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9.旅立ち

私がナガレに会ったのは父さんに狩人として認められた初めての狩りの時だった。

大嵐鷲を打ち落としたらナガレも一緒に落ちていたんだ。あれには驚いたわね。

人が大嵐鷲に運ばれて落ちてきたのにも驚いたけどあの高さから落ちたのに無傷なのにも驚いたわ。

一緒に落ちてきた大嵐鷲は大きな羽がポッキリと折れていたにも関わらず無傷なのよ。

森の中に放置しておくわけにいかないので気を失ったままのナガレを台車に乗せて家まで連れて帰ったわ。

目を覚ましたナガレを見てその強者たる気配が体を突き抜けたときに私はもうナガレに魅せられていたの。

村のどの男を見た時も感じなかった胸の高鳴りを初めて感じたの。

いえナガレと比べたら他の男が可哀想ね。

だってナガレの強さは今まで私が思っていたものとは全く別次元のものだもの。

私の知っている強さとは荒々しく全てを押さえつけそして破壊する力だったわ。

でもナガレの強さは違う。静かに包み込み守るような、そう伝説に謡われる世界樹を思わせるような強さよ。

問題になるのは村の男ではなく村の女達のほうなのよ。ナガレを見たら絶対みんな惚れるわ。これは揺るぎない事実よ。

今まで誰にも魅せられたことない私を一目で虜にするような男よ。ほかの娘が惚れない理由はないわ。

ナガレを他の娘から守るために出来るだけナガレにスキンシップして私の匂いを付けておいたわ。

さり気なく手で触れたり胸を押し付けたりして匂いをつけたのだけれどナガレってその度に顔を赤くして恥ずかしがっていたのよ。人族の男ってみんな初心なのかしら?でもそのくせ私の胸をお尻をチラチラ見てくるのよね。気付かれてないと本当に思ってるのかしら。

ただ気を失っているときに私の匂いを付けてなかったのは失敗だったわ。ナガレが目覚めるまで魅力に気が付けなかったのが悪いんだけどね。


俺が娘のアンリが森で男を拾ってきた男ナガレを見たときの感想はコイツはヤバいだ。

かつて冒険者として活動してきたときに様々な強者を見てきてそれなりに相手の強さを見る感覚を養ってきたつもりだったがナガレの強さがどのくらいなのかサッパリ分からなかった。分かるのはただ強いということだけ。

俺は強さを感じると同時に鋭さや硬さ、速さや荒々しさ等を感じるのだがナガレから感じるのはただ強さだけだ。いやあえて言うのなら凪のような静かさを感じた。

今までにない感覚に恐怖し俺は何時でも動けるように臨戦態勢でナガレと対峙しているのにそれに対してアイツは何事もないかのように自然体で俺の前にいるんだ。

そして、クク。今思い出しても笑えるぜ。こっちは戦々恐々としていたのにいきなり謝り始めてアンリには手を出しませんって言うんだぜ。しかし、その後は全く笑えない。その言葉を聞いたアンリの顔が怒りと悲しみと困惑と覚悟が入り混じったような親の俺でも初めて見る顔だったんだ。

これは不味いと思った。確かにナガレは強者であることは間違いない。アンリが惹かれるのも分かる。しかし、コレだけの強者が空から落ちてきたんだ、絶対に厄介ごとを抱えているに違いない。俺はナガレに特大の釘を指しておいた。


ナガレがナン村を旅立った夕刻。

「アンリ、良かったのか。」

ガロは箸を止めて向かいで夕食を食べている娘のアンリに話しかけた。

「何がよ。」

アンリもガロの問いかけは分かっているのだがあえて聞き返す。

「ナガレのことだ。付いて行かなくて良かったのか。惚れていたのだろう。」

「フン、父さんはナガレと番になるのは反対だったんじゃないの。」

アンリは何を言ったのかまでは分からないがナガレにガロが釘を刺していたのは分かっていた。

「あのときはまだナガレのことが良く分かってなかったからお前のことが心配だっただけだ。」

「何が心配なの、ナガレのあの世界樹のような力強く心地良い気配が分かれば十分じゃない。」

その言葉を聞いてガロは驚いた。

「お前アレをそんな風に感じていたのか。」

「アレ。」

ガロのアレ呼ばわりを看過できなかったアンリの声に怒りが滲む。

「すまん。だがあの静かだが底知れない強さを感じてお前がそんな風に感じていたのか。俺は未知の強さに恐怖してたのにな。」

「あの静かに包み込むような強さに恐怖なんか覚えるわけないわ。」

ガロにはアンリの感覚は分からないがアンリがナガレのことを全く諦めていないことは良く分かった。

「諦めたわけじゃないならなおさら何で付いて行かないかったんだ?ナガレなら拒否しなかっただろう。」

獣人は諦めが悪いが諦めたらスパっと諦めて何時までも引きずらないのだ。

それなのに諦めていないアンリがナガレを追わずにここにいる理由がガロには分からない。

「今の私じゃナガレの足手まといにしかならないから。」

「それはアイツがシンシだからか。そんなこと言ったらこの世界の誰でも足手まといだろ。」

ガロは盗賊に村が襲われたときのことを思い出す。

アンリを人質に捕られ、例え自分の命を差し出しても助けることはできないことは分かっていたが命さえあれば必ずチャンスがあるはずだ。そしてチャンスが与えられる可能性があるのならば自分の命など惜しくもないと思い死を受け入れた。

だがそのとき強大な怒りと慈しみを持つ光が村中を覆ったのだ。

光が晴れると盗賊に傷付けられた足は元通りになるだけでなく悪くなっていた腰も治っていた。他に村の連中も傷が治り、盗賊の襲撃によるショックさえも治っていた。

それに対して村を襲った盗賊は全員心臓が止まって死んでいた。全く外傷も無くだ。

それだけのことをやってのけたナガレも無事では済まず三日間死んだように眠っていた。

その間にアンリがナガレに匂いをつけていたがガロはもう何も言わないことにしていた。

ナガレが厄介ごとを抱えていたとしてもあれだけの力があればアンリを守りながら全てを跳ね除けてくれると考えたからだ。

「ナガレはシンシじゃないぞ。ナガレ自身が否定したんだ。そしてそれを抜きにしても今の私ではナガレの足手まといでしかないんだ。私はナガレのお荷物になりたいんじゃない。パートナーとしてナガレの番になりたいんだ。」

確かにナガレは自分はシンシではないと否定してたがどう考えてもシンシだろうとガロは思うがそれは口にしない。今ナガレがシンシかシンシでないかは問題ではないから。

ナガレがシンシだと思っているのはガロだけでなく村の神主も含めて村の全員だ。

アンリもそのことは分かっているがそれは認められない。認めてしまえばナガレが自分の手の届かないところへ行ってしまう気がしたからだ。

そんな風に思うアンリがナガレについて行かなかった理由はなんだろうか。

「私、修行の旅に出る。だから父さん狩人に復帰して。お願い。」

ガロは狩人に復帰するのはかまわない。

ナガレの《神威》の副次効果で身体の不調がなくなったガロなら問題なく狩人の仕事ができる。

アンリが修行の旅に出るのも構わない。ガロもかつて武者修行と称して冒険者活動をしていた。

その経験が狩人としても役に立っている。だからアンリにとってもプラスになるだろう。

「フム、ナガレのお陰で体調も万全だからワシが狩人に復帰するのは問題ない。だが修行と言うが何処に行くつもりなんだ。生半可な修行ではナガレに並び立つほど強くはなれんぞ。」

「・・・・。」

アンリもガロに言われなくても分かっているが良い考えがまだなく答えられない。

しかしこの村から出たことがないアンリには何処へ行けばナガレに追いつくほどの修行ができるのか分からないのは当たり前だ。だから村を出てから大きな街で情報を得ようと考えていた。

「迷宮都市ダロンに行け。」

迷宮都市ダロン、ランブルク王国北方にある3つのダンジョンを管理している都市である。

ダンジョンの秘宝を求める冒険者とダンジョンから持ち出される貴重なアイテムを求める商人が集まる都市でもある。

「迷宮都市ダロン?」

アンリはガロの意図が読めない。迷宮都市ダロンは有名ではあるが他の迷宮都市に比べ修行と言う意味では見劣りするからだ。

「そうだ。そこにある獣王の迷宮を攻略しろ。」

「そこに何があるの?」

「かつてシンシと共に邪神を封印した獣人の勇者はそこで勇者としての力を手に入れたのだ。シンシのナガレの番になりたいのなら勇者くらいにはならんとダメだろ。」

「ナガレはシンシじゃないけど、ナガレと番になるには確かに勇者くらいにはならないとダメね。」

話は終わったと再びガロは箸を動かし始めた。


翌日アンリは迷宮都市ダロンを目指して旅立った。

余談だがアンリが旅立つときに村の男の群れが襲い掛かり全員返り討ちに合っていた。

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