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ニャラハン・ベッドソード

 ◆◇◆   



 

 その頃。

 ここは伝説の魔法杖(ミラクルスタッフレベル99)が眠るという洞窟。

 出口へと続く、砂利だらけの舗装されていない道を、青年ニャラハン・ベッドソードは走っていた。

 背中に一人の眠たそうな表情をした、アホ毛の少女を背負って。

「……全く、今日はついてない」

 彼は必死に走りながら事の発端を思い出す。



 ◇◆◇

 


 その日、昼。

 この世界の冒険者たちが集まり、仲間を探すことで有名な、喫茶『ショーク』。

 ノスタルジックなジャズが流れる、少し薄暗い店内。

 その奥では、ニャラハンも含めた4人の年若き冒険者たちが、ある中年男をテーブルの中心にして座っていた。

 ニャラハンたちは、それぞれ昇格試験を開始してから間もない初心者集団だ。

 しかし、彼を含めた四人の武器・防具は上級者向けの高級装備といえるものである。

 何故、まだ若い彼らがこのような高級装備で身を固めているのか。

 その秘密は、座の中心にいる中年男にあった。

「……いいか。昇格試験をうまくやりたいなら、まずは資金集めからだ。……必ず洞窟から宝を持ってくるんだ。俺が見込んだおまえらならやれるはず」

 座の中心の中年男は、若者たちに低い声で言う。

「任せてください。ギルドマスター」

 男を囲んだ若い4人はその声に対し一斉に返事をする。

「絶対に失敗は許されん……。俺は昇格試験と並行して、この世界で今までいくつものギルドを手がけてきたが、その殆どがあの洞窟でのトレジャーハントを途中棄権した。いわば、いわくつきの洞窟というわけよ」

 ギルドマスターと呼ばれた中年男は、そう言うと顔をゆがめてブラックコーヒーを呷る。

「!?」

 男の言葉に驚いた様子を見せる若者たち。

 そんな若者たちに、ギルドマスターは苦々しい顔で言う。

「その中には難攻不落と言われた我が最強の非公認ギルド『絶対☆幼女帝国』も含まれていた。おまえらも一度くらいは聞いたことあるギルド名だろ? なぁ」

「いや、初耳ですね」

 若者の一人が少し気まずそうに答えた。

 ばつが悪かったのか、ギルドマスターはそれを無視して話し続ける。

「まぁ、いい。本来なら、あの非公認ギルドが壊滅するはずなどなかったんだ。だが、俺のギルドはメンバーが油断していたところを狙われて事実上、壊滅した。言わなくても分かるだろうが、ギルドメンバーは『絶対☆幼女帝国』のギルメンであるということにプライドを持ちすぎていたが故に死んだのだよ。つまり、油断は禁物ということだ」

「……ふむ」

 4人の中、ニャラハンが、顎に手を当てて考えるようなそぶりをみせる。

 18歳。トレードマークはクセ毛の髪と太い眉と白い肌の魔法剣士である。

「俺がお前たちをこの新設非公認ギルドにスカウトしたのはそのためだ。余計なプライドは邪魔なだけなのだ。即戦力で洞窟から宝を奪取する。取ったら走れ、それだけだ。なお、売却後の宝の分け前に関しては……俺が8割でおまえらが2割。文句はないな?」

「はい。ギルドマスター」

 長い鍔の帽子に、皮のローブを着込んだゆとり魔法使いの少女は真剣な眼差しで、このギルドマスターの言葉に応答する。 

「俺についてくれば、ここでのお前たちのある程度の地位は保証しよう……。もちろん、今よりさらにランクが上の装備もな」

「おぉ」

 通称・ギルドマスターのその言葉に、目を輝かせる4人の若者たち。

「ただし」

 ギルドマスターは、血走った目で4人を見回して言った。

「くれぐれも、あの洞窟を甘く見るな」

「…………」

「油断したら、ほんとに死ぬぞ」

 喫茶全体に、ひんやりとした冷たい空気が流れる。

「し、死ぬのは嫌ですよ。話が違う」

 4人の中の背の低い僧侶のような格好の校閲青年が何かを言おうとする。

 だがその前に、

「おい! ギルドマスターさんはわざわざ、弱小装備だった俺たちをこの非公認ギルドにスカウトしてくださったんだぞ! 物は考えて言え! 命を懸けて忠誠を誓うんだ!」

 僧侶の隣の席に座っていた甲冑装備の男がそれを大きな声でかき消す。

 そう、彼ら4人はこの喫茶店にそれぞれ入店したところを、偶然この中年男に話しかけられ非公認ギルドに誘われたのだ。

「……ううう」

 どうやらメンバーたちの間にも多少は認識の違いがあるらしく、納得がいかない様子で黙り込む僧侶。

 そんな僧侶にギルドマスターは、

「小僧、抜けることはできるぞ」

 にやりと不気味な笑みを浮かべながら告げた。

「ほ、本当ですか!?」

 ギルドマスターの意外な言葉に、それを聞き返す僧侶。

「ああ、本当だ。ただし」

「ただし……?」

「このギルドを抜ける場合は、装備は全て俺に返してもらう。そしておまえを裸のまま、エリア3の魔犬の森に放り出す…………。キングキラー・ウルフの毒牙ってもんを体験するのも悪くはないかも知れないぜ」

「そ、そんにゃああ」

 ギルドマスターのその言葉に、僧侶はじんわりとした涙を浮かべた。

 店を出て、その後。

 手製の地図を頼りに、うっそうと茂る草木を掻き分けてギルドマスターと4人の若者は問題の『洞窟ミラクルトンネル』にたどり着いたわけである。


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