100.ネットの友達との別れは思ったより早い
第6層に着いたアルカは一旦ログアウトし、極にチャットを送信した。
アルカ「今暇?」
極「暇でござるよ」
アルカ「やっぱりか。今からGWOやらないか? 新しく解放された第6層まで辿り着いたんだけど、極は行けたか?」
極「第6層とか出たでござるか! まだ行ってないでござるな!」
アルカ「そうか!! もし、来るのがキツイようだったら手伝ってやってもいいぞ? 極1人だとキツイかもなぁ……」
極「別に大丈夫でござるよ! 今回は1人で倒してみるでござる!!」
アルカ「そうか。駄目だったら遠慮せずにな」
極「承知」
その後、倒したらGWO内のメッセージ機能でメッセージを飛ばしてくれと極に伝えた。
その間にアルカはメカタウンを探索する事にした。
「あれは……?」
【クランホーム屋】と書かれた派手な看板に目を引かれ、入店してみた。
「いらっしゃいませ」
「ここはどんなものを買えるのですか? クランホームとは?」
クランホームとは、クラン内で共有できるエリアのようなものである。
アルカ達はいつもアルカの【マイホーム】を特定のフレンド内での出入り自由にしていたが、普段は個人のホームを特定のプレイヤーだけとはいえ、リアルで知り合いでないプレイヤーに解放しているのはかなり珍しいとされている。その為、クランの皆で集まれる場として購入しているプレイヤーも多い。
クランホームなのでクランに入ったメンバーであれば出入りが自由となるが、外部のクランの人間を招待する事も可能である。
(そういえば……俺クランを作りも入りもしていなかったな。折角ある機能を使わないのは勿体無いしな。幸いクランホームを買う為のお金はイベントの賞金で足りそうだ)
とはいえ、クランを作成したクラン主でなければ購入する事ができないので、今のアルカには購入する権利が無かった。
「そうえいば前キメラちゃんとクラン作ろうとしてた時があったな。確かあの時は人数が足りなかったんだよな。今だったらそこそこ有名になったし、募集すれば結構人が来そうだな。でもいきなり大人数はなぁ……」
あまり大規模なクランではなく、楽しくやれる人同士、少人数でクランを作成したいと考えていた。
「最初は3人以上で冒険者ギルドに出向かないと、クランを作成できなかったんだよな」
が、直接時間を合わせてギルドに行かなくてはならないのは、このように不便なのでユーザーから不満の声も多かった。それもあり、アプデで承認を貰えればわざわざ3人でギルドまで足を運ぶ必要が無いように変更されたようである。
「あぁ、やっぱり不満に思う人が多かったんだな。とりえあず、承認を送ってみるか」
アルカはメニューを開き、【極】、【キメラ】、【カノン】、【ミーナ】に承認を送った。
ミーナからはすぐに返事が来た。現在ログイン中だったようだ。
「ミーナは入ってくれそうだと思ったけど早いな」
ミーナは今、vtuberとして絶賛活動中である。
それもあり、入ってくれない可能性も考えていたが、どうやら大丈夫なようだ。
極はおそらくアルキウスと戦闘をしているのだろう。返事は、まだ無い。
「極がボスを倒せなかったら手伝わなくちゃな」
アルカは、第6層の入り口で極からの連絡を待つ。
しばらく待っていたら、極が出てきた。
「おお、1人で討伐できたのか!」
1人で挑んだ場合、アルカが戦ったアルキウス程強くは無いが、それでも決して弱いボスモンスターでは無い。
「何とかいけたでござるよ!」
「苦戦していたと思ったぜ」
「苦戦はしていたでござるよ」
苦戦はしたようだ。
だが、それでも極1人で勝てるか不安だったので、アルカは驚いた。
「強くなったな」
「プレイングスキルはアルカ殿より上でござるよ! きっと!」
「俺も負けちゃいられないな」
極はいい笑顔を見せながら言うと、アルカも嬉しそうに笑った。
「後、クランの話何だが、入ってくれるか?」
「? おお! アルカ殿クラン作るのでござるな! 勿論いいでござるよ! いや~戦闘に夢中でメッセージに気が付かなかったでござる」
極は承認ボタンを押す。これでアルカ合わせて3人。クランを作る条件が満たされた。
アルカと極は第6層の冒険者ギルドへと向かう。
「クランの作成ですね。……はい、メンバーが確認できましたので作成致します。クラン名はどうしましょう? 後で決める事もできますが、どちらにしろ一度決めたら変更はできません」
メンバーがある程度集まってから決めたいというプレイヤーの為に、作成時にクラン名を入力しなくても大丈夫なようになっている。
どちらにしろ、名付けのチャンスは一度キリなので慎重に決めたい所である。
「決めて無かったし、後でお願い致します」
仮名で【アルカのクラン】という名称にされた。
後で決める場合、仮として、クラン主のプレイヤー名のクランとなる。
「でも何でアルカ殿はクランを作ろうと思ったのでござるか? やっぱりイベントとかの為でござるか?」
「それもあるけど、極を除けばGWO内で知り合ったメンバーだ。このまま離れ離れになる可能性も無い訳じゃ無い。だから、なるべく、いつまでも一緒に居られるようにってな」
アルカは学生時代、とあるサイトで知り合ったネット友達が何人か居た。
しかし、皆自然と離れ離れになってしまい、今では連絡を取り合う事も出来なくなっていた。
それもあり、年齢が離れていようが、リアルな知り合いで無かろうが、友人でいたいというアルカの願いでもあった。
アルカは正直、パーティ対抗トーナメント以前はそこまでこのメンバーに固執していなかった。仲の良い極と話せれば良いと思っていた。
だが、今は楽しかったあの日々を思い出すと、どうしてもこのまま別れたくは無かった。
「アルカ殿……何かかっこつけているでござるか?」
極がニヤニヤと悪戯な笑みを浮かべる。
「格好付けてはいない! と思いたい。まぁ、キメラちゃん達の都合もあるだろうし、無理にとは言わないけどな」




