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3.怪しい人=ラスボスです

ペタンコ少女が管理する世界。

世界と言ってもその大きさは地球の二倍ほどで世界の平均より少し大きいサイズである。

地球が存在していた世界ほど膨大な上に現在も広がり続けるような世界は数えるほどしか存在しない。

そんな膨大な世界は何十人ものペタンコ少女より優秀な管理者が協力して管理している。

一人で管理できるペタンコ少女の世界とは格が違うのだ格が。

そして今ペタンコ少女の世界の端の端に闇が出現した。

その闇は一瞬だけ世界に現れすぐに消滅した。

闇が消滅した後にはヤナギ・ナガレと言う名の男がいた。

ナガレは先ほどまで感じられなかった風や匂いを感じて顔を覆っていた両手を退け、周りの様子を確認する。

「さっきの闇だらけの場所からは出られたみたいだけど、ここもどこだか分からないな。」

そこは地面から紫色の霧が立ち上り、紫や黒い葉を持つ木や草が点々と生えている荒地であった。

気色の悪い配色に一瞬自分の目がおかしくなったのかと思ったが自身の手の色は変わっていないので目がおかしくはなったわけではないようだ。

日本の常識で考えれば間違いなく尋常な環境ではない。だがこの世界の情報を何一つ持ち合わせていないナガレには周りの環境が正常なのか異常なのか判断できる材料がない。

ただこの状態が異常であると判断して行動しておくべきなのは間違いないだろう。何かあってからでは遅いのだ。

例えナガレにできることが袖で鼻と口を覆うことくらいであったとしてもだ。

「おい、貴様。それはまさか我が臭いと言う意思表示ではあるまいな。」

ナガレは決して目の前にいた人物に気がついてなかったわけではない。

ただ黒尽くめの鎧とマントを身に着け、手に龍を模った杖を持った人物にどう話かけたら良いのか、コミュ力の低いナガレには分からなかっただけだ。

決して変な人に話しかけたくなかったわけではない。

しかし話かけられてしまった以上は無視するわけにはいかない。

それに情報を取得するためにもいつかは黒尽くめの怪しい人物に話かける必要があったのだ。

ただ早いか遅いかの違いだけだ。

「こんにちは。柳流といいます。ナガレと呼んでください。」

この世界でのコミュニケーションの仕方は分からないが恐らく初めは挨拶と名前を名乗るべきだろう。

地球では全世界共通だったはずだから間違いない。

「こちらの言葉を無視して話を始めるとは今度の使徒も無作法者だな。まぁ、良いわ。我は貴様らと違って無作法ではないので貴様の希望にそって名乗ろう。我が名は邪神ダークネルアビスカオスである。カオス様と呼ぶが良い。」

どうやら出だしから失敗したようだ。

ナガレは失敗を反省しつつも相手の言っている内容の理解に努めた。

まずナガレは使徒と言う言葉に心当たりはないので誰かと勘違いしているのだろうと考えた。

だがそれに以上に困ったのは目の前の人物が邪神と名乗ったことである。

その姿を見たときに予想した会話が成り立たないという最悪の事態は回避できたのだが自分のことを邪神と名乗るような人物とうまくコミュニケーションを取れる自信がナガレには全くない。

とりあえず最低限必要な情報だけでも手に入れようと邪神との会話にナガレは挑む。

「つかぬことをお伺いしますがここから一番近い集落はどこでしょうか。」

最低限の情報。それは水源位置でも食料の在りかでもこの世界の常識でもない。目の前の邪神以外の人がいる場所である。

この手の人物は何に反応して機嫌を損ねるか全く分からないから邪神の機嫌を損ねないように言葉遣いに細心の注意を配って尋ねている。

「邪神である我が人族の集落など知るものか。」

ほしい情報は全く手に入っていないが意外にも邪神はナガレの質問に答えてくれた。

しかし、この瞬間ナガレにはこれ以上邪神と会話を続ける理由が無くなった。

ここにいても有益な情報は得られないことがはっきりしたためナガレはこの場を離れるために歩き出す。

目的も何もなく行動するのは危険かもしれないが邪神の前にいるよりはマシである。

「管理者から送り込まれた使徒を我が見逃すと思っているのか。」

「俺は管理者って人の使徒ではないです。誰かと勘違いしてますよ。」

無視しても良かったのだが、何故か嫌な予感がするのでナガレは使徒であることをハッキリ否定した。

「何を言う我が復活した瞬間に現われたことと言い、その身にまとう神力と言い。誰が見てもお前は管理者の使徒であろう。我を謀ろうとしても無駄だ。我もただ封印されていたわけではないぞ。今までの我とは違うのだ。前回のように仲間を集められる前に勝負を決めてくれるわ。我が全力の一撃をくらえ。」

邪神はもう語ることなどないと龍を模した杖を構え神力を込め始める。

「だから違うって言っているだろう。」

「既に語るべきことは語った。問答無用。」

さして語ってないだろうとナガレは思っているが何を言っても残念ながら無駄だ。

邪神を中心に空気が渦巻き始め、地が揺れ始める。

そして終いには周囲の小石が重力に逆らって宙に浮き始めたのだ。

ここにいたって漸くナガレは目の前に人物が本当に邪神なのではないかと思い始めた。

そしてこのままここに居ては不味いことに思い至るのだ。

とにかく邪神からできるだけ離れなければならない。

ナガレは邪神に背を向けると全速力で逃げた。

「我は逃がさぬと言ったぞ。それに古今東西、邪神からは逃れられないのだぞ。そして今こそ積年の恨みを晴らしてくれる。喰らえ《邪神闇黒光覇》!」

邪神が神力を込めた杖をナガレに向けて突き出すと巨大な闇が現われ収束し黒い雷を放ちながらナガレに向かって襲い掛かかってくる。

どう見てもナガレの走る速さよりも邪神の放った黒い雷のほうが圧倒的に速い。

ナガレは死を覚悟した。

そしてナガレの頭に情報が流れた。

――――敵性体からの攻撃を感知しました≪無敵≫スキルを発動します――――


「やはり油断させるためのブラフだったか。しかし今更何をしようと遅い。既に我が神力全てをつぎ込んだ一撃は放たれた。神力がなくなればしばらく我自身が弱体化してしまうのだが使徒を仕留めれるのならば些細なことだ。」

邪神はこの瞬間勝利を確認していた。

なぜなら永き封印の間に過去の使徒達との戦闘経験を元に編み出した理論上、防御結界を貫き使徒を10回は倒せる威力の技が発動しているのだから。


目の前に邪神の放った黒い雷が迫ったときナガレは全てを諦めていた。

今まで喧嘩すらしたことがない男が死しか予感出来ない抗えない暴力に晒されたのだから仕方がないことだ。

ナガレが出来たことはただ少しでも恐怖から逃れるために両の目を固く閉ざすことだけだった。

だが幸運にもナガレの予想は裏切られた。

いつまで立っても衝撃に襲われなかったのだ。

恐る恐る片目を開けて見ると黒い雷を透明な壁が受け止めていた。

先程頭に流れた情報は押し付けられた≪無敵≫スキルが発動したことを知らせるものであるとナガレは思い至った。

「取りあえず命拾いしたみたいだ。ただ時間切れで≪無敵≫スキルが無くなるので結果は変わらない。どうしたものだろうか。」

――――現状の打開のために制限時間を代償にしてもよろしいですか?――――

「何だか分からんがこの状況から助かる可能性があるなら何でもやってくれ。」

ナガレは自分ではどうしようもできないので押し付けられた≪無敵≫スキルに全てを委ねることにする。

――――承認を確認。残り時間を代償に特殊能力≪無敵・倍返し?いや10倍返しだ≫を発動――――


「すでに使徒が消滅していないとおかしい。なぜ未だに《邪神闇黒光覇》が発動したままなのだ。」

今まで邪神が相手にしてきた攻撃特化の使徒であれば《邪神闇黒光覇》を受ければ一瞬で消滅していた。

しかし、邪神が知る由もないことだがナガレは防御特化カウンター型のスキルを持っている。その上スキルに制限時間をつけることでさらに性能を引き上げられているために邪神の《邪神闇黒光覇》を受けてもナガレは無事なのだ。

そして今≪無敵・倍返し?いや10倍返しだ≫によって10倍の威力になった《邪神闇黒光覇》が邪神に襲い掛かる。

使徒を消滅させるために放った《邪神闇黒光覇》が10倍の威力になって自分に襲い掛かってくると言う異常事態に邪神は何も出来ずに滅されたのだ。

10倍の威力になった《邪神闇黒光覇》は邪神を消滅させただけにとどまらず大地を引き裂き森を消滅させ山をも消し飛ばした。

そして進路上にいた全ての命を刈り取ったのだ。


ナガレはことの一部始終をただ茫然と眺めていた。

《邪神闇黒光覇》を跳ね返して邪神を倒したところまでは良かった。

自分の命を存えたことに喜ぶだけで良かったから。

ただその後のことは唯々唖然とするしたなかった。まさか森や山が無くなるとは思って見なかったのだ。

「これ絶対ヤバイよな。森や山が無くなったんだ。一体どれだけの連鎖被害が起こるだろうか想像できないし想像したくない。」

ナガレが思いつくだけでも天候の変化に生息生物の変化に生育植物の変化がある。

実際にはもっと多くの変化が起こるだろう。

ただ起こってしまったことはどうしようもない。ナガレに時間を戻す能力も環境を戻す力もないのだから。

「今の俺には出来るだけ被害が少なくて済むように祈ることだけだ。とても被害が少なくて済むとは思えないけど、ハァ。」

ナガレは自分が起こした被害を考えると頭が痛くなる。

被害の大きさに気分が落ち込んでいると再び情報が頭に送られてきた。


―――大量の経験値を確認しました。大量レベルアップによる衝撃に備えてください。―――


「へ?」

意味不明の情報が送られてナガレは困惑してしまう。

経験値やレベルアップの言葉の意味自体は分かるから良くはないけど良い。

でもレベルアップの衝撃とは何なのかナガレには分からない上に嫌な予感がする。

そしてどう備えれば良いのかも全く分からない。


―――レベルが2に上がりました。―――

―――レベルが3に上がりました。―――

―――レベルが4に上がりました。―――

―――レベルが5に上がりました。―――

―――レベルが6に上がりました。―――

―――レベルが7に上がりました。―――

―――レベルが8に上がりました。―――

―――レベルが9に上がりました。―――

―――レベルが10に上がりました。―――


「ガッ!」

大量の情報を受け取り、レベルが10に上がったという情報を受け取ったときナガレの身体に衝撃が走る。

全身の神経が同時に痛みの信号を発した。

ナガレはあまりの痛みに声を上げることも出来ずに気を失う。

脳が自己防衛の為にシャットアウトしたのだ。

―――レベルが999に上がりました。―――

―――レベルが1000に上がりました。―――

―――レベルが1001に上がりました。―――

―――邪神を単独で討伐しました。肉体への負荷を軽減するため称号≪邪神を独りで討伐せし者≫ スキル≪神格召喚≫の獲得を保留します。 ―――

―――神を単独で討伐しました。肉体への負荷を軽減するため称号≪神滅者≫ スキル≪神威≫の獲得を保留します。 ―――

―――邪神を討伐しました。肉体への負荷を軽減するため称号≪邪神討伐者≫ スキル≪破邪≫の獲得を保留します。 ―――

―――神を討伐しました。肉体への負荷を軽減するため称号≪神討伐者≫ スキル≪神聖魔法≫の獲得を保留します。 ―――

―――龍を単独で討伐しました。肉体への負荷を軽減するため称号≪龍滅者≫ スキル≪龍魔闘気≫の獲得を保留します。 ―――

本人が気を失った後にも延々と情報は送られ続けた。


ナガレと邪神が戦った場所は巨大な神力の気配により全ての生き物が逃げ出していた。

その結果ナガレは無防備に気を失ているにも関わらず身の危険にさらされることはなかった、今までは。

全ての生き物が逃げ出した空白地帯がいつまでもそのままなわけがない。

一匹の母大嵐鷲が飛んできた。

彼女は雛達のためにちょうど良い獲物を探しているのだ。

彼女が気を失ったナガレに目をつけるのは当然の帰結である。

探しに探してついに見つけた食料を両足でしっかりと掴み彼女は雛達の待つ巣へと一直線に飛び立ったのだ。

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