表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ひとつだけ  作者: 滝岡尚素
第二話 幸福な遺書
13/33

胸のつかえをひとつだけ

 一人の夜が堪らなく辛いことがある。

 それは二十年前から変わらない。どころか、何年も経つうちにどんどん濃度を増している気さえする。


 水原(みずはら)はベッドサイドでビールを飲んでいる。既にサイドテーブルの上には何本もの空き缶。


 こんな夜はどれだけ飲んでも酔えない。




 「おや、ずいぶんと飲んでいますねぇ」

 いつの間にか隣に男が――座っていた。




 「うお」

 突然のことに、水原はベッドから転げ落ちる。



 「あら、申し訳ありません」

 「な、な……」

 水原は立ち上がり、言葉を失っている。



 男はベッドサイドから水原を見上げ、にこりとする。何故か逆らえない笑顔だった。

 「あ、申し遅れました、私は――」

 名乗る男。水原は聞き取れなかった。



 どう言うわけか促されるまま、素直に男の隣に腰掛ける水原。

 「さて、あなた、何か私を必要としていませんか?」



 そう言われても何のことか分からない。

 「いや俺は――別に……」



 ――何で素直に答えてるんだ。

 だが、男を追い出せない。



 「そうですか? あるでしょう? 私、必要とされているところに現れるんですから」



 「……そう、言われても」

 「あ、これかな?」

 男の手にあったのはひどく傷んだ封筒。



 「おい! どこからそれを!」

 水原は色をなして男から封筒を奪おうとする。



 と、男の前に見えない壁でもあるのか、水原は弾き飛ばされた。



 「――返せ! その、手紙は!」

 水原は投げ出された床から半身を起こし、鼻を押さえながら、叫ぶ。



 「なるほどなるほど」

 何が分かったのか、男はしきりに頷いている。



 水原は、男を見上げる。

 「ひとつだけ、あなたの胸のつかえを解消して差しあげましょう」



 「――?」

 「この手紙を、本来の持ち主に返しなさい。それだけでいいです」



 「何だと」

 「あ、妹さんがいますね? その人にでも頼むといい」



 男はそう言って、水原に手紙を返した。

 水原は事態が飲み込めない。だが、何故かそうすべきだと言う気もした。

 はるかの死の謎を、この男が解くとでも?


 男は立ち上がる。にこりとする。

 「いいですね? あなたがそうすれば、きっと――」



 あなたのもやもやは解消されるでしょう、と言って、

 男は掻き消えた。

 跡形もなく。







 ――なん、だったんだ……。

 喘ぐように呟く、酔っていたのか? だが、手に握られた手紙は紛れもなく本物。


 ――本当に、あの男の言う通りにすれば?


 水原はうなだれる。二十年前、とつぜん奪われた婚約者。あいつの所為だと、水原は考えた。



 だがそれを、あいつに確認するのも怖くて手紙のことを誰にも話せなかった。



 だが、本当に、あの男の言う通りだとすれば?


 ――救われるとでも言うのか? 今更。


 水原は立ち上がり、ベッドに投げてあったスマホを手に取る。

 依然、水原は半信半疑だ。



 それでも、森村洋子に発信する。

 

『幸福な遺書』はこれで終了です。

なお、次回は未定です。


ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ