135.忘れてないよね?
「まさかこの体で泳ぐのがここまで難しいとは……」
海底洞窟の入口へと到着した。
アルカの龍の体では泳ぐのが困難だったようで、疲れを見せていた。
幸い海底洞窟内は、水中エリアではないので、とりあえず一安心だ。
「アルカ殿の弱点を発見したでござる! フィールドを水中にするスキルとかあれば行けるかもでござるな!」
「ふむふむ」と頷きながら、極はメモを取った。
「そんなスキルあるの?」
「クロー殿は知らないかもしれないでござるが、とあるvtuber殿がフィールド書き換えのようなスキルを使ってたでござる」
「へぇ、じゃあそれを取ればアルカを倒せるのね!」
「それは分からないでござるが、有利には、なるでござるな! しかし、フィールドスキルは上級者向けのような気がするでござる」
「そうなの?」
フィールドスキルは、基本的に互いに効果が及ぶものが多い。
水中フィールドを展開するとしたら、発動側は当然、そのフィールドでも自由に動けるように慣れておく必要がある。
「クローはとりあえずレベルを上げた方がいいぜ?」
「そうね。私はこの前の極との戦いで学んだわ。とりあえず、今は基本を学んでいく事にする」
スキルを使用しない極に負けた事で学んだのか、再戦はレベルを上げてからにしようと考えたクローであった。
「とりあえず、海底洞窟を進んでいく訳だが、クローは基本的に戦闘をしない方がいい」
「何でよ……ってレベルね」
目の前にいるモンスターのレベルは60と、雑魚敵にしてはかなりの高レベルであった。
だが、アルカはものともせず、ゴリ押しで倒していく。
極は敵の攻撃を一切食らわずに斬りつけていく。
(うずうずするわ……)
戦闘に参加できてないクローは、若干不満げであった。
「ん?」
クローは後ろを見る。
「どうした? クロー?」
「何か、見られてるような気がして」
「そうか?」
海底洞窟は高レベルのモンスターが出現するが、ただ高レベルのモンスターと戦闘したいのであれば、現段階で一番上の層へ行けばいい。
おまけにドロップアイテムも基本的にロクなものがないので、追加されたのは良いが、かなりの不人気ダンジョンだ。
だが、それでもプレイヤーがいたっておかしくはない。
「おーい! 誰かいるのかー?」
「バレちゃあ、しょうがないですわね!」
ジルコが岩陰から出て、腰に手を当て言い放った。
「何やってるの君? 何で自分から出ていくの?」
「バレたからに決まってるでしょう? そんな事も分からないのですの?」
「は? 完全にはバレてなかったよね。ま、そもそもボス戦で消耗した所をPKするって作戦も野蛮でどうかと思ったけど」
「勝てばいいのですわ!! それとも、そこまで反抗的ならば貴方から始末してもよくってよ?」
「野蛮だね。遠慮しておくよ。とりあえずこうなったら、今戦うしかないんじゃない?」
「そうですわね! 覚悟しなさい! 3人まとめて相手するわよ!!」
ジルコと口喧嘩しているのは、栗色のロングヘアのプレイヤー、【エクレア】であった。
アルカは2人の頭上に表示されているプレイヤー名を見た。
(ジルコ……? エクレア……?)
アルカは、ゴクリと唾を飲み込む。
「ボクもプレイヤーとして成長したんだよ? もっとも、君の成長具合の方が驚いたけど」
腕を組み、笑みを浮かべるエクレア。
「怖気付いたのかしら?」
ニヤリと悪役のような笑みを浮かべるジルコ。
そして、汗をかきながら、気まずそうに顔をかくアルカ。
(最近記憶力悪いんだよなぁ……そろそろ年か)
思い出せずにいた。
「エクレア殿! お久しぶりでござる! ロングヘアに変えたのでござるな? 似合ってるでござる!」
「!! そうだよ。気付いてくれて嬉しいよ」
アルカは驚きの表情で極を見る。
「し、知ってるのか!? ……!! あっ、そういえば前は髪の毛短かったよな!! そうか! あのガンナーか! 久しぶり!!」
「思い出してくれたんだね。君の野蛮な戦闘はボクの夢にも出てね。リベンジする時を今か今かと待っていたんだ」
「そうか! で、そこの堕天使みたいな恰好しているのは……」
髪型が大分変わっているが、エクレアと比べ近いうちに出会ったので、思い出すことができた。
「闇病み☆百合娘―ズってチームメンバーが仲間じゃなかったのか……? 何でエクレアと?」
「仲間殺しの戦法を使ったにも関わらず、勝てなくて見限られましたわ!! えへんですわ!!」
コメントしづらかったのか、一瞬場がシーンとなった。
「エクレアさんとは利害が一致しましてね。一緒にパーティーを組んだのですわ! そう! 貴方を倒すという利害がねっ!!」
ジルコはアルカをビシッと指差した。
「別にいいけど、じゃあバトルモードを起動してっと……」
「駄目ですわ!!」
「えっ、何で?」
「そうしたら、倒した感じがしませんわ! 負けたらリスポーン! 要するにPKバトルをしたいのですわ!!」
「え、でも今俺達クエスト受けてるから……」
「だーめーでーすーのー!! 私の提案を受けるのですわ!!」
アルカは、仕方がない。と感じ、パーティメンバー2人に言う。
「やれそうか?」
「クロー殿に隠れていてもらえば何とか……」
クローは「私にも戦わせなさいよ!」と言いたげであったが、敵プレイヤーのレベルは70と、高かったので我慢しておいた。
(せめて……ノヴァエクリプスさえ決まれば……)
レベル差が多くとも、相手を始末できる強力スキル【ノヴァエクリプス】。
だが、隙が大きすぎだ。
クローはグッとこらえる事に成功した。
「じゃあ、やるか」
「受けました? 受けましたのね!? 出て来なさいっ! お二人共!!」
新たなプレイヤーが岩陰から出現。
「4対3! おまけにそちらはレベルが低いお方がお1人おりますわね! こっちが有利ですわー!!」
ドヤ顔が眩しかった。
プライドはあまり無いのかもしれない。




