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16.邪気と破邪

「そろそろミスリル鉱脈探しを再開するか。≪土魔法:極≫スキルを取得したから、たぶん俺もゾルみたいに鉱脈を見つけられるはず。匂いは嗅がないけどな。」

匂いで金属を判別はゾルみたいな金属フェチだからできることでナガレにはできない。

変わりにナガレは高校化学で習った分子構造を使うことにする。原子では様々に化合物に対応できない、分子でも同位体に対応できないからだ。

魔法に大事なのはイメージであることは先ほど実証されたのでナガレの拙い知識でもイメージさえあればどうとでもなる。きっと≪土魔法:極≫がいい仕事をするはずだ。

ゾルに借りたミスリルの欠片を手に取り≪土魔法:極≫で分子構造っぽい物を把握。あくまでも分子構造っぽい物だ、それがほんとにミスリルの分子構造かは分からない。大事なのはイメージ。

「よし、≪鉱物探査≫」

地中にナガレの魔力が浸透してゆく。普通なら大量の成分情報に脳の処理が追いつかなくなるはずだがそこは≪土魔法:極≫が不要な情報をカットしてくれるので心配は不要だ。

「見つけた、見つけたけど何かちょっと違う気がする。まぁ、確かめて見れば分かるな。」

《土魔法:極》はイメージと魔力さえあれば星をも作りだせるポテンシャルを持っている。

地中にある鉱石を移動させるなんてのは簡単だ。

ナガレの足元から見つけたミスリル鉱石がある場所までの土を操作してミスリル鉱石を足元まで引き寄せる。

「もうちょい、もうちょい。思ったより大きいかも・・・、来た!」

(ボコ)

ナガレの足元が大きく盛り上がると鉱石が地面から顔を出した。

「ミスリル?じゃないよなこれは。」

ナガレの足元から出てきた鉱石は透明な紫色をしたガラスやクリスタルのようなものだった。

ゾルが見つけたミスリルの欠片は紫ではなく青色をしている。

鉱石の紫色が坑道内に染み出して空気を紫色に変えているように感じる。

「ミスリルではないが正直これが何なのか分からんな。ゾルに聞いてみるか。」


「お、もうミスリル鉱脈が見つかったか!」

「いやミスリルは見つかってない。ゾル、なんかスマン。」

ナガレの姿を見て嬉しそうな顔をしていたゾルの顔が一瞬で暗くなったのを見て申し訳ない気持ちになる。

「ただ紫色の鉱石を見つけたんだけど何か分かる?」

ライルとゾルの顔色がナガレの言葉を聞いてみるみる悪くなる。

「それってもしかしてミスリルみたいに透明じゃなかったか?」

「お、よく分かったな。ライルも鉱石に詳しいんだな。」

「このバカが!邪鉱石じゃねぇか!」

ライルが急に大声を上げたのでナガレは耳に手を当ててしかめっ面になる。

「急に大声出すなよ。耳がキーンってなるだろ。」

「大声出すに決まっているだろ!邪鉱石だぞ。世界禁止指定鉱物の!」

顔を真っ赤にしたライルの声が坑道内に鳴り響く。

「さっき、聞いたから知ってるよ。それに邪鉱石がある可能性は分かってただろ?ただミスリルより先に邪鉱石が見つかっただけだって。」

ナガレはライルを落ち着かせようと宥めているがことの重大性が全く分かってない

三度の飯より鉱石が好きなゾルもさすがに邪鉱石は対象ではないようで顔色は悪いままだ。

「そうだけど、まさかホントに邪鉱石が出てくるとは思わないだろ。一国も早く騎士団に連絡しないと!」

「どうやって連絡するんだ?俺達にできるのは管理人に教えることくらいだろ。」

「あっ!そ、そうだ騎士団じゃなくて管理人に言わないと。それより邪鉱石は剥き出しのままじゃないだろうな。」

なぜか慌てたライルは話の流れを変えるように邪鉱石について確認してきた。

「ん?掘り返したんだから剥き出しに決まっているだろ?何か不味いのか?」

「不味いに決まってるだろ。邪鉱石からでる邪気が魔物を呼び寄せる上に魔物の身体能力を強化するんだよ。効果があるか分からないけどすぐ土を被せに行くぞ。」

ライルは言い終わる前にナガレとゾルを置いて走り出した。

続けてゾルも走り出す。

ことの重大性を未だに認識できないナガレは出遅れてしまった。

「待てよ。二人共。」


「どうした?」

先に走り出したライルとゾルが坑道の途中で立ち止まっていた。

「ゴホ、ナガレか。ゴホ、思った以上に深刻な状態だ。邪鉱石から漏れ出した邪気が強すぎてこれ以上進めねぇ。」

「ゴホゴホ。」

ナガレはなんともないがライルとゾルは苦しそうに咳き込んでいる。

「二人とも、どうした。大丈夫か。」

「ゴホゴホ、大丈夫じゃねぇな。ゴホッ邪気が酷すぎて空気がすでに汚染されてるんだ。ゴホッゴホ、このままじゃ俺達三人ともお陀仏だぜ。」

「どうしたら良いんだよ。」

ナガレは不調を感じないので大丈夫だが二人はこのままでは本当に死んでしまうかもしれない。

まだ数日の付き合いだが気の良い二人を助けたいとナガレは思う。

だから三人の中で一番邪鉱石に詳しいライルに方法を尋ねた。

邪気のせいで苦しいだろうが二人を助ける為だ我慢してほしい。

「ゴホゴホ、邪気さえを払わえばなんとかなる。ゴホッゴホ、けど聖魔法でしか払えないから無理だ。」

「聖魔法で浄化・・・。」

―――要請を受諾しました。―――

―――保留状態である称号≪邪神討伐者≫とスキル≪破邪≫を獲得します。―――

―――≪邪神討伐者≫・・・邪神を討伐した者への称号。―――

―――≪破邪≫・・・あらゆる穢れを祓う力。―――

ナガレの願いがまたまた天?に届いたのか保留されていた称号とスキルを獲得した。

ナガレは本当に邪神を倒したのか疑問だったが≪邪神討伐者≫の称号を獲得して確信に変わった。

今までは自称邪神を倒した可能性もあったのだ。

実はそれ以上に≪神滅者≫の称号が邪神を倒したから手に入ったものだと分かったことのほうが大事だった。もしあの自称邪神が邪神じゃなかったらと考え・・・てはなくて背中を冷たい汗が流れた。

「と、とりあえず≪破邪≫。」

白い光が邪気を払い、紫がかった空気が浄化される。

「ライル、ゾル。大丈夫か。」

「あ、あぁ。もう大丈夫みたいだ。息も苦しくない。」

「(コクコク)」

空気中の邪気がなくなり二人の呼吸も楽になったようだ。

「で、ナガレは何をしたんだ?さっきまで息苦しさが嘘のように無くなった上に邪気で汚染されてた空気までが浄化されてるぞ。」

「なんか≪破邪≫ってスキルを使ったらこうなった。」

「え!え!お前聖人だったのか!」

「ビックリ。」

ナガレが《破邪》スキルを使えることを知ったライルとゾルは驚く。

《破邪》スキルは唯一遥か古の時代に邪神を封印した英雄の一人である聖人が使えたと言われるスキルだ。

もし《破邪》スキルを使えるのなら至上二人目の聖人として聖封院が認めるだろう。

聖封院とは邪神が再び復活したときに神の使者である神子を支援するために作られた宗教組織である。

邪鉱石を世界禁止指定鉱物としたのも聖封院である。

世界中に支部を持ち各国に強い影響力を持っている。

「聖人?違う違う。」

聖封院なんて面倒なものに関わる気がないのでナガレは全否定する。

宗教団体なんて碌な物じゃないというのはナガレのいた世界の歴史が物語っている。

宗教戦争、魔女狩り、テロ等々全て権力者が利用するただのツールだ。

「いや、でもお前《破邪》スキルを使えるんだよな?」

「《破邪》スキル?何のことだ。そんなスキルは使えないぞ。」

面倒事は嫌なのでとりあえず全力で誤魔化す。

上手く誤魔化しているかは別にして。

「ハァ~、まぁお前がそういうならそういうことにしておく。ゾルも良いよな。」

「(コクコク)」

ライルはナガレの心中を理解して話を打ち切った。

こちらの心中を察して無闇に踏み込まないライルと仲良くしておいて良かったとナガレは思う。

ライルにも高い戦闘能力に加えて《破邪》という伝説上のスキルを持つナガレに下手に踏み込んで嫌われるより仲良くなっておいたほうが良い付き合いができるという考えがあった。

「俺は奥の様子を確認してくるから二人は少しここで休んでくれ。まだ体調も回復してないだろうし。」

「まぁ、俺等が行ってもまた邪気にやられて倒れるだけだろうし、スマンけど頼むわ。」

ゾルも手を振ってナガレを見送る。

「すぐ戻るわ。《破邪》」

「おいおい、《破邪》スキルは隠すんじゃなかったのか?」

《破邪》スキルに触れないようにしているのに目の前で《破邪》スキルを使うナガレにライルは呆れる。

ただ邪気を払うに有効な方法が《破邪》スキル以外にないことと既に《破邪》スキルを使えることを知っているライルとゾルなら見られても構わないから使うのだ。


邪気を《破邪》スキルを使って浄化しつつ邪鉱石を見つけた場所まで戻ると様子が変わっていた。

邪鉱石から噴出した邪気が渦を巻いて集まっている。

「なんか嫌な予感しかしない。」

邪気の塊が脈打ち始めると同時に声が聞こえてきた。

「憎い憎い憎い!なぜなぜなぜ!殺せ殺せ殺せ!呪え呪え呪え!なぜ私が死なねばらなぬ!ヤツを殺せ!その金は俺の金だ!」

邪鉱石から溢れ出した邪気、つまり負の感情が集まり恨み言が坑道内に響きわたる。

「キモォ。」

ナガレも聞いていて気分が悪くなる声だ。

「お前も死ねぇ!」

一際大きな声が坑道に響くと邪気が脈打つのを止め何かを形作ろうとする。

「《破邪》」

がナガレは邪気が形になる前に浄化した。

―――称号≪邪気を払いし者≫とスキル≪土地改良≫を獲得します。―――

―――スキル≪土地改良≫は≪土魔法:極≫に統合します。―――

―――≪邪気を払いし者≫・・・邪気に侵された大地を浄化した者への称号。―――

「俺は戦隊ヒーローファンじゃないので変身を待ったりしない。」

卑怯だと言われようとも先手必勝、安全第一で行動することを決めているナガレに躊躇はない。

邪気が払われるとそこには青く輝くミスリルの塊があった。

「もう邪気はないから埋め直す必要はないよな。取りあえず持って行ってゾルに見てもらおう。」

ナガレは邪気の払われた邪鉱石を拡張バックに入れるとライルとゾルの元へと向かった。

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