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003 リレー小説 その二

 部員全員でバトンを繋ぎ、6人で一つの小説を書き上げた。


「よしっ、っでは――書いた人が書いたところを順番に朗読していこうか。」


 一番手を担当した森部長は、自信が書き上げた部分を渋い声で朗読し始めた。



 以下――森部長が書き上げた冒頭部分である。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 高瀬舟は、京都の高瀬川を上下する小舟である。


 徳川時代に、罪人が島流しの刑を言い渡されると、罪人は高瀬舟にのせられて、町奉行の同心が護衛をする役目を受け持っていた。


 ある日、珍しい罪人が高瀬舟にのせられた。名は喜助といった。


 彼の護送を命ぜられた同心の羽田庄兵衛は、この喜助という罪人が、弟殺しの罪人だということだけをきいていた。


 しかし――庄兵衛が喜助を見た時、驚くことがあった。その理由は、喜助がいかにも楽しそうだったからである。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 ここまでが森部長の書いた冒頭部分である。続いて谷崎が自身の書いた部分の朗読を始めた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「なぁ喜助。」


「うん? なにかな?」


「どうしてお前はそんな楽し気な様子なのだ?」


 庄兵衛の問いに、喜助は少し恥じらい気に答えた。


「だって……庄兵衛と一緒に、二人きりで船に乗っているから……かな。」


 喜助は甘えるように、庄兵衛の厚い胸元に頬をすり寄せた。


「おい、俺は下手人……お前は罪人の関係だぞ。」


「でも、庄兵衛のここ……こんなにドキドキ鳴ってるよ?」


「待て、どこを触っておるのだっ……。」


 ※過激な描写により一部自重


「あぁっ……っ! そんなとこっ! 駄目なのだっ!!」


 激しい喜助の腰つかいにより、庄兵衛はついに激しく身体を痙攣されて果てた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 谷崎は頬を紅潮させ身震いしながら、自身の書いた部分を読み終えた。


「お前、よくこれで川端先輩にバトン回せたな。」


 芥川は呆れたという風な視線を送ったが、谷崎は一切悪びれない様子で答えた。


「攻めと受けどっちにするかで迷ったんだけどね。やっぱり、庄兵衛×喜助の方がよかったかな~。反省、反省!」


 てへへっと、谷崎は反省の欠片もない笑みをうかべる。それを見て、川端副部長はげんなりした様子で小言を言った。


「そういう問題じゃないんだけど……。正直なかなかヘビーなバトンだったわよ。」


 谷崎のキラーパスを受け取った川端先輩は、自身が紡いだ部分を読み始めた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ところで喜助。お前はなぜ弟を殺したんだ?」


「……。」


 喜助はひどく恐れ入った様子で、小声でその理由を語り始めた。


「私の家は両親を幼い頃に病気で亡くし、それからは弟と私……、手をとりあって生きてきました。西陣の繊維工場で働いていたのですが、そのうちに弟が病気で働けなくなったのです。私が食物を買って帰ると、弟はいつもすまないと申しておりました。」


 喜助は上唇に鉛の重りを縫い付けられたように、重々しく思い出を語る。庄兵衛はそれを真剣な表情で聞き入った。


「ある日、仕事から帰ると、弟は喉から血を流して倒れていました。自分で喉をかっ切ったようです。弟は、どうにも治らない病気だから、早く死んで少しでも私の生活を楽にさせてやりたかったのだと思います。」


 喜助は目に涙を浮かべながら、自身が罪人となった顛末を語る。


「弟はカミソリで喉を切ったが、手を滑らせて喉に埋まってしまったようでした。『どうか、このカミソリを抜いて楽にさせてくれ……』と、弟は涙ながらに私に頼みます。そこで私は……弟の喉に埋まった剃刀を引き抜きました。その瞬間を、近所の婆さんが見ていたのです。」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 川端副部長は、谷崎の生み出したBL展開から、見事にシリアスで重厚な物語へと引き戻した。


 しかし、安堵するわけにもいかない。なぜなら、次のバトンは中原だからである。


「おっしゃ~! この俺の華麗なる朗読に聴き酔えるがいい!」


 中原中二は、自身の書き上げた部分を高らかに朗読し始めた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 二人を乗せた小舟は、幅の広い川面を滑っていく。


「ふむ……風が鳴いている。庄兵衛……今夜は一波乱ありそうだぞ。」


 喜助は漆黒に揺れる水面を、鋭い目つきで睨みつけた。


「はんっ、心配いらねぇさ。高瀬川の主が出ようが、俺の愛刀――闇血暗黒村正(改)の錆びにしてくれる。」


 庄兵衛は愛刀――闇血暗黒村正(貝)の鞘を撫でながら、来るべき決戦に備えていた。


 その突如のことだ。高瀬川は大きな大蛇がうねるように、激しく波打ち始めた。


「この波の荒れ具合は、高瀬川の主――暗黒龍・蛇火世に違いない。」


「――暗黒龍・蛇火世?」


 喜助の問いに、庄兵衛はにやりと笑いながら教えてやった。


「そうだ。高瀬川の名の由来になった怪物だ。喜助っ、お前は俺の第二の愛刀――聖光江玖栖華李婆で援護しろっ!」


 庄兵衛と喜助が剣を構えたその時――、漆黒の川面から見るも恐ろしい怪物がその姿を現した。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 自身の書いた部分の朗読を終え、中原は「どうだっ!」と言わんばかりにドヤ顔で胸を張った。


 その不快なるドヤ顔を、芥川は容赦なく平手で張った。


「いってぇっ!? 何すんだよ、龍助っ!?」


「何すんだじゃねぇよ! 何書いてんだよお前は。今までの流れ台無しになっただろうが。」


「どこが台無しだっていうんだよ! 最高のバトンだろうが!」


 掴みあう中原と芥川を、川端副部長はびしゃりと一言で留めた。


「二人とも――いい加減にしなさい。」


「……すみません。」

「……すんません。」

 

 場が収まった後、芥川は「こほんっ」と咳ばらいを入れてから、自分の書いた部分の朗読を始める。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 喜助は、はっと夢から目ざめた。それは何やら――高瀬川から怪物が現れるという、とんちんかんな夢であった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 芥川の朗読の途中だったが、その初め二行を読み終えた瞬間に、中原が芥川に掴みかかった。


「ってめぇぇぇ!!! ふざけんなっ!!!!」


「おい、まだ朗読の途中だぞっ! そもそも、ふざけてんのはお前だろうがっ!」


「俺が必死に綴った部分を、なんで夢落ちでなかったことにしてんだよ!」


「仕方ないだろう! 不可抗力だっての。」


 もめあう二人を留めたのは、やはり川端副部長である。しかし、今度は声を発することなく、机をーーダンッ!と叩くことで場は静まり返った。


「さぁーー、早く続きをどうぞ。」

 

 場の空気は時が止まったかのように凍り付いたが、何事もなかったように川端副部長は芥川を促した。


「は、はい!」


 川端の強い眼力に見つめられ、芥川はやや強張った表情で、朗読の続きを始めた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 夢から覚めた喜助が見上げると、やや明るい紺碧の空が頭上を覆っていた。どうも夜明け前まで眠ってしまっていたらしい。


「あとどれ程舟に揺られるのでしょうか。」


 喜助が庄兵衛に尋ねると、「目を凝らしてみろ。もう島が見えているだろう。」と前方を指差した。


 庄兵衛の仕事は、罪人である喜助を無事に島に送りつけることである。しかし、本当に彼を島に送ってよいものか、庄兵衛の心はざわついていた。 


 ――喜助のしたことは、本当に罪なのだろうか。


 弟はそもそも兄を思っての自害だったのだ。兄である喜助に、苦労をかけまいと自らの喉に刃を突き立てた。


放っておいても、弟はじきに死んだだろう。


 上手く死にきれず苦しむ弟の喉から、喜助は剃刀を抜き取った。その結果に死を迎えたとしても、そこに罪はあるのだろうか。


 庄兵衛は迷いながらも、島に向かって舟を漕ぎ勧めた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 芥川が自身の書いた部分の朗読を終えると、森部長は「うむ……。」と満足げな表情を浮かべていた。川端副部長もじっと考え込むように、物語終盤の展開に引き込まれている。


「それじゃ、最後は太宰ちゃんだね!」

 

 谷崎に促され、太宰小治はおずおずとその場に起立した。


 彼女の艶のある薄桃色の唇が、ゆっくりと開かれる。


「それでは……僭越ながら、取りをつとめさせて頂きます。」


 やや緊張した表情で、太宰は自身の書き上げた物語の完結部分を朗読し始めた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 庄兵衛は葛藤しながらも漕ぎ進め、二人を乗せた小舟は島岸へと辿り着いた。


 流罪になった罪人は、本土から隔てられた孤島で質素な自給自足の生活を営む。


 罪人の管理をするのは、土地の地主の男なのだが、これまた罪人を下僕の如くこきつかう邪智暴虐の王であった。


 庄兵衛は迷いながらも、手筈通り、地主に喜助を引き渡した。


「ほぅ、これが弟殺しの罪人であるか。ふん、どうにもキチガイの顔をしておるわ。」


 地主の男は、喜助の顔に唾を吐きかけた。

 

「っつ!」


 庄兵衛は激怒した。昨晩愛し合った喜助を侮蔑されたこともあるが、喜助の悲しむべき境遇が憐れで仕方ない。


庄兵衛は思わず愛刀の闇血暗黒村正(改)に手を伸ばしかけたが、そんな刀は夢の中でしか存在しない。


 自分に出きることはないのか。


 考えた末に庄兵衛は走った。


 お上に喜助の無罪放免を訴えるためにーー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 そこまで朗読を終えて、太宰はふっと原稿を下ろした。


「……すみません。ここまでしか書けませんでした。上手くまとめられなくてごめんなさい。」


 申し訳なさげに言う太宰に、谷崎は励ましの言葉をかけた。


「そんなことないよ、すごく上手にまとめられてたじゃん! 中原もそう思うよね?」


 谷崎に同意を求められ、「まぁな……、俺ほどじゃないけど」と中原は少し決まり悪そうに返した。


「いや、中原よりもよく書けてただろ。」


 芥川の言葉に、「何をっ!」と中原は憤ったが、また川端先輩を怒らせる事に懲りて掴みかかってはこなかった。


 他の部員たちも、思いの外太宰がよく書けることに驚いていた。


「ふむ――、なかなかの文才を感じる。」と、森部長はとても感心した表情で言い、川端先輩も「よく書けていたわね。お疲れさま。」と労いの言葉をかけた。


「今回は自己紹介を兼ねたリレー小説家だから、批評はなしにしよう。川端副部長、このリレー小説は、顧問の夏目先生にお渡しして批評をお願いしておいてくれ。」


 森部長はそう言って、みんなで書き上げたリレー小説を川端副部長に手渡した。


「っげ……、夏目先生……。まじっすか。」


 夏目先生という言葉に、中原は額に嫌な汗を浮かべていった。


「夏目先生?」


 太宰の頭に浮かんだ、誰だそれはという疑問に、芥川は答える。


「うちの顧問で、現代文の先生だよ。英語もできるし、プロの小説家としても有名なんだ。普段は仙人みたいな人だけど、批評は結構辛口だからね。でも的確なアドバイスをくれるし、本当にすごい人なんだよ。暇なとき、鼻毛抜いて紙に並べるとか変な癖はあるけど、それでもまさに文豪と呼ぶに相応しい人だ。。」

(※夏目漱石は、暇なとき自分の鼻毛を抜いて紙に並べる癖があった。夏目門下の內田 百閒は鼻毛置きの紙を持っていた。)


 芥川はやや興奮気味に、夏目先生とは何たるかを雄弁に語った。


「はぁ……、そうなんですね。」


 熱をもって語る芥川に、太宰はやや驚いていた。


「芥川くんは夏目先生に師事してるのよ。」と、川端副部長は困惑気味な表情の太宰に教えてやった。(※芥川龍之介は、夏目漱石の門下であった。)


「あっ、なるほど。そうなんですね。」


「夏目先生はあんまり部活に顔は出さないけど、これからまた会う機会もあるわよ。」


「はい、わかりました。」


 金色の優しい西日が部室に注ぎ込んでいる。芥川がふと時刻を見ると、そろそろ下校時刻に差し掛かっていた。


「本日の活動は、以上で終了しよう。起立――礼。」


「「ありがとうございました。」」


 森部長の号令で終礼をし、新入生の太宰を迎えた初の部活はお開きとなった。

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