136.今日の所は
「「おっひさー!」」
岩陰から現れた2人のプレイヤーもまた、アルカの知る人物であった。
天使と悪魔のロリアバターの姉妹プレイヤー、【タミエル】と【カルマ】であった。
タミエルが姉の天使、カルマが悪魔の妹である。
この2人のプレイヤーもアルカに敗れ、リベンジの為にジルコと組んだのであった。
が、この2人の場合は面白そうだから組んだという理由が第一であった。
「あ、久しぶり!」
「私達の事覚えててくれたんだ!」
タミエルは嬉しそうに言った。
「ちょっと! 何で私の事は忘れてたのにこのガキ共の事は覚えているんですの?」
「は? ガキ呼ばわりかよ」
カルマは軽くキレ気味にジルコを睨む。
(チームワーク大丈夫なのか?)
アルカは、先程から口喧嘩をする相手パーティーを心配した。
「ちょっと! 4体3何て卑怯じゃない!!」
「あら? 勝てばいいのよ! 勝てばね!」
クローが異議を唱えるが、ジルコは勝てればいいらしく、口に手を当て笑った。
そして、すぐに口元をニヤリとさせると、ジルコはパーティーメンバーに指示を出す。
「作戦通り行きますわよ!」
「仕方がないね」
ジルコが魔剣ダークカリバーを握りしめ、アルカに突っ込む。
まるで、極とクローを気にもしていない様子であった。
低レベルのクローはともかく、極を警戒しないのは、なぜであろうか?
「それは剣……噂の魔剣でござるな? だとしたら、拙者の刀と勝負でござる!」
「駄目ですわ。エクレアさーん!」
エクレアは、青色の玩具のような銃を構え、極に向かって発砲する。
そこから発射されたのは、青いエネルギーの塊のような弾丸であった。
SFチックである。
「なぬっ!?」
ジルコが安心して突っ込めるように、エクレアが的確にバックアップを担当する。
口喧嘩をしていたが、戦闘時のコンビネーションはバッチリのようだ。
「極!!」
「パーティメンバーを心配している場合ではないのではなくって?」
アルカに魔剣が襲い掛かる。
これを食らったらやばいと感じたアルカは、スキルで迎え撃つ。
【破壊道】。口から光線を放つスキルである。
「危ないですわね」
余裕そうに破壊道をかわす。
目をつむり、左手でティーカップに入った紅茶を飲みながらかわしている程だ。
対アルカの為に、練習したかのようだ。
「【ブラックスピア】!!」
「あら?」
着地したジルコを狙うかのように、黒い稲妻と槍が襲う。
吹き飛ばし効果もあるので、吹き飛んだ。
「ティーカップが壊れてしまいましたわ?」
「随分と余裕そうね!」
「このレベル差だものねぇ……。ですが、そのスキルは防御を半分無視するスキルでしたわね。おかげで私のHPに傷がつきましたわ!!」
「!!」
ジルコは先にクローを消そうと考えたようで、攻撃を放つ。
「何発耐えられるんでしょうかね!?」
2発も耐えられない可能性が高い。
クローは、ジルコの攻撃を回避。
「当たれなければどうという事はないわ!」
「ちょこまかとっ!! うざったいですわ!!」
ジルコとクローの追いかけっこが始まった。
それを見たエクレアは叫ぶ。
「何してるの? アルカ倒すんじゃないの?」
「お黙り!! このガキを仕留めるのですわ!!」
「アバターの年齢も変わらなそうだし、精神年齢も同じくらいな相手をガキ呼ばわりするんだね」
「なっ!? エクレア!! 私に意見するつもりですの!?」
「うん」
「こっ、このっ!!」
「これはボクのカンだけど、君の実力じゃ当てるのは難しいと思うよ」
そう、ジルコは対アルカの練習はしてきたが、通常の人型アバターとの対戦についてはそこまで対策をして来なかった。
しかし、別にジルコのプレイングスキルが特段下手という訳ではない。
むしろ、平均よりは上だ。
(クローか、口は野蛮だけど、とても素晴らしい回避力だね)
エクレアは嬉しそうに密かに笑った。
「キーッ!! タミエル、カルマ!! 私に支援スキルを!!」
「「仕方ねーな」」
タミエルは攻撃力を大幅アップさせるスキル、カルマは素早さを大幅アップさせるスキルを、ジルコに対し使用した。
「うひょひょひょひょひょひょ!! お終いですわ!!」
ジルコは追いかけっこに夢中になっていたあまり、隙ができていた。
「あちっ! あちちちち! なっ、何をするんですの!?」
アルカの【爆炎】がジルコにヒットした。
怯んだ所に更に【破壊道】をぶち込む。
「むほっ!」
アルカのスキル攻撃がモロにヒットし、壁にめり込む。
「や、やってくれましたわね……1対1ならこうはならないですわよ!」
ジルコのHPバーは既に風前の灯火であった。
それを見たエクレアがジルコに叫ぶ。
「ストップ!」
「止めないでくださいまし!」
「いやさ、やっぱりこういう奇襲みたいな真似は良くないと思うんだよね。それに見た限りだと今クエスト中みたいだし、リスポーンさせたら結構迷惑だと思う……それに」
「それに?」
「今のままだと負けると思う。君のHPももうすぐ0になりそうだしさ」
「ぐぬぬっ!」
「とりあえず今は退こう」
エクレアはアルカの元へと、両手を挙げ歩く。
「ごめんね。今回はボク達が悪かったよ。それにしても……最初に会った時より大分強くなってるんだね」
「そっちこそ装備とか見違えたぜ! いやさ、別に戦うのは構わないんだけど、今ちょっとクランメンバーにクエスト頼まれててさ。そうじゃなければ大歓迎だぜ!」
「そう言ってくれると助かるよ。ボクも君とは対等な条件で勝ちたいしさ。行くよ、ジルコ……ジルコ?」
と、エクレアが周囲を見渡すが、ジルコの姿が無かった。
「あー、ジルコならそこのクローってプレイヤーに、油断してる隙にトドメを食らってリスポーンしたよ」
「あ……そういう事……なるほど」
タミエルが、「やれやれ」とした表情で、エクレアに報告する。
ジルコの先程の残りHPから見ると、クローの攻撃ですら致命傷となる。
それを食らってしまったのである。
「じゃーな、アルカ!」
「じゃーな!」
タミエルとカルマは手を振り、このダンジョンをあとにした。
「じゃ、またどこかで。今日の所は退散するよ」
エクレアはどこか満足そうにしていた。




