異世界扉を抜けた先
【第2章】
「じゃあ、面子はそろったし、さっそく行くとしようか。メイちゃんの運命が決まる3級昇格試験とやらに」
「そう……だね。ボクとしたことがドキがムネムネする……ああ、だめだこんなんじゃ」
「了解なのです。っていうかメイさん、かなり緊張してますね。主軸翻訳のわたしですら、すでに胸がドキドキ」
さて、メンバーの会話からも分かるように。
案内所での契約を取り交わした後、正式に旅の仲間となった3人は足早にそこを出て、さっそく次なる施設にたどり着いていた。
ここは【異世界ゲート魔法政府公認転送所・にほん・きゅうしゅう支部】という。
その名が示すように数ある異世界と魔法世界を結ぶ入り口であり、世界魔法政府公認施設のひとつだ。
案内所の近くから公共の地下通路に下り、特定の魔道標識に従って歩けば程なく到着する歴史を感じさせるレンガ造りの古めかしい建物。
この一階フロアには異世界へ通ずる青い扉だけが存在している。
なかなかにシンプルな設計だといえる。
なお、この異世界扉はこれから旅立つゆとりたちにとって感慨深いうえに神聖なものであり、扉の色から「青門」という名称でも呼ばれている。
ここに関しては昇格試験をはじめとする魔法使いの人生を決定づけるほどの重要行事をのぞけば訪れる機会はほとんどない。
それを考えれば、ヤギシマたちがこれほどまでに緊張するのは当然なのかもしれない。
加えて、重要なのが、冒険者の集う異世界(異世界とはいうものの、一応はこの世界の一部が分離・独立した姿である)は多種多様であり毎回どこの異世界に送られるかは完全に扉におまかせという点である。ヤギシマはゆとり魔法使いなので相応のランクの異世界に転送されることは予想できる。だが、それでも運が悪ければ獰猛なモンスターに襲われていきなりパーティの全滅というパターンもありうる。それが昇格試験の恐ろしさなのだ。
ちなみに昇格試験とはいうものの、その詳細な内容はここでは知ることができない。
それは異世界ごとに存在する『酒場』や『喫茶』か『政府公認ギルド』にたどり着いたうえで昇格用の試験クエストを受注する際に、世界魔法政府の委任をうけた『異世界クエスト係員』に聞くのが一般的かつ唯一の方法なのである。
さて、現在、ヤギシマのパーティメンバーをのぞけば施設に人はなく、どうやら翻訳・校閲案内所で先にパーティをつくったゆとり魔法使いたちは皆、すでに異世界ゲートをくぐった模様だ。
「今回はどんな世界に飛ばされるんだろう。でも、どちらにしろ。ボクは……なってやる。絶対に脱ゆとりに」
ヤギシマは、異世界へ通じるゲート「青門」を前に下を向いて、ふぅっと一つ重い息をつく。それから、ぐっと両のこぶしを握りしめた。
「それをサポートするのが、俺たちの役目だよ」
「なのです」
いまとなっては、傍らに立つ旅の友たちの声が心強い。
「では、いざ行かん」
ヤギシマはついに異世界に通じる扉に手をかけた。
ギギギ、という鈍い木材がきしむ音。
扉の向こうから溢れだす光。
覚悟は決まった。
先頭のヤギシマは恐れずに光の中へと第一歩を踏み出す。
と、同時に3人はその場から消滅した。
「……わっ、わああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
刹那に響いたのは絶叫。
ついに異世界に突入したらしい。
だが、いきなり想定外の事態が待ち受けていた。
そう、そこにはまず足を着くべき大地すら存在していなかったのだ。
「う、うそだろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
全身の感覚を完全に失った彼女たちは悲鳴をあげて何もない空間をただただ落下していくのみだ。