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同盟


【第3章】



「僕はニャラハン・ベッドソード。新米の魔法剣士だ。そしてこいつはミラクルスタッフのミラ。信じられないだろうけど、この洞窟の奥に眠っていた杖が擬人化した姿だ」

「そうそう。こうみえてボクちゃん氏は507歳なのだよ。で、あんたたちの自己紹介はまだかな?」

 ミラから自己紹介をするように促されるヤギシマたち。

 少しの間、きょとんとして不思議そうにアホ毛少女たちを眺めていた3人だが、やがてヤギシマが気を取り直したように口を開く。

「見たところ悪い人たちではなさそうだね。……あ、申し遅れました。ボクは4級魔法使いのヤギシマメイ。脱ゆとりの昇格試験を受けるためにゲートからこの世界に送られてきました。そして、ここにいる2人ですけど、校閲のキタムラユツキくんと翻訳のリプニー・ワグナーちゃんといいます。ボクの昇格試験をサポートしてくれている冒険パーティのメンバーです」

 ヤギシマの発言を受けて、キタムラとリプニーもすぐに挨拶する。

「校閲のキタムラユツキです。さっきは助けてくれてありがとう」

「主軸翻訳、リプニー・ワグナーなのです。同じくハシビロコウ亜種の件では礼を言いたく思います。あのままでは、危なかったのです」

 これに、ニャラハンは何気ない口調で答えた。

「まぁね。どうやら、先ほどのハシビロコウは、きみたちに卵を食べられて狂暴化していたみたいだね。早めに始末できてよかった。というのも狂暴化したモンスターは攻撃力が桁違いに上昇するんだよ。だから、あえて、すぐには助けに行かなかった。というか気づいてはいたけど、助けに行けなかったんだ。どちらにしろ、ああいう卵があったら周囲を十分に警戒して料理することだね。近くに大物がいたら手痛い反撃を受けやすいから。ははは」

「なるほどね。気を付けます」

 ヤギシマが納得したように頷いていると。

「バーロー」

 あまり関心のなさそうなミラの声が飛んで。

「いったたたた! ミラ。やめ、やめろおお」

 ドコ。ドコ。ポコン。

 彼女はいきなりニャラハンの頭をこぶしで数回どついた。

 で、ミラは眉根を寄せて嘆息する。

「うんうん。確かに気を付けるべきだね。でも、おまえが言うな! おまえの場合は、ボクちゃん氏の力でここまで来れたんだろ! ボクちゃん氏からしたらおまえなんかはまだまだひよっこに過ぎないんだから。人にアドバイスなんて507年早い。生意気だ!」

「はい……。ごめん」

 ミラに説教を入れられたニャラハンは肩を落とし、情けない声を出した。

 どうやら、彼はアホ毛少女に頭が上がらないらしい。

 そんなニャラハンを傍目にミラは続ける。

「じゃあ、とりあえずきみたちに提案がある」

「はい?」

「ボクちゃん氏とニャラハンを臨時できみらのパーティに加えてみないか?」

「えええ!」

 ミラの発言を聞いた3人の間に驚きが走る。

「どうだろう? 悪い話ではないよ? 人員が増えれば危険も減る」

 ミラがたたみかける。

「うぅん。まぁ、そうだけれど」

 ヤギシマは悩ましげな声を出す。

 助けられたとはいえ、今しがた出会ったばかりの2人をパーティに加えるのはいささか気が乗らない。

 だが、異世界での経験値が足りない、この状態では、再びモンスターに襲われた場合に苦戦するのは目に見えている。

 さて、どうしたものか。

 メンバーそれぞれが心の内で葛藤する。

(…………)

 少しの沈黙を挟み。

 ヤギシマが下した決断はやはり。

「じゃあ、臨時的にということで、支援をお願いします! こちらも戦力が増えるのは助かるし、何より、強い人と一緒にいられることは魔法のスキルを上げる経験値を積むうえでもメリットですからね」

 すると、ミラはにこりと可愛らしくほほ笑んだ。

「もちろん、構わないよ。せいぜい、この洞窟を出るくらいまでだろうけどエンカウントした魔物はちゃんと始末するつもりだから、きみらも経験値を積んで今後の魔法錬成にでも生かすといい。ボクちゃん氏としても、きみたちのパーティに加入することは保険を増やす意味で重要だから、お互いにウィンウィンな関係というわけだ」

 ここで、ちょっと待ってくれとばかりにニャラハンが付け加える。

「あ、そうだ。洞窟を出たら僕とミラは街の武器屋に立ち寄るつもりなんだが、きみたちはもう昇格試験のクエストは受けているのか? もし受けてないなら喫茶『ショーク』のあるベーグルハムの街までは案内してあげられるけど」

「えええ、それ本当!? まだクエストは受注できていないから助かります!」

 ヤギシマの瞳はみるみるうちに輝きだす。

 さらには、話を聞いていたキタムラとリプニーも、

「確かに、昇格試験の詳細が分かるのは大きいな。いきなりどうなることかと思ったが、かなりラッキーだぞ、これは!」

「親切な魔法剣士さんたちなのです!」

 同意して頷く。

「まぁ、ボクちゃん氏はこの洞窟から出れさえすればいいんだけど、どうせ目的地が同じ街ならば仕方ないって感じ。ふーむ」

 アホ毛のミラは無感動に言うと、ニャラハンの背でふぁーあと欠伸をする。

 一方、ニャラハンとヤギシマは。

「じゃあ、街に着くまでは僕とミラをパーティに加入させる形で同盟を結ぶってことでいいかい?」

「了解です。むしろかなり効率が上がりますよ」

 こうして同盟は結ばれた。

 臨時的ではあるものの、『ミラクルトンネル』から『喫茶ショーク』のあるベーグルハムの街まで心強い仲間がヤギシマパーティに加わることになった。

「「グリュリュリュリュ」」

 と、その最中、獲物の気配を感じ取ったのだろう。巨大なカマキリのような魔物が二体、カサカサと地面を張って、一行の前に姿を見せる。

「やれやれ。さっそくお出ましか」

 ミラは少し得意げに笑うと魔物たちに手をかざした。

 次に洞窟内部に響いたのは、すさまじいまでの爆裂音だ。


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