147.キメラ、調査を行う
そして、翌日。
キメラは第1層の冒険者ギルドで、聞き込み調査を行っていた。
「あのー……ジルコさんって方、分かりますか?」
「ジルコ? あぁ、魔剣手に入れた人ね。掲示板とかでは噂になってるけど、ゲーム内で今どこにいるかは分からないよ」
「そうですか……。ありがとうございました」
魔剣【ダークカリバー】はユニーク武器だ。
となれば、そんなものを振り回している彼女は、意図せずとも有名プレイヤーとなっている。
だが、都合よく出くわす確率はかなり低いのだ。
「ジルコさんかぁ……私あの試合、すぐに負けちゃったからよく知らないんですよねぇ」
冒険者ギルドを出て、喫茶店へと向かう。
気晴らしに、紅茶でも飲もうかと考えているようだ。
「只今、席が混んでおります。相席でも宜しいでしょうか?」
「いいですよ」
なぜ、ゲーム内で混雑しているのか?
最初は疑問に思うプレイヤーも多いが、これはリアリティを重視しての事だという事が分かると、多くのプレイヤーは「なるほど」と納得する。
それに、相席は、見知らぬプレイヤーと知り合うきっかけともなる。
(相席何て久しぶりです。基本的にこの喫茶店内はかなり広いですから)
キメラが案内された席に着く。
「!?」
席に着くと、いるではないか。
探していたその人物が。
「あら? お久しぶりね」
「こ、こんばんは」
キメラの目の前で、ジルコが紅茶を嗜んでいる。
「ふふっ、やっぱり、お紅茶は激甘に限りますわ~♪」
どうやらご機嫌のようだ。
ちなみに激甘紅茶とやらがどのくらい甘いのかというと、みたらし団子の汁くらいだ。
「挨拶が遅れましたわね。こんばんはですわ! 貴方もお紅茶を飲みに来たんですの?」
「まぁ、そんな所です」
「んまぁ♪ 私と一緒ですわね!」
キメラは紅茶を注文した。
激甘ではない。
「奇遇ですね。ジルコさん」
「そうですわね」
キメラは違和感を感じた。
アルカから聞いた情報によると、敵意むき出しだったからだ。
「あ、そこまで緊張しなくても、よくってよ? 私、貴方の事は、瞬殺できたので好きですわ」
「そ、そうですか」
敵意を向けられる基準が良く分からなかったが、キメラとしても別に敵対したい訳でも無かったので、苦笑いで対応した。
(思い切って聞いてみますかね)
キメラは、【お助け☆ガールズ】への参加をどうするのかを、ストレートに聞いてみようと考えた。
「あの、次回のイベントで【お助け☆ガールズ】ってあるじゃないですか。あれには参加する予定あるんですか? 私達は、参加する予定です」
「参加しますわよ! ただ、後1人、メンバーが足りませんの……」
「なるほど。もし、参加できたら、やっぱりPKとかするんですか?」
「あくまでポイントで競うイベントですわ。無駄なPKはしませんの」
「えっ!? 意外です。この前はアルカさん達をPKしようとしていたと聞いていたので、イベント中も襲い掛かって来るのではないかと……」
「あの時は、魔剣を入手したばかりで、少々力に溺れていましたの」
どうやら強力な装備を手に入れ、調子に乗っていたようだ。
だが、それだけでは無かったようで。
「それに、私の仲間に怒られてしまいましたので。お野蛮だそうですわ」
「そうですか。ちなみにアルカさんは別に戦うだけならば大歓迎と言っていましたよ。今度、アポを取っておきましょうか?」
キメラの提案にジルコは「う~ん」と頭を悩ませると……。
「まだ、この魔剣の力を完全に発揮できていませんわ。勝てない戦いはするものじゃないと、仲間に言われましたわ! それに、別にアルカさんは、引退する訳ではないのでしょう? であれば、チャンスはまだまだありますもの」
「頑張ってください。何事も諦めない事が肝心です」
ジルコは、澄ました表情で、ズズズズと音を立てながら紅茶を啜った。
その後、ビールジョッキのようにティーカップを机にガツンと叩き付けると、「ぷはぁ!!」と言いながら、10万の装備の袖で口を拭いた。
(何か思ったより友好的ですね。それに最後のメンバーもまだ決まってないみたいですし……。私の仕事的にはここで終了ですね。これで会長に愚痴を言われないで済みます)
キメラは紅茶を飲み干すと、席を立とうとする。
「私はこれで失礼します。いろいろとお話しできて楽しかったです」
ガシッ。
「ジルコさん?」
キメラはジルコに腕を掴まれる。
「お話は終わってなくってよ?」
「えーと……」
「ここで会ったのも何かの縁ですわ。もっとお話しするんですの!」
「確か、お仲間がいるって……」
「確かにゲームの事については、色々と語れるので楽しいのですが、それ以外の趣味が合いませんの……」
「趣味ですか。私はジルコさんの趣味をよく知らないんですけど、何が好きなんですか?」
「ふっふっふ! よくぞ聞いてくれましたね!」
ジルコは、メニュー画面から提携サイトで購入した書籍を机の上に出す。
「これですわ!」
「悪役令嬢……? あぁ、確かネット小説で流行ってるジャンルですね!」
「そうですわ!! ご存じでしたか!!」
「実はよく知りません……ジャンルとしては知ってますが……」
「では、これを布教するので、是非読んでくださいまし!」
「えーと、何々?」
あらすじを読むと、ゲーム世界の悪役令嬢として転生した主人公が、本来想定されていた悪役令嬢を超えた、超悪役令嬢となり、最終的に神に等しい力を手に入れる物語であった。
悪役令嬢に転生して、善行を行い破滅フラグを折るのではなく、悪役としてのパラメーターを上げ、『破滅フラグ? そんなもの効きませんわよ?』となる点が一部の読者に評価されていた。
「ありがとう。私こういうの読んだことありませんから、ちょっと楽しみです!」
「キメラさんなら気に入ると思いますわ! あ、ちなみにキメラさんのご趣味は?」
「アニメとゲームです! 最近はGWOにハマってます!」
「まぁ♪ アニメでしたら私も大好物ですわ♪」
「どんなジャンルのアニメを見るんですか? やっぱり、悪役令嬢ものですか?」
「それも好きですけど……ラブコメとかも好きですわ!」
「意外ですね」
割と乙女なのかもしれない。
「中々に失礼ですわね! ですが、私も、か弱い乙女ですの」
ジルコは、男女関わらず、同性愛を扱っている作品が大好きであり、それを日々嗜んでいた。
「す、すみません。何かジルコさんってちょっと不思議な方だと思ってましたけど、普通の女の子みたいだなと思いまして」
「誉め言葉として受け取っておきますわ。で、キメラさんの好きなアニメはどんなジャンルで?」
「私は、魔法少女系とか、タイムリープ系とか、少年誌のアニメ化作品とかが特に好きですね。他も見ますよ!」
「そうですの! ふふっ♪ 今回はキメラさんのご趣味が知れて収穫でしたわ♪」
「時間がある時で良ければ、また話し相手になりますよ。折角ですし、フレンド登録しましょう」
「え!? いいんですの!?」
「フレンド登録くらいでしたら、私良くしてますので。オンラインゲームの醍醐味です!」
「んまぁ! お下品! 色々なプレイヤーに手を出していますのね!?」
「な、何ですかその言い方……色々突っ込むの大変なのでやめてください!」
「んまぁ! ムッツリですわね! ま、いいですわ。 またお会いしましょう!」
「ムッツリって、何でですか? えーと……もしかして私嫌われちゃいました?」
「とんでもないですわ! 嫌いの反対の反対の反対の反対の……その更に反対ですわ!」
ジルコ達の情報と、新たな友達を入手したキメラなのであった。
(私の友達って、ちょっと変わってる人が多いですね)




