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フォンセの森の不気味な館


 街を出たジュードたちは、馬車を走らせて北西の森へと向かった。吸血鬼に連れ去られた街の少女たち、そしてカミラとルルーナを助けるために。



「ウィル、これでいいの?」

「ああ、あとは文字を彫り込んだ台座にその石を填めて、杖に着けてみてくれ」



 馬車の中では、ジュードとマナがカバンから作業道具を引っ張り出して台座や鉱石と格闘している。御者台に繋がる簡素な窓を開けて、現在進行形で馬車を走らせるウィルの指示を仰ぎながら。


 ウィルが言っていた考え――それは、より強い一撃を叩き込み続けることで吸血鬼を倒すという力業だった。

 この中で一番強力な攻撃ができるのは、高い魔力と様々な攻撃魔法を習得しているマナだ。だが、相手は魔族。いくら彼女の魔力と言えど、通用するかどうかはわからない。


 そこで、ウィルは火の国から持ってきた火の魔力を強く秘める鉱石を使うことを考えたのだ。

 高い魔力でも通用するかわからないのなら、マナが得意とする火属性魔法の破壊力を更に高めれば、いくら魔族とてただでは済まないだろうと。火の国で採掘されるルビーは、特に強い火の魔力を秘めている石だ。


 ジュードはマナから渡されたルビーを、古代文字を彫り込んだ台座に慎重に填めていく。本来は綺麗に研磨して使うのだが、今回ばかりは仕方ない。



「ジュード、スペル間違ってないだろうな」

「大丈夫だよ、……たぶん」

「頼むぞ、おい。正直、上手くいくかは微妙なとこだけどさ」



 マナは鉱石に魔力を込める作業を、ジュードはその鉱石の力を引き出すための古代文字を台座に彫り込む作業を担当している。

 台座に彫る文字は数ミリ程度の非常に小さく細かいものだ、こればかりは手先の器用さがなければ難しい。幸いにもジュードは細工物を趣味としている部分もあるため、こうした細かな作業はお手の物である。


 ルビーを台座に填めて、それをマナが愛用している木製のスタッフに装着させる。これで、火属性を強化した武器の完成だ。実際に効果を発揮するかどうかは、テストさえしていないために不明だが。

 マナはジュードから渡されたスタッフを受け取ると、馬車の窓から身を乗り出して外を見遣る。試しに杖の先に意識を集中させてみると、その刹那――



「きゃ、きゃああぁ!?」

「お、おい、森燃やすなよマナ!」



 マナの意識に呼応するかの如くルビーが強い光を放ち、ゴウッと音を立てて大きな炎が杖の先端部分に出現したのだ。

 魔法の詠唱をしたわけでもない、ただほんの少し意識を合わせてみただけ。それなのに、ルビーはこれでもかというほどに応えてくれた。これで魔法の詠唱をしたらどうなるのだろうと思えば、いっそ恐ろしくもあるが、何より心強い。



「わ、わかってるけど……でも、これならきっと魔族だってぶっ飛ばせるわよ! 女をバカにしてくれちゃってさ、思い知らせてやるわ!」

「あ、ああ……」



 マナは乗り出していた身を馬車の中に引っ込めると、壁に背中を押し当てて安堵をひとつ。思ってもみなかった杖の反応に驚いたのか、心臓がバクバクと喧しく拍動を繰り返す。けれど、それと同時に上手く言葉にならない興奮も覚えていた。これだけの力があれば、きっと魔族の男だって自分が倒せる。


 そう思えば、身に余りそうな力よりも興奮の方が勝った。そんなやる気に満ち満ちているマナを見て、ジュードは頼もしさを感じながらも幾分かの恐怖に近いものを感じていた。


 マナは――否、女はこうなると怖いのだ。



 * * *



「……いかにも、って感じね」



 馬車を降りたジュードたちの前には、鬱蒼と生い茂る木々。館は、そんな木々が並ぶフォンセの森の中にひっそりと佇んでいた。


 館全体の外観は深い焦茶色をしていて、一見すると黒にも見える。所々に苔が生え、あまり手入れはされていないような印象を受けた。屋根は赤く、まるで血の色だ。


 今現在の時間帯も、その不気味さを醸し出す要因となっている。街を発った時はまだ明るい時間帯だったのだが、いくら馬車での移動とは言え時間がかかる。すっかり夕暮れ時に差しかかり、辺りは徐々に暗くなり始めていた。

 だが、ジュードは特に足踏みすることなくウィルとマナを振り返る。



「怖がってても仕方ないさ、捕まってる人たちはきっともっと怖い想いしてる」

「そうね、行きましょう。早く助けてあげなきゃ」



 ジュードの声にウィルとマナは頷き返し、先を歩き出す彼の後に続いた。

 両開きの扉をゆっくり開くと、蝶番(ちょうつがい)の軋む音が響く。見た目の印象と変わらずやはり古く、あまり手入れはされていないらしい。


 玄関をくぐってまず見えたのは、宿で言うロビー部分。右左いずれにも二階に続く階段があり、奥には両開きの扉が見える。階段下にもそれぞれ左右に分かれた通路が存在しており、何とも分岐の激しい造りだった。この館のどこに少女たちが囚われているか、まったくわからない。



「広いな……」

「地道に探すのもいいだろうけど、あんま時間はかけたくないよな」

「ええ、こんな不気味な館は早く出たいわ」



 館の中は全体的に薄暗く、壁掛けの燭台はあるのだが、ロウが完全に溶けきった痕跡が残るだけ。長いこと火は灯されていないようだった。三人でいるからいいようなものの、これが一人だったらこんなふうに話すだけの余裕もないだろう。それだけの不気味さを館全体から感じる。まるで闇に飲み込まれてしまいそうな。


 出入口近くに少女たちを置いておくことはしないだろうと踏んだジュードは、二階に続く階段へと目を向ける。そして、その考えは間違っていないようだった。

 手すりに片手を添えて数段上ったところで、上の階から女性の悲鳴が聞こえてきたのだ。それと共に「ケケケッ!」という甲高い笑い声も。



「今の声……ジュード!」

「上だな、行こう!」



 おおよその出どころを確認して、ジュードたちは一段二段飛ばしに階段を駆け上がる。先ほどまで感じていた不気味さも独特の怖さも、既に気にならなかった。



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