156.沸いてこない
「って言ってもどうやって温めようか」
「炎属性の攻撃とかですかね?」
「それはちょっと暴力的だなぁ……いくらNPCでも心が痛むぜ!」
特に手段が書かれていなかったので、2人は考え込んでしまった。
「熱いバトルを見せるっていうのはどうだ?」
「熱いバトル……?」
「そうだ。俺とミーナが戦う所を見せるんだ!」
「いやいや、私、生産職ですよ? 手に汗握る戦いは期待できないと思いますが……」
「極とはいい勝負してたじゃないか。パーティー対抗トーナメントの時だってそうだ」
「あれは、相手が私を初見だったからっていうのもありましてですね……。アルさんに真っ向勝負は無理ですよ」
ミーナはアルカの案を却下した。
ミーナは戦闘もできるが、職業は錬金術師。
要するに生産職である。
そんな生産職のミーナは、アルカといい勝負ができる自信が無かったのである。
「う~ん……あっ! そうだ!」
ミーナが何かを閃いたようだ。
「お風呂とかどうですか!」
「風呂……?」
「そうです!」
「どうやってだ? 温泉でも掘り当てるのか?」
「違いますよ!」
ミーナはメニュー画面を開き、とあるアイテムを召喚する。
錬金窯がミーナの前に出現した。
「これをお風呂の代わりにします! アルさんが以前、お風呂と勘違いしたのを思い出しましたので!」
ミーナは得意げにアルカに言った。
「それは名案だな! じゃ、早速……ってお湯が無いな」
「沸かせばいいんですよ」
ミーナは、錬金窯の中の液体を捨てると、落ちている雪を釜に入れていく。
「アルさんも手伝ってください☆」
「OK!」
アルカの巨体故、アルカが手伝った事により、すぐに釜の内部は雪で一杯になった。
「では、この雪を火属性スキルで溶かします! アルさんは火属性スキルって持ってましたっけ?」
「【爆炎】ならあるけど、あれ当たったら爆発するからな。この釜が吹っ飛んでしまうだろうな」
「それはいけませんね。では、ここは私がっ!」
ミーナは両手を前に出す。
「【ファイア】!」
誰でも覚えられそうな初級スキル、【ファイア】を使用すると、ミーナの両手から炎が出る。
何回か使用をすると、ミーナは指を釜に入れる。
「駄目ですね。ぬるいです……」
ミーナが頭を悩ませていると、アルカが何かを思い付いたようで、口を開く。
「1回雪に埋めるって言うのはどうだ?」
「えっ!? でもそれじゃ、逆に凍えてしまうのでは……?」
「そう! 一回限界まで体を冷やす事により、ぬるま湯だろうと温かく感じさせる作戦だ!」
「な、なるほど! それは思い付かなかったです!」
アルカは、NPCに雪を被せる。
作業が終わると、NPCの体は見えなくなっていた。
「これで少し様子を見るか! 一旦休憩にしようぜ!」
「はーい!」
ミーナは机と椅子を召喚すると、それに座る。
アルカもそれに座る。
耐久性はあるので問題ない。
「はい! どうぞ!」
「おっ! 悪いな!」
「寒い時は、温かい物を飲むに限ります!」
ミーナはコーンスープを2つ召喚する。
アルカは別に寒さを感じていなかったが、それをありがたく飲む。
「どうですか?」
「これはいいね! 美味しい!」
「えへっ! それは良かったです!」
「もしかして、錬金術で作ったのか?」
「そうです! よく分かりましたね! 自信作ですよ!」
ミーナは少し照れくさそうに、笑いながら、右手で頭の後ろをかいた。
そんなミーナをアルカは見つめる。
「どうしたんですか?」
「いや」
アルカにとって、正直一番素性が不明なクランメンバーがミーナである。
分かっている情報は、学生でVtuberな事くらいである。
(とは言っても、あんまりリアルの事を聞くのはマナー違反だよな)
という事で、アルカは無難な質問をする。
「ミーナは何で、錬金術師になったんだ?」
「錬金術が好きだからです!」
「シンプルな答えだな。何か他のゲームに影響でもされたのか?」
「えーと、簡単に言いますと、師匠の影響です!」
「師匠?」
「そうです! 師匠との出会いがきっかけで、私は錬金術師の道へと進んだのです!」
「師匠かぁ。ミーナも凄腕の錬金術師だからな。そんなミーナの師匠だ。きっと滅茶苦茶凄いんだろうなぁ」
「そうなんです! 師匠は凄いんです!!」
ミーナが眉に力を込め、机に手をつき、体を前に突き出した。
「顔近い」
「あ、すみません」
ミーナは少し照れると、着席した。
「でも、ミーナがそんなに言うと、何か俺も会ってみたくなっちまったな」
「そうですね……私も会いたいですよ」
ミーナは少し、目をうるうるとさせた。
(喧嘩でもしたのかな?)
あまり深く踏み込むのも悪いと思い、話題を変えようとすると、ミーナが話を続けた。
「【前世】って知ってますか? って、Vtuberの事詳しく無いんでしたね」
「詳しくは無いけど、それは知ってるぜ。Vtuberになる前に活動していた時の姿を言うんだよな?」
「大体合ってます! で、その前世の私が師匠の元で修行をしていたという感じです! だから今の私になってからは、師匠に会えてないのです! ごめんなさい☆」
「そうか……こっちこそ悪いな、変な事を聞いて……」
「いえ、いいんです! それにしても残念でしたね! 師匠の中身はかなりの年齢ですが、見た目はロリ何ですよねぇ。アルさん絶対気に入りそうな感じだったんですけどねぇ」
「いや、ミーナは、俺にどんなイメージを抱いてるの!?」




