167.新たなロボット
「ど、どうしましょう!」
ギスギスとした現場を見てしまい、キメラは思わずあたふたとしてしまう。
「キメラ君! 君の出番だよ! 魔法少女でしょ?」
「!!」
「魔法少女は困っている人を放っておかないと思うんだけど」
「た、確かにそうです!!」
キメラは目をパッチリと開き、【マジカルチェンジ】を発動させる。
「変身!!」
「あ?」
ポイントをカツアゲしていたプレイヤーは、目つきの悪い眼帯を付けたプレイヤーだ。
魔法少女に変身したキメラは2人の間に割って入った。
「何だテメェは」
「私は魔法少女キメラ!」
「そうか。で? 何か文句あんのか?」
眼帯のプレイヤーは拳を構える。
「え、いや、だからですね。人が嫌がる事はやめた方がいいと思いましてね……」
勢いよく出てきたのはいいが、向こうがあまりにも平然としているので、少し弱気になってしまう。
「【パワーナックル】」
特に戦闘が開始されると思っていなかったキメラ。
その無防備な彼女に、スキルを用いた右拳が襲い掛かった。
「へぶっ!」
キメラは勢いよく吹き飛び、地面をゴロゴロと転がった。
変身も解除され、セーラー服姿のキメラに戻っている。
HPが0になる攻撃を受けた際に、変身を解除し、HPを1残す効果が備わっている【マジカルチェンジ】。
変身が解除されてしまったのは、HPが0になるような攻撃を受けてしまった事を意味している。
「ど、どういう事ですか……」
「攻撃力極振りって奴だ」
防御力が低いキメラにとっては相性最悪の相手であった。
おまけに、油断していた為、クリーンヒットしてしまった。
「あ、ああ……私のせいで……」
【マジカルチェンジ】の効果で変身が解除された場合、しばらく変身ができなくなる。
「死にたくないなら、そこで寝てな。その間に、こいつからポイント貰うからよ」
カツアゲされているプレイヤーは、涙を浮かべていた。
「初対面の私のせいでこうなってしまい、ごめんなさい。私がもっと早くにポイントを支払っていれば……」
「そうだ。払えばいいんだよ」
と、その時。
「いたっ! 何すんだ!?」
「すまないね。つい見ていられなくなってね」
カノンはティーカップを眼帯プレイヤーの顔に向かって投げた。
「私の可愛い後輩をよくも!! って感じだね」
「後輩……?」
「ああ、キメラ君は1つ下の学年でね。私の大切な後輩なんだ」
「だったら、何でニヤついてんだ? キレないのか?」
「さっきのキメラ君の吹っ飛びっぷりが面白くてね」
「そうか。お前も同じ目にあいたいってか?」
「いや、遠慮しておくよ。私は、か弱い【鍛冶師】だ」
「だったら、そこで見てるんだな」
「それはできないね」
カノンはメニュー画面を開き、とある物を呼び出す。
「さぁ、初陣だ。【サイバーレックス】」
カノンの前に現れたのは、高さ3メートル程の機械でできた怪獣であった。
ティラノサウルスのような感じだが、前かがみにはなっておらず、背筋がピンとしている。
「GWOでそんなもんが作れるとはな。ま、すぐにスクラップにしてやるよ」
「できるかな?」
カノンはサイバーレックスに乗り込む。
「さあ、暴れようか」
サイバーレックスは、眼帯プレイヤーに向かって走る。
「【パワーナックル】!!」
攻撃力極振りの拳がサイバーレックスを襲った。
が、サイバーレックスの耐久値は、ほとんど減っていなかった。
「バカな!?」
「ハッハッハ! いやぁ、防御力はかなり高いんだよ。こいつはね。しっかり弱点もあるんだけど……君じゃ無理だね」
カノンはサイバーレックスを操縦し、スキルを発動させる。
「【サンダーレイン】!!」
上空へ大ジャンプをすると、サイバーレックスの口から、雷の雨が降り注いだ。
避けきれないようで、何発か食らってしまった。
「トドメだ! 【サンダーインパクト】!!」
電気属性の光線が、雷の雨を避け続けた後の眼帯のプレイヤーを襲った。
「楽しかったよ! ちなみに、本音を言うと私は君に恨みは無いし。ポイントを奪うという戦術も否定しない」
マイクに向かってカノンが喋ると、サイバーレックスを通して、その声が眼帯のプレイヤーの耳に届く。
「だ、だったら何で……!」
「私が戦いたかったからだよ!! 依頼探しとか暇すぎて頭がおかしくなりそうだった!!」
「くっ、こ、この……!! チクショオオオオオオオオ!!」
眼帯プレイヤーの体はHPが0となると同時に、粒子となり消滅した。
☆
「助けてくださり、ありがとうございます!」
「いえ、私は何もしてませんよ」
キメラは照れながら、頭をかいた。
サイバーレックスをストレージへと収納したカノンは、そんなキメラに一言。
「したじゃないか。勇気のある行動だったと思うよ」
「えへへ」
「後は冷静さだね」
「え、えへへ……」
確信を突かれ、苦笑いするキメラであった。
(まぁ、煽ったのは私なのだけどね)
カノンは心の中で言った。
「あの、お礼なんですけど……ポイントどのくらい欲しいですか?」
「ええ!? 貰えませんよ!! だって大切に貯めたんですよね?」
「そうですけど……」
「だったら、お礼はいいですよ!」
「そんな!! ……あっ、じゃあこれ差し上げます! 私じゃ使いこなせません」
【インスタントユニークスキルの書】であった。
普通のユニークスキルの書と違う点は、何と言ってもそれによって得たスキルは一度しか使用できない所だ。
今回それを使用する事により得られるスキルは【アルティメットフュージョン】。
スキル名は強そうだが、その効果はネタと言ってもいい程であった。
以下がその内容だ。
☆
【アルティメットフュージョン】
・取得条件
職業【魔法使い】、又はその派生職業。
・効果
使用者の最大HPを【1】にし、自分、又はパーティメンバーが調合を行う際に発動できる。
調合の成功率を、いかなる場合でも100%にする。
これを発動する際に変動した最大HPの数値は、1時間持続する。
☆
使いにくい上に、一度使用すれば消えてしまう。
そんなスキルであった。
「うん。ありがとうございます! ここぞという時に使わせてもらいますね!」
気持ちが嬉しかったのか、キメラはニコリと笑い、受け取る。
「本当にありがとうございました! またいつか!」
そう言うと、プレイヤーは去っていった。
「いやぁ! 私は満足したよ! ありがとうキメラ君!」
「こちらこそありがとうございました! ……って何ですかあのロボット! 私が出る必要無かったじゃないですか!!」
「あったよ。君の犠牲が無ければ、私はただの悪役だったよ」
「死んでませんし!」
カノンはヘラヘラ笑みを浮かべるのであった。




