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ひとつだけ  作者: 滝岡尚素
第三話 宇宙人
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宇宙人をひとりだけ

 「ひとつだけ?」

 私は病室のベッドサイドに座って、にこにこしているスーツの男に問いかける。


 「ええ、あなたの願いをひとつだけ」

 何故だろう、普段なら胡散臭くて絶対に信じないような言葉なのに、すんなり信じられる気がした。


 ――ひとつだけかぁ……。

 

 医者に言われた。私は難しい病気。

 治療法もなくて、このままでは死を待つだけ。


 ――普通に考えれば病気の恢復(かいふく)だよな……。

 「おや、迷うことなどないでしょう」


 「うん、そうだよね」

 確かにそうだ。ここは病気を治してもらう一択。


 ――だけど。

 梶谷柊子。

 向こうは覚えていないだろう。

 何せ、席が隣になった縁で何日か会話をしただけ。




 でも、私は。

 ――会いたいな。

 初めてだったんだ――あんなに、また話したくなって、また笑顔が見たくなって、ずっと一緒にいたいって思えたのは。



 でも向こうはこっちのことなんて覚えてないだろうし、今更、私が学校に戻ったって……。



 

 「ああなるほど。そう言うことでしたか」

 何に納得したのか、男は満足げに頷いている。

 「今――大変そうですよ。柊子さんも」

 事も無げに言い放つ。まあこの男なら知っているんだろうな、と私は思う。

 それにしても――柊子ちゃん、ちょっと誤解されるキャラクターかもなぁ。

 ――私なら……。

 私は自分の頬に指をきつく押し当てた。


 でも、病気を治さなくちゃ学校には行けない。

 万が一体調の悪いところを見せたら、柊子ちゃんを心配させてしまう。

 病気を治したい、学校に復学したい、柊子ちゃんと友達になりたい……。

 願いは一つじゃ足りない、が……。


 「私の病気を治して」しょうがない、まずはそれからだ。

 彼女と仲良くなるのは、元気になってからでも遅くない。ちょっと自信ないけど何とかする。

 

 「分かりました」

 男は着けていた黒い手袋を外し、私に手をかざした。

 みるみる男の手から黒い(とばり)が広がり、私はあっという間に飲み込まれる。












 「ユ、ユニコーン人? な、何ですかそれっ」

 今、私は男を詰問中だ。

 だって、私とはかけ離れた外見になってしまったから。


 「申し訳ないです。似子さんの病気が思ったよりも厄介で。なので、あらゆる病から身を守れるユニコーン人にするしか手がなかったんですよ」

 少しも謝っている感じがなくて私は呆れる。


 「ええぇ……」

 「お得ですよ、ユニコーン人。持っている厖大(ぼうだい)な抗体のおかげで病気になりませんし、確かに子孫は残せませんが、人の好感度も操れますし」

 ――ん? 子供が作れない? 好感度を操れる?


 さらっと今、何かとんでもないことを聞いた気もするが、私は聞かなかったことにする。


 「まあいいわ。とにかく、これで……」

 柊子ちゃんに会えるのだ。私はわくわくしてきた。


 「そうだ、今から柊子さんのところに行くんですよ、私」

 男は思い出したように言って立ち上がる。


 「では、あなたのことを不審がる人には全て好感度操作を行って下さい。あ、それから――このことは内緒でお願いします」

 人差し指を立てて唇に当てる男。何だろう、約束を破ったら死ぬ気がする、この妙な強制力。


 「似子さんはここで待っていて下さい。すぐに呼び出しますから」

 「え? どういう――」

 私の質問をを聞かず、男は病室を出て行った。


 ――な、何よ。

 と、私は私の変化に気付く。

 ベッドから降りて、軽く飛び跳ねてみる。


 軽い。羽が生えたよう。どこへだって行ける。

 ――ああ。

 男の言う通り、治ったんだ、病気。

 言いようのない解放感に私は身震いする。

 ――柊子ちゃん。

 途端に、彼女への思いが溢れ出す。


 私はクローゼットを開け、赤いワンピースに着替える。

 いつか退院したら着ようと思っていた。少々季節感には欠けるが私のお気に入り。


 そして、簡単にメイク。

 ――?

 私の頭上、いきなり裂け目が現れた。

 手を伸ばして(ふち)に両手を掛けてみる。するりと吸い込まれ、裂け目の外に出た指が別の外気に触れたのが分かった。





 ――柊子ちゃん、この先に、いるのかな……。

 私は淡い期待を抱き、ゆっくりと身体を引っ張り上げた。

これで第三話はおしまいです。

次回は未定。

また宜しくお願いします。

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