プレイヤーキラー
◆◇◇
宵闇がさらに深まる頃、4人は同じテントにて夜を明かすことにした。
これは、万が一の襲撃に備えたもので、それぞれが素早く連携をとることに重点を置いたもの……といえば聞こえがいいが、はっきりいえばテントがこれひとつだけしかないから一緒に寝ているに過ぎない。
4人のうち誰かが外で寝るパターンもメンバーたちは考えたのだが、これに関してはさすがに気が引けた。
「……まいった」
そんな中で、当然のごとくキタムラは眠れぬ夜を過ごしている。
自分の周囲に少女たちが寝ているからというのはもちろんのこと、食事の時のグリモワの告白が未だに彼の中では尾を引いていたのだ。
一方で、その近くからは。
スー。スー。というグリモワ本人の寝息が聞こえてくる。
当人は当人で、非常に気楽なものだな、と嘆息したキタムラ。
しかし、それも含めてグリモワの魅力なのだろう。
さて、おそらくはこのまま一睡もできずに闇を見つめることになりそうだ、と彼が考え始めていた頃。
「ふにゃぁい」
突然、彼の横に眠っていたヤギシマが寝返りをうった。同時に、彼女の雪のような色白の脚が布団の中に侵入する。
いまはまだ不完全ながらもキタムラに身体を一部くっつけた状態。
「お、おわああ、メイ!」
「……これボクのもの。すりすり」
どうやら、これでも眠っているらしい。
青年は完全に寝ぼけたヤギシマの抱き枕と化しつつあった。
それにしても。ヤギシマの光沢のある、さらさらとした黒髪は何だか上質なシャンプーのいい匂いがする。これはこれで悪くない。
「……っておい!」
キタムラはそんな自分に自ら突っ込みを入れた。
このままでは本当にやばい。
しかし、確かに悪くはないのだ。
ヤギシマの愛らしく端正な寝顔が、いま間近にある。
「ま、いいよな。これくらい」
思わず彼は、この魔法使いのことを抱きしめそうになる……。
少女の細身な体躯からは、甘い果実を連想させる芳醇な魔法香水の香りがほんのりと漂っていた。
むぎゅっ、という接触。
つまりは肌と肌が密着する時。
密かな丘陵がその姿を現した。
「な、わわ、素晴らしい」
キタムラは図らずも感嘆の言葉を発した。
完全なる密着。
青年は何故か暗闇の中で、楽園の暖かな陽の光を浴びるような錯覚すら覚えている。
「うぉっ、何してやがるんですか変態め!」
だが、そんな暖かな陽の光をただちに遮る妨害者が現れた。
つまりは、リプニー。
彼女の怒声が響きわたった。
「こんの、バカモーン!」
見つかってしまったらしい。
「お仕置きです!」
そして、彼女が愛用する巨大な翻訳ハンドブックが寝ている彼の首に振り下ろされた。
ゴキャッ。
キタムラの頸椎が鳴って。
「いっつてえええええ」
途方もない声を上げて青年は布団の上で悶絶する。
でも、ヤギシマは相変わらず夢の中だ。
むくりと半身だけ起こしたリプニーが満足げな表情で、
「どうだ。見ましたか! メンバーに手を出すような変態さんは必ずこうなる運命にあるのです。闇夜における、わたしの目を侮りなさんなよっ。今度こそ、本気でお仕置きしてやるのです」
そんなことを言い放った、次の刹那。
————ブオォンッ!
重厚な何かが風を切るような音がして。
テントが上部から横一文字に切断された。
「な、な、なーっ」
あまりに突然の出来事に、リプニーの碧眼は混乱でぐるぐると回る。
ついでに、キタムラも唖然として全く対応できず。
残りの2人もすぐさま異変に気づいて目を覚ました。
「……くむぅ。なんだよ。もう」
グリモワが、ごしごし、と眠たそうな目をこする。
さて、何者かの一撃でテントがばっさり切断されて、真の闇の到来を冷たい夜風が告げる。
リプニーは半身のみを起こしていたために、偶然にも帽子を吹き飛ばされ、数本のクセっ毛の先をカットされるだけで難を逃れることができたが、不幸中の幸いとはこのようなことを指すのだろう。
そして、この一撃の犯人。
それは……。
微かな月明かりを背にして立ち尽くす、錆色の甲冑姿の男。
手には巨大な大剣が握られている。
「……プレイヤーキラーの四天王か。最悪のタイミングだな」
グリモワがそうぼやくのをキタムラは確かに聞いた。
「プレイヤー、キラー……だと!?」




