニヤリとする。
「そこでジッと見てなさい! 惚れないように注意よ!」




