眠気覚ましオーバーキル
「うお、ゴールデンウィーク終わりじゃん!って思ったのが昨日の夜11時」
「いや遅いな」
ゴールデンウィークがあっという間に終わって学校が再開したが、石坂は休み前と同様元気そうだ。
「遅い?じゃあコースケはいつ気づいたの?」
「気づくもなにも、忘れるもんじゃないだろ」
「たしかに!でも私は忘れちゃうんだなー、うししっ」
「大丈夫かよ」
「平気平気ー。ちゃんと直前に思い出すから!お休み中、あと何日か……なんて考えないから気楽だしい?」
「気楽って……宿題とかちゃんと終わるのか?」
「へ?それもダイジョブダイジョブ。宿題は休みの前半でとっちめるようにしてるから」
「マジか」
思ったよりもしっかり者みたいだ。むしろこのポジティブさをもってすれば、その気になれば大抵のことはできてしまうのか?「休みを満喫するために課題をはやく片付ける」という、誰もが挑戦し失敗する難題を容易く成し遂げることができるのかもしれない。
「コースケ、もしかして眠い?」
「う、なぜわかった」
「声に覇気がないぞー。昼夜逆転の生活でもしてた?」
「く……」
高校生になってから一ヶ月分の疲れがでてしまい、起きる時間が遅くなってしまった。それによってさらに寝る時間が遅くなる。結果、昨日も一時まで起きていた。そして6時に目を覚まし、登校したのだが、5時間睡眠はきつい。6時間は寝たい。
「んー。コースケ、手、出して?」
「へ?」
頭が多少ぼーっとしていたこともあり、なにも考えず石坂に近い方の左手を石坂の顔の前に出す。
「うぇーい」
「っ!?」
びっくりした。急に、手を繋がれたもんだから。
「おま、お前なにすんじゃ!!」
「うっしっしっ、やっぱりなー、コースケは絶対動揺すると思った」
「なんなんだよ本当に!」
「ドキドキした?」
「うるせーな……」
「眠くなくなるかなーって」
たしかに、びびって眠気は失せた。失せたけど!
「ふん、仮眠する」
俺は机に突っ伏した。
「……逃げた」
「……ほっとけ」
「こりゃ大ダメージだね。私の勝利だ」
それっきり今日の朝は会話しなかった。
ーーーーー
時は移って昼休みが終わる頃。
「次音楽か。教室移動しないと」
そう思ってロッカーから教科書を探していると、
「上岡君」
後ろから声をかけられた。
「一緒に音楽室まで行かない……?」
男子だ。
「えっと……」
「あ、ごめん。自己紹介がまだだった。僕は宮下。よろしく」
「よろしく……あ、宮下ってもしかして。毎朝勉強してる!」
「そう!よくわかったね」
「さすがに目立つしな」
俺たちは廊下を歩き出した。しかし、なんで急に話しかけてきたんだ?友達いないのか?だとしてもなんで俺?全然困らないから良いけどね。
「上岡君」
「上岡でいいよ。なんならコースケでも」
「なら上岡。一つ聞きたいことがある」
「なに?」
・・・
「上岡は、石坂さんと付き合っているのか?」
「はっ!?」
「毎朝イチャイチャしてぇ!僕は見てるぞ!」
「いや、あれは別に、フツーに喋ってるだけだから!」
「この前なんか二人で帰ってなかったか?」
「あ、あ、あれはたまたまな?落ち着け宮下?」
俺も落ち着け?別に嘘ついてるわけでもない。堂々と真実を伝えれば良い。
「じゃあ付き合ってないと?」
「そうだよ」
「でも君は石坂さんのことが?」
「ええ?別になんとも思ってねーよ。友達友達」
のはず。
「じゃあ逆はどうだ?正直どう思うんだっ?」
「いや逆もないんじゃね?」
俺にだけ特別あんなに話すということではないだろう。予想だけど。席替えしたら新しい隣の奴と話すんだろう。
「そうか……」
なに釈然としない顔してんだ。
「まあいい。だが一つだけ言っておく」
まずい。とうとう言われてしまうのか。うるさい、勉強の邪魔だって。注意されてしまうのか……。
「いいぞ、もっとやれ」
「……は?」
意味わかんねぇなこいつ!!