126.失恋
「当ててみましょう……ずばり、年下です!」
「!?」
「図星ですね?」
9月の平日の夜、GWOのアルカのクランホームにいつものメンバーで集まっていた。
なぜ急に集まる事になったのか?
その理由はキメラにあった。
時は1時間くらい前に遡る。
☆
「今日はキメラ君を慰める会に集まってくれてありがとう!」
カノンは皆をクランホームに招集した。
理由は簡単だ。キメラが落ち込んでいるからだ。
「……いや~、春ってすぐ過ぎるんですねぇ」
キメラは椅子に座り、床を見つめていた。
「はっはっは! この通り、彼女はとても落ち込んでいる! 理由を言ってもいいかね?」
カノンは後ろにいるキメラに確認を取る。
「別にいいですよ……というかたまにアルカさん達に言ってたじゃないですか……」
「つい、うっかりね! 私も君の悲しい顔を見ていると、とても心が痛む……皆、発表するから、慰めてあげてくれたまえ」
カノンが皆の前で発表する。
「何と! キメラ君の愛しのケンヤ君が……転校してしまったんだ。私は恋とかしたことないから、気持ちが良く分からないが、とてもつらいと思う」
「別にいいんですよ……まともに話したこともありませんでしたから」
「キメラ君はシャイだからね」
それを聴いたミーナが、カノンのテンションに若干引きつつ、キメラのそばで他のメンバーに聴こえないように言う。
「キメラちゃん……つらかったね……」
「ミーナちゃん……ミーナちゃんは好きな人いた事あるの?」
「好きになられた事ならあるかな……まぁ、その人に殺されかけたんだけどね」
「え?」
「幼馴染だったんだけど、私に矢を放ってきた」
「え……え……?」
キメラは「何を言ってるんだ」とも思ったが、その表情が本気なのが分かると、考え込み……結果。
(これ以上詮索しないけど……ミーナちゃんってどっかの部族の生まれなのかな?)
キメラは少し気持ちが軽くなった。
だが、ミーナの話は重すぎた。
「そんな事もあるんだね……こっちこそ、何かごめんね?」
キメラはスッと立ち上がる。
「よしっ! 私も立ち直らないと!」
「おお! ミーナやるな!」
キメラが復活した。
それを見たアルカはミーナを褒めた。
「ありがとうございます! そういえばアルさんは好きな人とかいた事ありますか?」
「俺かぁ。俺もないな~」
「じゃ好きなタイプを当ててみましょう」
という感じで今に至る。
☆
「凄いな、当たってるぜ」
「二分の一の確率ですから」
「なるほどな」
ミーナは、極にも聞いてみる。
「極さんは好きな人とかいますか?」
「拙者は、いないでござるな」
「じゃ、好きなタイプを当てます……! 年上ですね?」
「わ、わかんないでござる……」
恋愛とか意味不明な極は、グイグイと来るミーナに対し、少し困っていた。
「そうですかぁ……何というか皆さん……さめてますね」
「そういうミーナは?」
「いませんけど……いつか素敵な人を見つけます!」
(乙女だなぁ)
両手を合わせ、キラキラした目で空を見るミーナであった。
「あっ、そういえば。皆は今度のイベントの告知見たか? 面白そうだよな」
「レベル差とかが無くなるって事は、新規が大量に入って来そうでござるな!」
特定のイベント専用ダンジョンが用意され、そこでは【レベル】、【装備】、【武器】がリセットされてしまうというものだ。
武器は、現在の職業で装備可能なものから1つ貰う事ができる。
ただし、一番弱いものとなる。
剣士であったら、【ショートソード】といった感じだ。
「私は今回はパスだね。【鍛冶師】だから相性最悪だ」
「私も【錬金術師】だからなぁ……」
どうやら、イベントに参加するメンバーはアルカのクランからは少人数となりそうである。
「俺のアバターは初期でも能力値が高いからな。参加するぜ」
「あまり初心者をいじめないようにお願いします」
キメラが念押しした。
「ああ、むしろ初心者を全力でサポートしてやるぜ!」
「お願いしますね? 目立つんですから」
結果、今回参加するのはアルカのみとなった。
「え? 俺だけ!?」
「拙者は成績の問題でござるな……勉強しなくては……」
最近GWOにハマり過ぎて、元々低い成績が更に低くなってしまったのだ。
「私はしばらくやけ食いでストレス発散するのでパスします」
キメラも不参加だ。
「ま、新規に洗礼を浴びせてあげるといいよ。このゲームの理不尽さをね!」
カノンはニヤリと笑いながら言った。
「新規ばかりとも限らないだろ? もしかすると、まだ見ぬ強敵と出会うかもしれねぇ」
「アルカ君も何か変わったね」
イベント【ゼロダンジョンアドベンチャー】は、9月4日からである。
運営の方で発案されたのが、8月31であったが、超大型企業という事もあり、すぐに実行に移されるのだ。タイミングを逃したらライフが減る可能性もあるので無理もない。最悪、行方不明者になる可能性もある。ブレイドアロー社の社員達は常に真剣だ。




