154.極達が住んでいる世界はどんな所?【閑話】
「よし……集まったな」
クラン対抗イベントである、【お助け☆ガールズ】開催の前日の事である。
アルカはクランメンバーである、極とクローを誘うと、自身のマイホームエリアに案内した。
本来であれば、アルカのマイホームは、フレンド全員が自由に行き来できる設定となっている。
だが、現在は今ここにいるメンバー以外、入って来られないように設定し直したようだ。
「で、飲み物は? 私、コーヒー」
「拙者ココア」
円卓のテーブルにアルカが事前に買っておいた、コーヒーとココアが召喚される。
「やっぱコーヒーはブラックに限るわ~!」
「いただきますでござる!」
クローはドヤ顔で脚を組みながら、コーヒーを一口飲み、言い放った。
ちなみにクローは最近、ブラックコーヒーが飲めるようになったようだ。
「それで、何を話してくれるのかしら? もしかしてナンパ?」
「いや、違う。ただ、ちょっと2人の事を詳しく知りたくてな」
「やっぱりナンパなのね!」
「ち、ち、ち、違う! 単刀直入に言うと、極とクローの世界について知りたい」
クローは明後日の方向を見て、とぼける。
「何の事かしらー?」
とぼけているクローに極は言う。
「別な世界の別な時間からログインしてるって事は、アルカ殿に前に拙者が言ったでござるよ。で、拙者のリア友のクロー殿は、必然的にバレている事に……」
「な、なんですって!! 危ないじゃない! って言いたい所だけど、あれね。別にバレても問題ないわね。家まで来られる訳でも無いし」
クローはブラックコーヒーを一口飲んだ。
「それで教えて欲しいんだけど……極達の世界ってどんな所何だ? それが知りたくてな」
「侵略目的ね!」
「あ、いや残念だけど俺にそんな力は無い。俺も都市伝説とか好きだし、何より極の言う事が嘘に思えなくてな。もし本当だとしたらどんな世界が他にあるのかを知りたいと思ったんだ。とは言ってもVRゲームが無い世界とは極から聞いてるけど」
クローはふぅ……とため息をつくと得意げにコーヒーを飲む。
「そうね。リアルのあんたに侵略できるような能力無さそうだものね」
「痛い所を突くな……そう、俺は無能だ……」
「ちょっ、そんなに落ち込まないでよ! 何かいじめてるみたいじゃない! というか、あんたが想像してるような世界じゃないわよ? 多分こことあんまり変わらないと思う」
「変わらない……?」
「そう! こんな感じで入り込めるようなゲームは無いけど、皆学校行ったり会社行ったりしてるわ!」
「それだけ聞くと本当に変わらないなぁ」
「ね?」
とはいうものの、VRゲームが無いという事は、VR技術が無いという事だ。
辿って来た歴史がこの世界とは違うかもしれない。
おまけに極がいる世界は別世界は別世界でも2008年。
そして、この世界は2021年。
13年のズレが存在する。
もしかすると、2021年に至るまでにVR技術が発達するかもしれない。
そう考えたアルカは、言う。
「こんな感じに、ゲームの世界に入れるようなVR技術って2021年までに開発されそうか?」
「どうでござろう? そういった創作作品はあるでござるが……」
どうやら、極達の世界でのVR技術は、創作のレベルのみで実用化するような兆しはないならしい。
「そうか……。こっちの世界では、かなり昔に技術が確立されていたからなぁ」
「何か羨ましいでござる……」
「まぁそう言うなって。極達は滅茶苦茶レアな体験していると思うぜ? 世界で唯一のVRゲーマーって滅茶苦茶かっこいいと思うぞ!」
「確かに……何かかっこいいかもしれないでござる!」
極は、両手を合わせ、目を輝かせる。
クローは人差し指を立てる。
「そうね! 私達は選ばれた存在って事かしら! ヒーローみたいね! 燃えて来たー! 悪は私がぶっ倒―っす!!」
「悪はどこにいるでござるか……?」
「気分よ! 気分!」
クローはコーヒーを遂に飲み干す。
「それにしても、本当に現実と変わらない味ね。ここには無いけど、お菓子とか食べても太らないとか天国過ぎない?」
「おっ! いい所に注目してくれたな!」
アルカは突然得意げになる。
「実は、6年くらい前までは、現実と似たような物を仮想空間で再現できるには出来たんだが、どうにも違和感があったんだ」
「まぁ、完全再現は難しいわよね。結局はデータだもの」
「そこでだ。6年くらい前のある日、ブレイドアロー社がとある技術の開発に成功した!」
「どんな?」
「何と、現実世界のものをスキャンし、それをデータに変換。そして、仮想空間内に完璧に落とし込めるという、神クラスの技術だ!」
「へぇ! それでこんなに需要の低そうな苦いコーヒーが出てくるのね!」
クローの話を聞いていると、苦いコーヒーを格好付けて無理して飲んでいるようにも聞こえるが、真相は不明だ。
「ブラックコーヒーって需要低いか? まぁいいか。で、そんな訳でVRゲームにもその技術が採用されたおかげでよりリアルになった……らしい」
「らしいって何よ?」
「俺はGWOが初VRゲームなんだ。だから、以前のVRゲームの再現度がどんなものだったかは分からない。そもそもVR技術自体、俺はほとんど触れて来なかったからな。特に必要でもなかったし」
「あんなに得意げに語っておいて、あんたもそこまで詳しくないのね」
「いやだって、ヘッドギアも高いからな……。このヘッドギアはゲーム特化型だからまだ安かった」
今ここに居る3人が使っているヘッドギアはゲーム特化型で、他のヘッドギアと比較すると安い部類に入る。
ゲーム以外にネットで検索やSNSもできるが、それくらいである。
「拙者達のもアルカ殿と同じものでござるか?」
「どうだろうな……ってそうだ。そうだよ。前、極はそのヘッドギアを拾ったって言ってたよな」
「そうでござるが」
「冷静に考えて、突っ込みたい。……何で落ちてたんだ?」
「『拾ってくれてありがとうございます。これは貴方のものです。ご自由にお使いください』……って書いてあったでござる。落ちていたというより、捨てたと言った方が正しいかもしれないでござるな」
「おかしいだろ!!」
アルカはつい突っ込みを入れた。
怒ってはいないが、突っ込み所が多過ぎた為だ。
「何で違う世界に落ちてたの!? 明らかに普通じゃ無いよな!?」
「「……確かに!!」」
一瞬場がシーンとなった後、2人は声を揃えながら、頷いた。
「しかもご丁寧に「使ってください」とまで書かれている。考えにくいけど……シンプルに考えると……何者かが何らかの目的と手段でそれを極達の世界に送ったって事にならないか?」
クローはバッと立ち上がる。
「悪の組織!? 悪の組織なのね!?」
「悪かどうかは分からないけど……残念ながら俺の世界でも別世界に物体を送る技術以前に、そもそも別世界の存在何て、認知されてないんだ。もし、本当に極達が別世界の住人でヘッドギアを所持しているのだとしたら、何らかの実験が水面下で進められている可能性があるぞ」
普段のアルカより、生き生きとしているように感じる。
「実験だとしたら、拙者達が遊んでいるだけで、それに貢献できるでござるな! 一石二鳥でござるな!」
「極、クロー。確かに今の所は何も起きていない。けど、そんな未知の実験だとしたら、これから先何が起こるか分からない。ここでの出来事事は夢だった事にして、ヘッドギアを破棄するってのも……選択肢の1つだぞ?」
アルカは、2人の頭に優しく、手を乗せる。
クローは、アルカの手をどかす。
「何言ってるの! 生きていれば危ない事何て沢山あるわ! 例えば一歩間違えれば命の危険がある競技だってある。でも、それが好きな人はそれを分かっていても、やりたいからそれを続けている。だから、私だって、これからもこのゲームを辞める気はないわ!」
極も同じく手をどかす。
「拙者も同じ意見でござるな。正直、こんな珍しい経験はどんなにお金があっても、できないでござるからな。それに……」
「それに?」
「アルカ殿達と別れたくないでござる」
「き、極!」
「アルカ殿! ヘッドギアがぶっ壊れるまで、お供させて貰うでござる!」
極は敬礼ポーズをアルカに向ける。
アルカはそんな極の目をじっと見つめる。
「あああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」
クローが突然、2人を指差しながら叫んだ。
「!? クロー!! どうした!? 体に異常か!?」
「ちがーうっ! 何か、こう、こう! ラブコメはやめなさいよね!! 極はね!! 私のライバルなの!! あんたのものじゃない!! 分かる!?」
別にラブコメを始めるつもりはないアルカであった。
が、クローがこれ以上キレても仕方がないので。
「何かごめん」
アルカはとりあえず謝っておいた。
「アルカ殿。クロー殿はたまに暴走するので注意でござる」
「いう程たまにか?」
2人はクローに聴こえないように言った。
☆
「えーと、とりあえず。俺は別に止めないけど、体に異常が出たらすぐにログアウトしろよ?」
「はいでござる!」
「それくらい分かってるわよ!」
極は笑顔で、クローは腕を組み、不機嫌そうに答えた。
「大体あんたは女を舐めすぎなのよ!」
「いや、こんな未知の事態、相手が男の子でも心配するぞ」
「どうだか。全く、時代は平成よ? あ、でもこの世界は私達の所より13年進んでるんだったっけか。それなのに……ったく女の子舐めるんじゃないわよ!」
(いや、舐める所か、俺よりよっぽどたくましいとまで思ってるよ。というか平成ってなんだよ)
クローの狂犬っぷりに、タジタジなアルカであった。
「とにかく、極とクローがいくら強くとも、決して油断はしないように! ゲームと同じだ!」
「そうね! 油断をしない事……例えば、明日のイベントでも同じね」
「そうだな。明日は頼んだぞ?」
「まっかせなさーい! 腕が鳴るわ!!」
「そういうイベントじゃないんだろうけど……頼んだぜ!」
閲覧ありがとうございます。
これにて、第四章完結です。
第五章はクラン対抗イベントのお話となります。
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