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7.狩りの終わりと初めて

「ガロ、これは食べれる木の実?」

ナガレは一トン以上に重量が増えた拡張バックを片手で肩に背負いながらリンゴのように真っ赤な木の実をガロに見せている。

拡張バックは確実に重くなっているはずなのだがナガレはちょっと重くなったかもくらいにしか思っていない。これはレベルアップでナガレの力が増えていることに加えて正しい知識を持っていないために拡張バックに荷物を入れても重量は増えないというナガレの思い込みが大きな要因だ。

「そんな真っ赤な血みたいな木の実をよく食べようと思うな。頼むからワシやアンリには食べさせるなよ。」

ガロは眉を寄せてナガレがアンリのお尻を凝視した時にも見せなかったしかめっ面をみせる。

リンゴが好きだったナガレは日本にいるころは毎年祖母から送られてくるリンゴを楽しみしてたのを思い出ししていた。

そんなリンゴ好きのナガレにはリンゴそっくりの果実に嫌そうな表情をするガロが信じられない。

「こんなに美味しそうなのにこの果実は不味いの?」

「不味い?それだけなら良いが食べたら全身から血が噴き出して死ぬぞ。この辺りの生き物は食べないからそこら中にその赤い実がなっているほどだぞ。」

美味しい美味しくない問題ではなく生きるか死ぬかの問題だっだ。

リンゴにそっくりの美味しそうな果物だと思ったら人を殺す毒の実だったのだからナガレが手に持っていた赤い実を慌てて投げ捨てるのも当然だ。

「ナガレ、ワシが確認するか頼んだものだけを採取すんだぞ。ワシはまだ死にたくない。」

「・・・はい。」

そういうガロが手に毒々しい紫色のキノコを持っていることにナガレは困惑してしまう。

「ガロ、まさかそのキノコを食べるのか?」

「まぁ、食べることも出来るが普通は薬の材料として使うキノコだな。」

「それじゃ、そっちの茶色いキノコは食べれるの?」

ガロが採取した紫キノコの隣に生えている椎茸に似たキノコをナガレは指さす。

「ナガレぇ、お前はそんなに毒が好きなのか?こんなキノコを食べたら三日三晩寝込むぞ。」

まさか紫色のキノコがOKで茶色のキノコがNGだとはナガレだけでなく日本人なら誰でも驚くだろう。

日本でも素人がキノコの採取をしてはダメと聞くがそれはこの世界のキノコでも同じであった。

「キノコをナガレに採取させるのは危険だな。ナガレはこの木になっている実を集めてくれ。」

ナガレにキノコを採取させたら命がいくつあっても足りないと思ったガロは一つの木を指定して採取させることにした。

同じ木から採取させれば問題ないだろうとガロは考えたのだ。

ガロが指示した木には形がサクランボに似た黄色の実がなっていた。

紫色のキノコが頭にあったナガレは見慣れた色彩に安心した。

「この果物って食べても大丈夫ですか?」

「は!・・・まぁ、好みは分かれるが大丈夫じゃぞ。」

ガロが一瞬驚いたことが気になったが大丈夫だと言うのでナガレは黄色いサクランボに似た木の実を口に放り込んだ。

「!!!!!カッラァァー!」

果物だと思って食べた木の実は唐辛子のように辛かった。

決して激辛好きではないナガレにとっては叫ばずにはいられない辛さだった。

ナガレは口を開けて少しでも痛辛さを治めるために何度も空気を出し入れしている。

「ホレ、水だ。ゆっくり飲め。」

「(ゴクゴクゴク)ゲホゲホ。ッハァハァ、ありがとう。」

「ゆっくり飲めと言ったろうがぁ。こんな黄色い木の実を食べれるか聞くからてっきり激辛好きなのじゃと思ったわ。」

このとき今後絶対赤と黄色の木の実は食べないとナガレは心に刻み込んだのだ。

激辛の木の実は唐辛子のように普通は調味料として使うが一部の人がそのまま食べることがある。

激辛好きはこの世界にもいるようだ。


ナガレが激辛の木の実を食べて口がヒリヒリする以外は問題なく森の探索は進んだ。

「少し遅くなったな。アンリはもう村に戻ってるだろうな。ナガレもアンリに早く会いたいだろうし少しペースを上げるか?」

ナガレはその体格からも分かるように日本にいたころは運動が得意ではなかった。

それが身体能力が上がったお蔭でいろんな動きが苦も無く出来たから森の探索には心躍らされた。今も息を切らせることなく寧ろもっと体を動かしたいと思っている。

「アンリを待たせるのも悪いので急ぎましょう。」

アンリに早く会いたい気持ちもあったが気恥ずかしいためにナガレはその発言には答えなかった。

移動速度を上げたガロを追いかけてナガレも遅れないように速度を上げた。


もうすぐナン村に着くというところで急にガロが急に足を止めた。

「どうかしたのか?」

只ならぬガロの雰囲気を感じとったナガレは押し殺した声で話しかける。

「村の様子がおかしい。炊事の煙が上がっておらん上にワシの知らん気配が複数ある。村の外周を回って様子を確認するぞ。」

ナガレはガロの言葉を聞いて初めて村に何かが起こっていると理解した。

ガロの言葉にナガレは声を出さずに頷いて答えた。

《無音歩行》を覚えたナガレは足音を一切立てることなくガロについてゆく。

ガロは狩人であることに加えて冒険者時代に斥候を務めていたこともあり隠密行動に長けている。

隠密行動に長けていないナガレを置いていくという選択肢もあったが一人にすると不測の事態が起きたときに対処できないと考えたガロはナガレを連れて行くことにしたのだ。

ナガレが間違いなく強者であることを考えれば足手まといどころか逆に戦力となる。その上今回の探索で≪無音歩行≫ができるようになっているので最低限の隠密行動ができる。この二点が連れていく決めてとなった。

木々の隙間から村の様子を覗えるところまで近づくとと聞いたことない男の声が聞こえてきた。


「獣人の村って聞いていたからどれだけ強いヤツがいるのかと思ったけど呆気なく終わったなぁ。」

背の低い男が気だるそうに槍で草むらを突きながら隣の男に話かけている。

「何言ってんだ。昨日までビビッて震えてたじゃねぇか。」

ヒゲ面の男は昨日の様子を思い出して笑いながら言う。

「なぁっ!ビビッてねぇし。あれは~そう武者震いだ。ちょっと気合入れ過ぎてただけだ。」

背の低い男は今回が初仕事であったために昨日の晩はビビってなかなか寝付けなかったのだ。

図星をつかれたので語気を強めて反論する。

「武者震いが出るほどの気合があるなら次は一番槍任せられるな。」

今回の仕事で背の低い男は後方で待機する予備戦力であり、ヒゲ面の男は真っ先に相手に襲い掛かる一番槍だった。

「い、いやぁ~、それはちょっと・・・。」

背の低い男は勢いで強気なことを言ったが実際に一番槍をやる事はさすがに尻込みしている。

「オイオイ、そんなんじゃ何時まで経っても戦利品のおこぼれに与れないぜ。」

「戦利品のおこぼれかぁ~。あの豹獣人は好い女だったよなぁ~。」

戦利品と聞いて背の低い男は先ほどお頭が叩きのめしていた獣人を思い出す。

「ありゃ~ダメだぞ。アレは完全に納品対象だ、戦利品じゃないぜ。命が惜しかったら絶対に手ぇ出すなよ。」

ヒゲ面は惚けている背の低い男に先ほどまでのニヤニヤ顔を止めて真顔で忠告する。

「ああ~、やっぱあんな良い女はお頭のものになるんだよなぁ~。」

「お頭のもんにはならねぇよ。お前はここに来たばかりだから知らないだろうがお頭も含めて俺達には絶対に逆らえない納品先ってのがあるんだ。だから納品物は完全な状態で届けないといけない。もし傷でもつけてみろ死にたくなるほど酷い目に合わせられるぞ。だから絶対に手を出すなよ。」

いつもニヤニヤしているヒゲ面のあまりに真剣な表情に背の低い男は背中に悪寒が走る。

ビビりである彼にはヒゲ面の表情をみてマジな話と分かったのだ。

「因みに死にたいほど酷い目ってどんな目に合うんだ。」

背の低い男は怖いもの見たさでビビリながらも詳細を知りたがる。

「聞いても後悔するなよ。お前は魔術の生態実験って知ってるか?」

「アレだろ。ネズミや鳥に未知の魔術や魔法、適当に作った魔術を試したりするってヤツだろ。この前会った気味の悪い笑い声をするヤツが人に試すって俺らのところから奴隷を買っていったな。俺は絶対奴隷にはならないってあの時思ったな。」

背の低い男はそのときのことを思い出して気分が悪くなる。

「それをな10倍酷くしたような目に合う。」

「ハァ?10倍ぃ?」

背の低い男はあまりの数字に想像できないで困惑している。

「あんまり思い出したくないから軽く説明すると腕が3本になったり目が三つになったり心臓が外に出されたまま生かされたりする。」

背の低い男は全身から血の気が引いていくのが分かった。

「納品物は丁寧に扱います。」

「ああ、そうしてくれ。連帯責任にされたくないからな。」

背の低い男は何とかこの盗賊団から抜けられないか考えるがそんなことは不可能なことにすぐ思い至る。


ナガレには男達が何を話しているのか分からないがガロの耳が動いているところをみるとガロには聞こえているのだろう。

「盗賊で間違いない。」

ガロの悪い予感は当たってしまったようだ。ガロが感じた違和感の正体は盗賊だったのだ。

「え!ど、どうしよ。どうしたら良い。」

大量のレベルアップにより身体能力があがったナガレだが元は日本で暮らしていた平凡な一般人だ。警察でも自衛隊でもなければこんな状況の経験はないだろう。

「時間をかければ盗賊にとって必要ない村人が殺されるかもしれん。敵戦力を削りつつ少しでも情報を集めるぞ。」

現代の人質事件や誘拐事件であれば犯人はそんな簡単に人質を殺したりしない。

交渉から始まるので人質が無事な間は警察も簡単には手を出してこないことを犯人側は分かっているからだ。

だがこの世界の盗賊は違う。基本盗賊は見つけ次第殺されるから他の村人への見せしめも含め足でまといにしかならない不要な村人を殺すことに躊躇しないのだ。

「俺がヒゲ面のヤツを殺る。ナガレは背の低いヤツを・・・拘束しろ。出来るか。」

ナガレの実力を考えれば容易く殺れるだろう。しかし殺しをやったことないことをガロは分かっている。

だから殺せとは言わなかった。

「分かった。」

ガロに盗賊の相手をしろと言われたナガレだがなぜか不安もなく出来ると思った。

日本にいた頃は金髪でピアスをしているだけでヤクザでもハングレでもない人と目を合わせられないような性格だったのに、どうみても堅気の人間に見えない盗賊を取り押さえろと言われて素直に頷けるとは思えない。

実際、ナガレ本人も自分の変化に驚いている。

原因はこれもレベルアップだ。レベル1000越えとレベル10前後の人間だ。

蟻と像くらいに戦闘能力の差があるのだ。ナガレは相手の実力を推し量る能力を持ってないがそれだけ差があれば相手が圧倒的に弱いことを肌で感じることができたので自然と本能が結論を導き出したのだ。

「タイミングは俺が合わせる。ナガレは自分のタイミングで仕掛けろ。」

ガロの言葉に頷いて答える。

ナガレは今だに気配を消すことはできていないがガロを観察することで気配を少しだけ小さくできるようになっていた。

背の低い盗賊に気付かれないよう《無音歩行》で音を立てずに背後へ忍び寄る。

左手で後ろから口を塞ぎ暴れないように右手で相手を抱えるとそのまま持ち上げた。

背の低い男は呼吸もできないほど強く口を塞がれていて声すら出せない。

暴れようにも万力で締め上げるかのように両腕が押えられているのでどうすることもできない。

そうこうする内に肺の中の空気が完全になくなり気を失った。


「ナガレ、もう良い離してやれ。」

ナガレが盗賊を必死で押さえ込んでいるとガロに肩を叩かれた。

初めてのことで必死になってしまったナガレは拘束した盗賊が動かなくなっていることにも気づいていなかった

「ゴメン、周りが見えてなかった。」

「気にするな。荒事に慣れてないのは分かっている。」

「コイツも殺すべきか。」

意識を取り戻して騒がれたら自分達を含めて村人全員が危険に晒されることを考えてナガレは始末すべきかとガロに尋ねる。

「何言っている。そいつはすでに死んでいるぞ。」

ガロに言われて盗賊の様子を確認すると確かに白目を剥いて呼吸も止まっていた。

力強く拘束したせいで肺の空気が押し出された上に口を密閉されていたので窒息死してしまっていた。

ナガレは人を殺したのだがさして動揺していない。やっちまったなくらいにしか思わない自分にただ驚いただけだ。

ただ良く考えてみると日本にいた頃人を殺さなかったのは殺す必要がなかったからだし、殺してしまったこときのメリットとデメリットを天秤にかけてデメリットに傾いただけだ。

治安機構が整っている日本と違いここでは自分と大事な人を守るためには自力で何とかしないといけない。そして盗賊を殺すメリットとデメリットを天秤にかけるとメリットに傾く上に盗賊を殺すことをこの国の法は認めている。

ナガレが動揺しないのはナガレが異常者だからではない。現状を理解し自分が何をすべきかが分かるだけだ。

筆者はのやる気は評価ポイントで変化します。

もし少しでもこの話興味を持っていただけたら最新話を下にスクロールして評価をしてください。

もちろんブックマークも待っています。

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