127.気の強い新人
9月4日土曜日。
アルカは【ゼロダンジョンアドベンチャー】に参加する為、イベントエリア前へとやって来ていた。
(初心者っぽい人から、上級者っぽい人まで沢山いるなぁ)
アルカは受付へと歩く。
「あれが有名な龍かw」
やはり初心者はアルカが気になるようで、チラチラ見るのであった。
「参加したいんですけど」
受付の女性へ、参加する意を伝える。
「はい。いいですよ。では、まず、注意事項です。こちらのダンジョン内に、アイテムを持ち込む事はできません。武器、装備も持てません。また、職業が派生職業の場合、一時的に初期職業に戻ります。何かご質問がありましたら、どうぞ」
「例えば、このダンジョンでスキルとかアイテムとかが手に入った場合ってどうなるんだ?」
「はい。その場合、ダンジョンを出た後も、継続して所持していただくことができます」
その辺りも初心者に配慮されているようだ。
更には、このダンジョン内で上がったレベルが自らのレベルより高い場合、このダンジョンから出た後もレベルを継続できるようだ。
始めるなら、今! な初心者大歓迎イベントだ。
一通り質問を終えると、受付から逆に問われる。
「先生モードで遊びますか?」
「??」
先生モードとは何なのだろうか?
「レベルの高いプレイヤーが始めたばかりの初心者をお助けするモードです。最近始めたばかりのプレイヤーがランダムで選択され、その方と一緒に遊べます」
いくらレベル1からのスタートといえど、VR慣れしていないプレイヤーはすぐ倒されてしまい、面白くなくなってしまう可能性が高い。
その為のシステムだ。
「なるほど。初心者救済システムか……面白い! じゃあそれで」
「了解しました。では、ダンジョンに転送します。楽しんで来てくださいね」
アルカはダンジョン内へとワープする。
ダンジョン内は、かなり広い洞窟のようなエリアであった。
「ここを進んでいくんだな」
このイベントはPKあり、協力あり、何でもありなイベントだ。
要するに「このゲームの戦闘は楽しいよ!」という事を新規に伝えるのが目的だ。
レアアイテム等も特になく、既存のプレイヤーにとってはメリットが薄いのだが、先生モードを使用し、新規のプレイヤーと交流をしたいというプレイヤーには楽しめるイベントでもある。
後は、初心者相手に無双、出会い目的に利用するというプレイヤーも存在する。
後日、運営達は新たな問題解決に頭を抱える事だろう。
「いつっ!」
何者かに攻撃されたようだ。
「何でいきなりこんな強そうなのと戦わないといけないのよ! ベテランが助けてくれるんじゃなかったの?」
幼いながらもキリッとした目に、黒髪のサイドテールを携えたプレイヤーだ。
どうやら、モンスターと間違えて攻撃しているらしい。
「懐かしいな。始めたばかりの時は、モンスターとよく間違えられたっけ」
「喋った!?」
少女は驚きつつも、槍を構え、警戒している。
「こう見えてもプレイヤーです。宜しくお願いします」
「えっ、そうなの?」
「俺がパートナーです。本日は宜しくお願いします」
「あんた強いの?」
「ゲームは下手ですが、ステータスは高いです」
「そ、そう……ん? って事はここであんたを倒せば私は最初から最強って事ね! 勝負よ!」
勝気な笑顔を見せると、少女はアルカに襲い掛かる。
だが、所詮は初期の槍装備。アルカには少量ずつしかダメージを与えられない。
「お元気ですね、お嬢さん」
「くっ、随分余裕ね! なら! 私の考えた奥義! 受けてみるがいいわ! スーパーヒャクレツケン!!」
少女は槍を両手で持ち、一生懸命連続突きを放つ。
しかし、アルカはそれを片手で受け止める。
「わ、私のスーパーヒャクレツケンが!?」
少女は自信があった。
スキルでも何でもないただの連続突きだが、ここに来る前にスライム1匹を倒す事に成功したからである。
「仲良くやりましょう!」
「くっ……」
少女は今の自分では到底敵わないと考えると、攻撃をやめた。
「分かったわ。いつか絶対倒してやるんだから」
「その時は受けて立ちますよ。そうだ。お嬢さん、お名前を教えてくださいな。俺の名前はアルカと申します」
頭上に表示されているが、交流の為あえて尋ねた。
すると、少女はムッとした。
「……その喋り方やめて」
「??」
「何か馬鹿にされてる気がするわ。タメでいいわよ」
「OK!」
「ま、今回は宜しく頼むわよ? 私の名前はクロー。って頭上に出てるわね」
2人は、ダンジョンを進んでいく。
途中モンスターと出会うが、アルカがボコボコにしていく。
「何であんたばっかり倒してんの?」
「初心者を助けるのが俺の役割だからな!」
「私にもやらせなさいよ!」
「もっとレベル上がってからが良いんじゃ……」
「やりたいの!!」
そんなこんなで話していると、初心者らしきプレイヤーが1人歩いて来た。
「チャーンスッ! PKよ!」
「!! 負けないぞ!」
クローが敵プレイヤーに襲い掛かる。
相手は剣を構える。
「スーパーヒャクレツケン!!」
敵は容易く避ける。
「よしっ! 避けられたぞ!!」
敵はクローの攻撃をかわしながら、次々に斬りつけていく。
「このっ! このっ!! かわすなああああああああああああ!!」
クローは怒り、槍を捨て、素手で相手に襲い掛かる。
だが、相手は冷静に対処する。
「素手!? ならっ! これで終わりだ!」
(これまずいな)
このままでは、クローのHPが0になる。
アルカは敵をぶん殴り、吹っ飛ばし、壁にめり込ませる。
「大丈夫か?」
「助けて何て言ってないわよ!」
「へっへっへ! トドメは任せるぜ」
「!! よーく分かってるじゃない!! 食らいなさい!! はあああああああああああああああああああああ! これが私の全力よ!! ノヴァエクリプス!!!!」
槍をクルクルと両手で回す。
そして、クローは壁から出たばかりの相手に通常槍攻撃でトドメをさした。
「おお! かっこいい!」
「見とれちゃった?」
クローはドヤ顔で、腰に手を当て威張るのだった。




