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魔法武具の効果は


 クリフの一声で我に返った兵士と騎士は、水の魔力を秘めた剣スペランツァと氷の魔力を秘めた剣パレンティアを手に獅子奮迅の勢いを見せた。


 相手が上空にいようが、それぞれの剣からは無詠唱で魔法が飛翔し、四メートルはあろうかという大きなドラゴンを次々に撃ち落としていく。周囲に燃え広がった火の海は、噴き出し飛び散る大量の水と凍てつくような冷気に冷やされ、次第に勢いを失い、消えていく。


 赤黒いドラゴンたちが再び炎を吐き出しても、ルビーと補助魔法を込めたアンバーが装着された防具は、それらを一切通さなかった。防具を装着した者たちの身には火傷どころか傷ひとつ付かず、即座に反撃に出る。


 その様子をやや離れた場所から見守っていたジュードたちは、想像以上の効果にいい意味で絶句していた。



「す、すごい……とんでもないわ……」

「ああ、……想像以上だ」



 ウィルもマナも、つい今し方までの熱さなどとうに忘れたように、その光景を食い入るように見つめて目が離せなかった。長年ああでもないこうでもないと研究し続けてきた知識と技術が役に立ったのだと実感して、ウィルは身体が震えるのを感じる。彼らの技術は、前線基地の凶悪な魔物に対して確実に有効だった。


 とは言え、それはガルディオンの腕のいい鍛冶屋たちの協力があってのものだ。ジュードたちが造る半人前以下の武器や防具では、間違ってもこれほどの効果は出せなかっただろう。


 地上に落ちたドラゴンの群れは、下で待ち構えていたクリフが他の騎士たちと共に叩きのめす。雷属性の技を扱う彼と水の魔力を秘めたスペランツァの活躍は、まさに水を得た魚と言える状態だった。



「クリフ様!」

「おう、一気にかかるぞ!」



 クリフが剣を突き出せば、噴き出す水柱が紫色に煌めく雷光を纏い、ドラゴンの胸部を勢いよく撃ち抜く。水は雷をよく通す、その複合技とも魔法とも言えそうな一撃は、まるで砲弾のような恐ろしいほどの破壊力を持った。


 離れていては不利と判断した一匹が接近戦を挑んでも、クリフは決して動じない。逆手に持つ盾を巧みに使い、鋭利な爪による攻撃を防いだ後にカウンター気味にその身に刃を叩きつける。アクアマリンを装着したことによって武器そのものが水属性を有しているスペランツァは、ドラゴンの頑強な鱗でさえ綺麗に斬り裂いた。



「そらッ! もういっちょ!」

「グワアアアァッ!!」

「お、おい、見ろ! あいつら逃げていくぞ!」



 地上に落ちた最後の一匹がクリフの水と雷による複合技を真正面から喰らうと、空に残っていた二匹は慌てたように身を翻してその場を飛び去っていった。それを見て、地上で奮戦していた者たちは大興奮で勝鬨(かちどき)を上げる。こうして有利な状態で敵を撤退に追い込むなど、今まではそうそうないことだったのだろう。誰もが全身で喜びを表現している。


 辺りには雨が降ったような水浸しの光景と、暖かい南国ではほとんど考えられない小さな氷の山が出来上がり、陽光を反射してキラキラと輝いていた。



 * * *



 太陽も沈み、夜の闇が辺りを支配し始めた頃。前線基地には明るい笑い声が響いていた。



「カンパーイ!!」



 クリフは酒の入ったジョッキを片手に持ち、高々と掲げる。そんな彼に倣い、多くの兵士や騎士たちも笑顔でグラスを掲げた。


 誰もが皆、嬉しそうだ。抑え切れない喜びが表情に滲み出ている。ジョッキを呷り、クリフは喉を鳴らして酒を飲み干すと腹の底から満足そうな声を洩らして逆手の甲で口元を拭う。



「っかぁー! 勝利の酒はやっぱウマいなあ!」



 そんな様子を傍らで見ていたウィルは、思わず眉尻を下げて苦笑いを浮かべる。ウィルはもちろんのこと、ジュードたち一行はメンフィスを除けばいずれも未成年だ。酒の感想についてはまだよくわからない。クリフはそんなウィルに気付くと、親しげに肩なぞ組みながら絡んだ。



「なんだなんだ、テンション低いなぁ!」

「い、いや、俺たちは今日ここに来たばっかりなんで、まだよく状況が……いつもはこうはいかないんですか?」

「ああ、負け戦か……よくて痛み分けってのがほとんどで、とても酒なんか楽しむ気にはなれなかったんだよ」



 ウィルは己に絡んでくるクリフを横目に見遣りながら問いかける。前線基地の戦況については多少なりとも聞いてはいたが、実際のところはどうなのか彼らにはわからなかった。


 だが、当然のように返る返答に、噂は嘘ではなかったのだと即座に理解する。クリフだけではない、周囲の兵たちも心底嬉しそうだ。それだけ毎日の戦いは過酷なものだったのだろう。そんな言葉ひとつでは表しきれないほどに。



「けど、あんなデカいドラゴンが一斉に襲ってくるなんてことは今まではなかった。坊主たちの支援があと少し遅かったらと思うとゾッとしちまうよ、ありがとな」

「ふふ、だがお前さんがこちらに回されていてよかったと思う。大変なことも多かっただろうが、皆も勇気づけられるだろう」

「やだなぁ、メンフィス様。俺なんかじゃまだまだですよ、メンフィス様かシルヴァさんくらいにならないとね」

「ハハハッ、何を言っておる。こういう時は謙虚よりもふてぶてしいくらいがちょうどよいのだぞ」



 実際、基地の出入口辺りで兵士たちに囲まれていたメンフィスが応援に駆け付ける前に片付いてしまったのだ。今回のことは当然胸を張ってもいいことだろう、メンフィスは強面の厳つい顔を笑みに和らげながら何度もうんうんと頷いた。


 そんなやり取りを横で見ていたジュードたちは、各々頭に疑問符を浮かべた。



「シルヴァさんって……?」

「ああ、お前らはまだ会ったことないのか。この国でメンフィス様に次ぐ実力の持ち主、“烈風の騎士”のシルヴァさんさ。気をつけろよ、あの人は怒らせるとここにおられるメンフィス様よりもずっと怖いんだ」

「いや、ワシなど比較にもならん、下手をすると陛下よりも……」

「あっ、いけないんだ、メンフィス様が陛下を悪く言ってたって今度都に帰ったら告げ口しちゃお」

「こ、これ! やめんか! 陛下がお怒りになると恐ろしいのだぞ!」



 メンフィスとクリフのそのやり取りに、辺りにいた兵士や騎士たちは声を上げて笑った。ウィルやマナ、ルルーナも例外ではなく嬉しそうだ。リンファだけは表情の変化が乏しかったが、いつもよりも眦が弛んでいるところを見れば彼女も純粋に勝利を喜んでいるのだろう。


 ジュードはそんな彼らを後目に、邪魔をしないようそっと席を離れる。そのまま勝利に沸く建物を後にすると、基地の出入口へと足を向かわせた。手にはいくつかの食べ物を持って。



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