表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101/229

明かされた力とついたあだ名


 動物、植物、魔物、精霊……人ならぬものと心を交わす、精霊族。

 彼らは北の森深くに隠れ住み、外界に出てくることはほとんどない。自然と共に生きる特殊な一族である。


 ライオットは、精霊族のことを簡単にそう話した。

 そこで浮上する疑問は、どうしてジュードがその一族の血を引いているか、だ。精霊族の森から出てきたのか、外に出なければならない事情があったのか。ジュードに過去の記憶がないため、どれだけ考えようと答えは出てこない。


 しかし、ライオットは何でもないことのように、むしろ当たり前のような顔で告げた。



「マスターは生粋の精霊族とは少し違うけど、マスターのお母さんが精霊族なんだに」

「お母さん……ジュードの? あんた、そんなことまで知ってんの!?」

「当たり前だに。ライオットはず~っと永く生きてる精霊だによ、色々なことを知ってるに」



 思わぬその言葉に、真っ先に驚愕の声を上げたのはマナだ。ジュードの出自はこれまでだってずっと不明だったが、それは彼の実の両親とて同じこと。ジュードがどこで生まれて、親はどんな人だったのか、それを知りたくない子供はいないだろう。幼い頃から共に育ってきたウィルやマナにとっては、我がことのように嬉しい話だった。


 けれど、当のジュードはと言えば、眉根を寄せて複雑な表情を浮かべたまま「いや」と力なく頭を振る。



「……親の話はいいよ、今は知りたくない」

「ふむ……まあ、そうだな。突然言われても困るだろう。その話は、ジュードの心の整理ができてからでもよいのかのう?」

「もちろんだに、つらいなら無理することないに。マスターが知りたいと思ったらライオットはいつでも話すによ」



 親や出自、それらを知らなくとも魔族の目的についての話に支障はないのだろう。メンフィスの言葉にライオットは考え込むでもなくあっさりとそう返答した。


 仲間たちはジュードの親のことを知れるなら嬉しいとは思ったが、確かにメンフィスの言う通りだ。これまで知らなかった“親”というものの情報をいきなり出されてもそうすぐに心の準備などできるはずもない。


 自分は捨てられた身――そう思うジュードにとって親の話は些かつらいものだった。今の彼には、まだ時間が必要だ。



「マスターは昨日の戦いでシヴァと交信(アクセス)したと思うに」

「アクセス?」

「あ、ああ、それを聞きたかったんだ。上手く言えないけど、こう……とんでもない力だった。自分の身体じゃないみたいに軽かったっていうか……」

「もしや、昨日のあの吹雪は……そのアクセスというものが関係しているのでしょうか? エンプレスは雪とは無縁の温暖な国だと聞きました、その国で雪などと不思議に思ったのですが……」



 次にライオットの口から出たのは、ジュードが最も気になっていることだった。シヴァはあの時「交信(アクセス)しろ」と何の説明もなく言っていたが、そう言われて「わかりました」とできるものではない。正直、あの時は運がよかったのだ。


 リンファの言うように、世界の南側に位置するこの火の国エンプレスは一年を通して温暖な国だ。雪など降ったことは、観測史上ただの一度もない。ちなみに、現在はすっかり天候も回復し、間違っても雪が降ることはなさそうな高い気温が続いている。



交信(アクセス)は精霊と一体化して、その力の恩恵を得ることだに。つまり、昨日のマスターはシヴァの力を借りて魔族を撃退したんだによ。シヴァは氷の精霊だから、吹雪はその影響だにね。一体化した時にシヴァの力が表に流れ出たんだと思うに」

「精霊と……一体化? そんなことができるなんて……」

交信(アクセス)は精霊族が持つ力のひとつだに。精霊と心を交わす、つまり使役することができる力って言えばわかると思うに。魔族はこの世界を自分たちのものにするためにその血と力がほしいんだによ」



 ひとつひとつ解けていく謎に、ウィルは頭の整理をしながら何度か納得したように小さく頷く。


 ジュードは北にある森に住む精霊族の血を引く一人で、魔族がそのジュードを狙うのは彼の血と力がほしいから。

 精霊たちの力はこの世界全体に行き渡っている。そんな彼らの力を意のままに操れるようになれば、世界を我が物にするなど造作もないことなのだろう。


 ライオットからの情報を簡単に纏めると、こういうことだ。様々な知識を持っているウィルでさえ、精霊族などというものがこの世界にいることは知らなかった。だが、ジュードが何だって別にどうでもいい。彼は彼で、他の誰でもない。



「取り敢えず、このくらいでいいにね。あまり一度にいっぱい話すときっと覚えられないと思うに。ライオットはこれからマスターたちと一緒にいるから、気になることはいつでも聞いていいによ」

「えっ、あんたこのまま居座るの? 精霊っていつでも会えるようなものじゃないと思ってたわ、イスキアさんたちもさっさといなくなっちゃったみたいだし……」

「仕方ないに、シヴァもイスキアもこの国では力の半分も出せないんだに。だから代わりにライオットを置いていったんだによ、改めてよろしくだに」



 どうやら、この白い珍獣は今後ジュードたちと行動を共にすることになるらしい。こうして話した限り、見た目はふざけているが中身は友好的だ。今回の話の全てをそのまま鵜呑みにしてもいいのかどうかは別に考える必要はあるが、敵とは思えない。



「(シヴァさん、あれで力の半分も出せてなかったのか……じゃあ、全力でやった時はどうなるんだろう)」



 この火の国エンプレスは、その名の通り火の力が強い国である。火と氷は互いに相殺し合う属性であり、衝突した場合はどちらの力や魔力が強いかによって勝敗が決まる。氷の精霊である以上、常時火の力が強い国に居続けるのはやはり厳しいものなのだろう。


 もしもシヴァが本気になったらどうなるのか。それを考えるだけでも恐ろしいが、同時に心強くもあった。魔族が現れたからと諦めるにはまだ早すぎる。


 相変わらず瞳孔が開いたようなふざけた顔で「よろしく」と見上げてくるライオットを眺めて、ジュードはしっかりと頷いた。そうして笑顔で一言。



「ああ、よろしくな。ええと……モチ()

「モ、モチ()って誰のことだに!? ひどいに! マスターはライオットの話のどこを聞いてたんだに!?」

「お前さぁ……さっきから“ライオット”って、自分で自分のこと名前で呼んでたじゃん、気付いてやれよ。まあ、モチ()の方が呼びやすいけどさ」

「やめるに!」



 悲しいかな、ジュードはライオットの話に夢中で名前にまでは気が回らなかったらしい。隣ではウィルが呆れたようにため息を洩らし、その傍ではメンフィスとマナが声を立てて笑っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ