宇宙人をひとりだけ
「ひとつだけ?」
私は病室のベッドサイドに座って、にこにこしているスーツの男に問いかける。
「ええ、あなたの願いをひとつだけ」
何故だろう、普段なら胡散臭くて絶対に信じないような言葉なのに、すんなり信じられる気がした。
――ひとつだけかぁ……。
医者に言われた。私は難しい病気。
治療法もなくて、このままでは死を待つだけ。
――普通に考えれば病気の恢復だよな……。
「おや、迷うことなどないでしょう」
「うん、そうだよね」
確かにそうだ。ここは病気を治してもらう一択。
――だけど。
梶谷柊子。
向こうは覚えていないだろう。
何せ、席が隣になった縁で何日か会話をしただけ。
でも、私は。
――会いたいな。
初めてだったんだ――あんなに、また話したくなって、また笑顔が見たくなって、ずっと一緒にいたいって思えたのは。
でも向こうはこっちのことなんて覚えてないだろうし、今更、私が学校に戻ったって……。
「ああなるほど。そう言うことでしたか」
何に納得したのか、男は満足げに頷いている。
「今――大変そうですよ。柊子さんも」
事も無げに言い放つ。まあこの男なら知っているんだろうな、と私は思う。
それにしても――柊子ちゃん、ちょっと誤解されるキャラクターかもなぁ。
――私なら……。
私は自分の頬に指をきつく押し当てた。
でも、病気を治さなくちゃ学校には行けない。
万が一体調の悪いところを見せたら、柊子ちゃんを心配させてしまう。
病気を治したい、学校に復学したい、柊子ちゃんと友達になりたい……。
願いは一つじゃ足りない、が……。
「私の病気を治して」しょうがない、まずはそれからだ。
彼女と仲良くなるのは、元気になってからでも遅くない。ちょっと自信ないけど何とかする。
「分かりました」
男は着けていた黒い手袋を外し、私に手をかざした。
みるみる男の手から黒い帳が広がり、私はあっという間に飲み込まれる。
「ユ、ユニコーン人? な、何ですかそれっ」
今、私は男を詰問中だ。
だって、私とはかけ離れた外見になってしまったから。
「申し訳ないです。似子さんの病気が思ったよりも厄介で。なので、あらゆる病から身を守れるユニコーン人にするしか手がなかったんですよ」
少しも謝っている感じがなくて私は呆れる。
「ええぇ……」
「お得ですよ、ユニコーン人。持っている厖大な抗体のおかげで病気になりませんし、確かに子孫は残せませんが、人の好感度も操れますし」
――ん? 子供が作れない? 好感度を操れる?
さらっと今、何かとんでもないことを聞いた気もするが、私は聞かなかったことにする。
「まあいいわ。とにかく、これで……」
柊子ちゃんに会えるのだ。私はわくわくしてきた。
「そうだ、今から柊子さんのところに行くんですよ、私」
男は思い出したように言って立ち上がる。
「では、あなたのことを不審がる人には全て好感度操作を行って下さい。あ、それから――このことは内緒でお願いします」
人差し指を立てて唇に当てる男。何だろう、約束を破ったら死ぬ気がする、この妙な強制力。
「似子さんはここで待っていて下さい。すぐに呼び出しますから」
「え? どういう――」
私の質問をを聞かず、男は病室を出て行った。
――な、何よ。
と、私は私の変化に気付く。
ベッドから降りて、軽く飛び跳ねてみる。
軽い。羽が生えたよう。どこへだって行ける。
――ああ。
男の言う通り、治ったんだ、病気。
言いようのない解放感に私は身震いする。
――柊子ちゃん。
途端に、彼女への思いが溢れ出す。
私はクローゼットを開け、赤いワンピースに着替える。
いつか退院したら着ようと思っていた。少々季節感には欠けるが私のお気に入り。
そして、簡単にメイク。
――?
私の頭上、いきなり裂け目が現れた。
手を伸ばして淵に両手を掛けてみる。するりと吸い込まれ、裂け目の外に出た指が別の外気に触れたのが分かった。
――柊子ちゃん、この先に、いるのかな……。
私は淡い期待を抱き、ゆっくりと身体を引っ張り上げた。
これで第三話はおしまいです。
次回は未定。
また宜しくお願いします。




