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6.獣人族の性事情とスキル

ナガレがアンリに助けられた(正確には拾われた)翌朝。

ナガレはガロとアンリに連れられて森への入り口へとやってきていた。

森への道の途中でナン村の住人に挨拶をした。この村で信頼されているガロとアンリが紹介してくれたおかげで他所者のナガレも受け入れてもらえていた。

「ナガレは何か狩りに役立つスキルを持っているのか?」

この世界にはスキルに魔法そしてステータスがあるのだ。

ナガレもスキルは分かる。

もう効果は無くなっているがこの世界に来るときに押し付けられた《無敵》もスキルの一つだ。

自分の意思で使えなかったがその効果は十分に体感している。邪神を倒すようなスキルはそうそうないだろうが有用なスキルは数多あることは理解している。

魔法は使えないけれども邪神が魔法を使い黒い雷を生み出すのを見ている。

ただステータスに関してはサッパリ分からなかった。

昨夜寝る前にもしかしてステータスが存在するのではといろいろなキーワードを言ってみたが、ただの徒労に終わっていた。

ナガレは自分のステータスを見れないが、ガロとアンリの言動から推測してステータスを見れば自分のレベル、身体能力値、使用可能なスキルが分かることを理解する。

ガロもアンリもステータスが見れることが当たり前のように話すのでどうやったらステータスを見れるようになるのか聞くのが戸惑われる。

これは恐らく知識がないこととは違い、この世界の人と異世界から来たナガレの決定的な違いだ。

人は区別し、そして差別する生き物だ。

肌の色や話す言葉、信じる神が違うだけ、いや信じる神が同じであっても差別し最終的に戦争までする生き物なのだ。

この世界では当たり前に見れるステータスを見れないことが異端として処分される可能性は十分考えられる。

ステータスを見れないことがバレないように立ち回ることをナガレは決めた。

冒険者ギルドに所属してレベルとスキル名が表示できるカードを手に入れれることが出来ればステータスをある程度把握できるのでナガレはそれで代用するつもりだ。。

「ゴメン、狩りに役立つスキルはない。」

「それならナガレはワシと一緒に来い。今日は荷物持ちだな。」

「それじゃ、私は別行動だね。ナガレ初めての狩りで不安だろうけど、一流の狩人である父さんの指示に従っていれば大丈夫だから頑張って。」

アンリはそう言うと森の中へと姿を消した。


アンリの言葉を聞きながらガロは思う。

あり得ないことだがアンリはナガレの力を本当に分かっていないのかガロは疑問に思ってしまう。

そんなあり得ない不安をガロが覚えるのはアンリがあまりに自然にナガレと接しているためだ。

ガロはここの生き物すべてが束になって挑んでもナガレに勝つことはできないと考えている。

それなのにナガレの表情は本当にこの深い森に恐怖を感じているように見えることがガロに困惑を覚えさせていた。

そしてアンリの言葉にナガレは安堵の表情を見せたのも事実だ。

冒険者として鍛えた強者を見分ける感覚に自信があったガロだがナガレが本当に強いのか分からなくなっていた。

強いのか弱いのか分からない敵がいたら不安でたまらないのだがナガレは味方であるのでガロは気にしていなかった。

ナガレが強かろうが弱かろうが一度信用したら最後まで信じるのがガロという男だ。


「オイ、何時まで人の娘の尻を追いかけている。」

森の中へ足取り軽く進むアンリの後ろ姿という名のお尻をナガレの視線は自然と追いかけていた。

「ち、違います。」

ナガレは自分の行動の迂闊さを呪う。

魅力的である上に自分を邪険にしない稀有な女性であるアンリに自然とナガレは惹かれていたのだ。

今もガロもいるのに自然と視線がアンリが消えたほうへと向いていた。

視線がアンリを追って入れば最終的には後ろ姿を追うことになる。

そしてナガレは男だ。魅力的なお尻に視線が移るのは自然の摂理である。

お尻の持ち主の父親は目の前のガロなのだ。

父親にとって娘の尻を追いかける男は敵だとナガレは理解している。

でもナガレはここでガロと敵対するわけにはいかない。

ナガレはガロの怒りを治める必要に迫られているのに良い方法が思いつかないで焦っている。

「何だナガレ。童貞じゃあるまいし、いい年した男が何を恥ずかしがっているんだ。」

ガロは目の前に娘の尻を追いかける男がいるとは思えないような言葉を発した。

「え?それが娘の尻を追いかる男に言う父親の言葉ですか。」

あんまりなガロの言葉にナガレは思わず非難の言葉をガロにぶつけてしまった。

「なんで俺がナガレに非難されなきゃならんのだ。普通は逆だろが。」

日本の父親が持つ娘を目に入れても痛くないという感覚がこの世界にはないのかとナガレは思ったがそんなことはない。

ガロの感性や考え方が、いや獣人の感性や考え方が日本の父親と違うだけだ。

「だってガロが娘のお尻を男に見られているのに他人事のように話すから、父親ってそういうとき男に怒りの感情をぶつけるものだろ?」

「ああ、人族の父親ってのはそういうものらしいな。獣人族は何と言うかもう少し本能を大事にしているんだ。アンリの尻を見てるってことはナガレにとってそれだけアンリが魅力的だってだけだろ。そんな怒るようなことじゃない。自然な感情が行動に表れただけだ。それにアンリだって嫌だったらそれなりの対応をしている。アンリが何も言わないのに俺が何か言うのも変だろ。」

人族が異性に容姿の他に権力や経済力を求めるのに対して獣人族は異性に容姿の他に武力を求めている。

そして人族より性的な感情や行動に対して寛容である。

獣人族が相手だったからナガレの行動は問題にならなかったのだ。

ただここでナガレは重要なことに気がついた。

「もしかしてアンリは俺の視線に気が付いてる?」

ガロはアンリが嫌だったら対応すると言っている

つまりアンリはナガレの視線に気が付いているということだ。

ナガレは一縷の希望を胸にガロに尋ねる。

「オイオイ、仮にも狩人の娘だぜ。森の中では視界以外のすべての感覚を研ぎ澄ませて生き物の気配を探るんだお前の露骨な視線なんて気づいているに決まっているだろ。ついでに教えておくとチラチラ胸を見てたのも分かってるはずだぞ。」

ナガレはガロの怒りを買わずに済んだと安堵していたのに安堵している場合でない事実を告げられた。アンリには全てバレていたのだ。

穴があったら入りたいと言う気持ちをこのときナガレは初めて理解した。

ナガレはカァっと顔が熱くなるのを否が応にも感じる。

こんな顔を人に見られたくないナガレは手のひらで顔を叩いて誤魔化そうとしている。

「恋もしたこともないガキじゃあるめぇし、男が女みてぇに赤くしてんじゃねぇよ。」

「アンリに隠れて俺が胸やお尻を見てたのがバレてたんだよ。恥ずかしいに決まってるだろ。いったいどんな顔してこれからアンリと顔を合わせれば良いんだよ。」

圧倒的強者の気配を持つナガレがどうしてそんな小さなことを気にするのかガロには理解ができない。

強者の気配を持つナガレがアンリを気に入ったのなら堂々と迫れば良いと獣人の感性に従うガロは思う。

ナガレは自分が強者と気が付いていない、そして気が付いていたとしても獣人族でないナガレの反応は変わらないだろう。

「どんな顔って、アンリが何も言ってないんだから普通に会えば良いだろ。だが胸や尻を見ても怒らないからって不用意に触るなよ。手痛い反撃を食らうからな。村の連中は手を出して全員返り討ちにあったからな。」

アンリが村の男を全員を返り討ちにしたのは事実だ。付け加えるならアンリが誰にも好意を持っていないということだ。

「冗談言うなよ。アンリに命を助けてもらったのにアンリが殺すほど嫌なことをするわけないだろ。」

ガロは大声で笑いながら言うがナガレにそんな度胸があるわけない。

大嵐鷲を倒せるアンリの返り討ちなど怖くて想像も出来ないのだ。それが自分に降りかかると思うと冗談でもそんなことは考えられない。

ガロはそんなナガレの心情をほぼ正確に捉えてあえてこんな話をしたのだ。

いくら獣人族が人族に比べて性に解放的であってもさすがに会って間もない男からジロジロ胸や尻を見られたら良い気分はしない。相手が他種族の男なら尚更である。

それなのにアンリはナガレの視線に嫌悪感を示すどころか好感を持っていることが父親のガロには分かっている。

そしてガロの見立てではナガレはかなりの強者だ。アンリを組み伏せることなど簡単に出来るだろう。獣人にとって異性に組み伏せらることは重要な意味を持つ。

獣人の女性は男に武力、力を求めるのだ。自分を組み伏せられない男と番になることなどない。獣人にとって男が女を組み伏せるのが人族のプロポーズのようなものだ。しかもほぼ100%成功するプロポーズだ。

獣人族であるガロはもちろんアンリが男と付き合うのは自由だと思っている。

悪い男ではないことは自信をもって言えるがナガレはどういう過去を持っているのか分からない。ガロ達が知らない過去によってアンリが不幸になることを警戒しているのだ。

見知らぬ国から来た明らかな強者の過去が平穏なものと考えるほどガロは世の中を甘くみていない。

ガロは上手くナガレに釘をさせれて安堵した。

ガロの話を聞いて恐怖にかられたナガレがアンリの消えたほうに視線を向けてアンリがいないことを再度確認した。

「何時までも名残惜しそうに見ても狩りが終わるまでアンリは戻ってこないぞ。」

「違うわ!」

ナガレは大声で否定してガロの後を追って森の中に足を踏み入れる。


「ナガレ、こいつも拡張バックに入れておいてくれ。」

「おう。」

ガロが放り投げた白と黒の縞々模様を持つ鹿に似た生き物をナガレは軽々と受け取って拡張バックに入れる。

最初に罠にかかった獲物をガロが投げてきたときは驚いた。

予想だにしていないガロの行動に思わず両手で受け取ったが予期したような事態にはならなかった。

少なく見積もっても50キロはあるので確実に両腕を痛めてガロに迷惑をかけると思ったのだが何故か両腕に痛みが全くない上に重さもほとんど感じなかった。

不思議に思ったがライトノベルなどでよくある内容を思い出してみた。その結果、転生時にスキルの付与だけでなく身体能力も高められたのだとナガレは結論づける。

この事実はこれからこの世界で生きてゆくナガレにとっては非常に有り難いことである。

身体能力が高ければガロに聞いた冒険者で多少なりとも収入が見込めるからだ。

実際には転移時に身体能力が上がったのではなく邪神討伐時にレベルが上がったからだがステータスを見れないナガレがそのことに気が付くことはない。

ガロが何も言わずにナガレに投げ渡したのは自分が出来ることを強者であるナガレが出来ないと思っていなかったからだ。

ナガレが驚いた顔をしたときは慌てたが軽々と受け取っているのを見て安堵していた。

拡張バックとは見た目以上に物が入るバックだ。ただ重量は変わらず入れた分だけ重くなる。

大量に物が入るがその分重くなる代物だ。

重量が増えないのはマジックバックである。今はアンリが使っている。

因みに今ナガレが入れた獲物で5頭目である。

二頭目を入れるときにガロは止めようとしたがナガレの強さの一部でも分かればとそのまま入れさせた。

三頭目を入れて平然と担ぐナガレを見て驚き、四頭目を入れたときに気にしないことを決め、5頭目を入れたときに自分の強者を察知する感覚は間違っていないと確信した。

「ガロ、罠には獲物がかかっているのに何で生き物に会わないんだ。」

「そんなのお前が全く気配を消してないからだろ。」

「あ、ゴメン。」

「謝らんで良い。そんなことは森に入る前から分かっていたことだから気にするな。」

森に入る前に狩りに必要なスキルがないことは分かっていたのだ。

それなのに怒るような理不尽なガロではない。

二人がいる辺りは臆病な獣が多くナガレの気配を察知して逃げたのだ。

「ここまで順調だから少し狩人の技を教えてやろう。」

「え!良いの!」

この話にナガレは驚いた。こういう特殊な技術はおいそれと他人に教えるものではないと考えていたからだ。

「なんじゃ、嫌なのか?」

「嫌じゃ、ないです。ぜひお願いします!」

ここは邪神だけでなく魔物や盗賊が存在する危険が多い世界なのだ。

少しでも生きる術を身に着けるチャンスがあるのならば掴み取らなければ生きてはいけない。

「とは言っても基本的なことだけだがな。狩人の基本歩法≪忍び足≫を教えてやる。よく見て真似しろよ。」

これは見て覚えろと言うことだ。

ガロはナガレの見本になるようにゆっくりと歩く。

見ただけで出来るのかと不安に思っていたが人外のレベルに達しているナガレは不思議とガロの動きの詳細を見ただけで理解できた。

「こんな感じですか?」

「ほぼ完璧だな。見てすぐ出来るとはさすがに思わなかったぞ。まさかスキルの取得はしていないよな?」

―――スキル≪忍び足≫を獲得しました。 ―――

「ハハハハ、まさか。」

深い理由もなくナガレは否定してしまった。

「まぁ、その様子ならすぐスキルも覚えそうだな。アンリと同じくらい才能があるかもな。」

「ありがとうございます。」

「それだけ出来れば後は実践あるのみだ。そのままの足運びでついて来い。」

ナガレはガロについて残りの罠を見て回り合計10頭の獲物を≪忍び足≫を使いながら回収した。

―――スキル≪忍び足≫が≪無音歩行≫に変化しました。―――

「よし、回収は終わった。後は帰りながら薬草や山菜、木の実を採取するぞ。」

薬草の種類や食べれる山菜・木の実の知識は今後の役立つことが予想出来る。

ナガレは何一つ聞き逃さないようにガロの話に全神経を集中させた。

ガロは一トン以上の重量に膨れ上がった拡張袋を苦も無くもつナガレに驚き、ナガレもスキルを一瞬で覚えて上に変化したことに驚いたが無事にナン村への帰路につく。

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