145.戦わなければ出られない部屋
先程、大量の誤字脱字報告をいただきました。
この場で、感謝の言葉を述べさせていただきます。
ありがとうございます。
「い、いきなり何すんのよ!」
吹っ飛ばされたクローは、よろけながら立ち上がる。
「いや、何か極が嫌がってたから」
「あれはコミュニケーションよ!」
「そうなのか!?」
アルカは、クワッとすると、極を見る。
「ま、まぁ、止める程の事でも無いような気がしたでござる」
「え? 何? 嬉しかったって事?」
クローが極に言った。
嬉しくは無かったらしいが、嫌でも無かったらしい。
ただ、くすぐり耐性があまりないとの事だ。
「百合の間に挟まる何とやら」
キメラが誰にも聴こえないようにボソリと呟いた。
アルカは、気を取り直して、イベント【お助け☆ガールズ】についての事を話す。
「ま、いいか。悪かったな。それはそうと、次のイベントについて何だが」
「キメラ殿から話は聞いているでござる。何とも平和的で楽しそうなイベントでござるな」
クローは溜息をつく。
「何とも拍子抜けするイベントねぇ~」
「そんなに戦いたかったのか……あっ、でもモンスター討伐して欲しいっていうNPCも居るかもしれないぞ!」
「あ! やる気出たかも!」
クローは、愛槍【クロノスピア】を構える。
「ドンと来いって所だわ!」
「頼りにしてるぜ。あ、でも強いモンスターは出ないって書いてあるな」
「強いのが来てもいいのに! 一応イベントまでにレベルをカンストさせる予定だしね!」
非常にやる気満々なクローであった。
「クロー殿の場合、勉強の方が心配でござる……」
「え? 成績悪いの? というか、リア友なの?」
疑問に思ったアルカが聞いた。
「そうよ! リア友よ! つまり、私と極の絆は、あんたよりもずっと上よ! 何て言ったって、幼馴染だからね!」
(……という事は、クローも別世界から来たのか。6人中、2人がこれとか、このクランヤバすぎだろ。楽しいけど)
アルカは心の中で、「フッ」と笑った。
「どうしたの? 悔しいの?」
「正直少し悔しい。俺と極はよくチャットをしている仲だからな」
「ネット友達という事は ……ふふん! 私の勝ちね!」
「クローは、何にでも、勝ち負けを付けたがるな……」
仲良く話していると、またもや誰かがクランホームへと入って来た。
「やぁ、ごきげんよう」
「会長!」
カノンである。
偶然にも、ミーナ以外のクランメンバーが集合した。
「タイミングいいな!」
「ちょっと新型ロボの試運転をしていてね。破壊力抜群な奴だよ」
「破壊力……?」
次回のイベントはNPCの依頼をクリアしていくのがメインとなっている。
圧倒的な破壊力だけではクリアできないだろう。
そもそもこのクラン、破壊力は足りている。
「本番で暴れられると思うとワクワクしてくるよ!」
「えーと、その破壊力抜群な機体ってどんな奴だ?」
「まだ最終調整が残っているから秘密だ。暴走してしまったからね。なぁに、イベントまでには終わらせておくよ」
「本番までシークレットという訳か……って! 何で次のイベント内容でそこまで物騒なもの用意してるの!?」
「? 次のイベント内容を見てないのか?」
「さっき確認したけど」
アルカは再びメニュー画面を開き、運営からのイベント内容の概要を開き、カノンに見えるようにする。
「ん~。一見平和的なイベントに見えるけど……肝心のポイントの扱いについては書かれていない。という事は、PKしてポイントを奪える、何て事も考えられる」
「流石に大丈夫なような気もするけど」
「アルカ君、用心する事に越した事はないよ。何事にもね」
少なくとも、街の中でのPKは不可能だ。
バトルモードでの戦闘は可能だが、それだけである。
それをわざわざ平和的なイベント限定で行えるようにするというのも変な話である。
「そうなっても安心して! 私の真の実力が火を噴くわ!」
カノンの仮説をきいて、クローは槍をふり回した。
そして、テンションが限界に達したのか……。
「もう我慢できないわ! 極! 勝負よ!」
「いきなり!? でもレベル差がまだあるでござるよ!」
「いいのよ! 今はとにかく戦闘の経験を詰むのよ!! さ! 新しく増設した、【戦わなければ出られない部屋】に行くわよ!」
「くっ、分かったでござる!! その勝負! 受けて立つでござる!!」
こうして、極とクローは部屋へと向かった。
「あの2人は今は置いておくとして……PKでポイントを奪うか、確実に無いとは言えないな。そうなった時は、大人数を相手にする事になるのか……6人だけで何とかなるのか?」
「私もその為に頑張っているのだよ。とは言っても私は【鍛冶師】。何も無ければイベント中は生産の方に集中するつもりだよ」
「正直、そこはかなり頼りにしてる」
カノンは【器用値】以外のステータスが終わっているが、逆に器用値だけはチートクラスである。
素材とレシピさえあれば、武器、装備は何でも作れるのではないだろうか?
「でも驚いたな。カノンちゃんが大人しく鍛冶師してくれる何て」
「アルカ君は、私にどういうイメージを抱いているんだね。……正直、私は今回、本気で優勝したいと思っている。だから自分のポジションに全力全開を注ごうと思ってね」
「俺も優勝したいと思っているぜ!」
「目的は?」
「やるからには優勝だろ!」
「そうか。私の目的は、GWOの運営と話をする事だ。あわよくばブレイドアロー社の社長とも話をしたい」
「GWO運営って書いてあるから、それは無理な気が……」
「可能性は0じゃないさ」
ブレイドアロー社は、VR技術開発に大きく関わっている。
そして、様々な事業に着手している。
にも関わらず、社長の正体は公になっていない。
そもそも、ブレイドアロー社の社員ですら、社長の姿を知らない。
そもそも話をした事がある人物も限られている。
一説には、『人間じゃない』、『人工知能だ』
などという噂もある程だ。
都市伝説的にだが。
「私は純粋に興味があるのだよ」
「そこまでか?」
「ま、私は割と変人な所があるからね。あの会社には、都市伝説的な何かがあると思っているのだよ」
「ロボット好きなのにオカルト的なのも好きなんだな。俺も好きだけど流石に社長に会えたしても、それを聞く勇気は無いぜ」
カノンは、大きく息を吸うと、発言する。
「では、例えば! 異世界から来た! って、リアルで言ってる人がいたらどう思う?」
「どうって……異世界アニメの見過ぎじゃ……」
「そう! カンが鋭いね!」
「え?」
「例えば実際にそれが真実であったとしても、一般的な認識としてそれがフィクション的なものであれば、多くの人間が思考停止で『有り得ない』として処理してしまう……だからこそ! 私は夢溢れる都市伝説を探求するのが大好きなのだよ! はっはっは!」
テンションの上がったカノンを見て、苦笑いをしながら、キメラが溜息をつく。
「アルカさん、すいません。会長テンション上がっちゃうといつもこうなんです」
「キメラ君がいつもテンション低いだけなのではないのかね?」
「いたっ! ちょっ、落ち着いてください!」
笑いながら、キメラの背中をカノンはパンパンと叩く。
酔っぱらっているかのようだ。
「仲がいいな。とりあえず、イベント時の作戦でも決めておくか。クランメンバーは6人。そして層は6層。いっそ1人ずつ別れるか?」
「私の予想ですが、2人1組で挑まなくてはならない依頼もあるかもしれません。最低でも2人1組にしませんか?」
「例えばどんな依頼だ?」
「例えばですが、2人でペア写真を撮ってください……とか?」
「誰でも参加が可能なイベントだし、有り得なくはないな」
やり込んで無くとも、クリアが可能な依頼も多そうだ。
「よし、じゃあ、班分けでもするか?」
そう言うと、タイミング良く、最後のメンバーがクランホームへとやって来た。
「ふぅ……疲れた~。あっ、皆さんお揃いで! 今丁度配信が終わった所です!」
「ナイスタイミング! これでじっくり話ができるぜ」




