第一章 この故に我々は戦う②
当然と言えば当然だと彼は思った。あの訓練所でレンの行った悪行は屑そのものだったからだ。レンを心配して声を掛けてくれたホヅキを何度も殴ったし、女の子たちもたくさんケガさせたし、恥もかかせた。
あそこで俺は悪者扱いだった。いや、俺は悪者だ。薄汚れた汚い餓鬼が、俺だ。
しかしそれでもあいつらはかなり優しかったと思う。どうしようもなかった俺の事を迫害するでもなく、我慢していてくれたのだから。それにあの長官も、レンに手切れ金とでもいうかのように持たせる義理もないお金を少々ともう使うことはないであろう徒桜隊のハチマキ、そして古びた刀を握らせていた。その好意にレンは一度たりとも答えることなく、何もかもを放り出してしまった。
「どこに行っても、俺の居場所なんてどこにもなかった。人里に降りようと、あそこに残ろうと、俺は……」
地元を出たあの時も雪模様だったとレンは白い息を吐きながら思った。もしかしたら俺がこの世で一番不幸なのかもしれないとも、思った。そう思うと、レンは何をしてもいい気になっていた。幸いにもお金を少々と古いが真剣を貰えた。働くもよし、略奪するもよし、レンには選択肢がまだ辛うじて残っていた。
「……仕事、探さないとな」
他人から奪うという選択肢を選びかけたレンは思いとどまり、食っていけるだけのお金を稼げる仕事を探すことにした。ろくでなしでも、外道との境目くらい分かる。それくらいはせめて守りたかった。
薄汚れた身なりの少年はトボトボと街を進んでいく。
待ちゆく人たちはレンの姿を見るなり顔をしかめて避ける様に道を開けて行った。それほどまでに酷い形をしているのだろう。不自然に黒い髪の毛、煤で汚れた不潔な肌、煉獄のように酷く真っ赤な瞳。世界で一番醜いその姿はまさしく餓鬼そのものに見えるのかもしれない。
そしてその酷く醜い餓鬼は呆然と歩きながら、なけなしのお金で握り飯を買い、また当てもなく彷徨い歩きはじめた。
そんな時だった。レンはふと意識を路地の方に魅かれた。その理由は定かではないが、彼はまるで導かれるかのようにそちらのほうに歩き始めた。
……そして彼は、この世で一番惨めだったはずの彼は、目の前で息も絶え絶えになっている薄汚れた子供の足元に立つのだった……。